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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
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第78話:油断

 ◆ユーリ◆


 リナリアは地面から石の槍を射出する。それは地面からただ生えてきただけではなく、地面から離れ、レイへと飛び出してゆく。その数およそ100。

 しかしそれをレイは空へ飛び、かわす。だがさらに石の槍はそれで終わらず、不可思議な軌道を描き、レイに殺到する。


「誘導弾か」

「んー、誘導ではあるが、自動ではないな」

「つーことは手動でリアルタイム操作してるのか」

「じゃろうな」


 なるほど。でもそれだとあれだけの数を操作するのは無理がなくないか?

 ……いや、100という弾を全て操作してるわけではないのか。100の点の操作ではなく、どちらかと言えば100ある弾という面での操作。そのせいか、レイが避けるたびにいくつかは地面に当たって消滅したり、あらぬ方向へ飛んで行ったりしている。

 あれをおおよそではあるが操作しているリナリアも凄いが、避けたり防いだりしているレイも凄い。

 なんし、どちらもヤバい。


「確か今ってリナリアが魔術使って、魔力を減らされてるんだよな、レイって」

「うむ? ああ、雷水解のことか。確かに徐々にじゃがレイの魔力は減らされておる。しかし、それでもレイの魔力が尽きる事はないじゃろうな」

「それはレイの魔力量が多いから、という意味でか?」

「そういう意味もある」


 そんなことを言っている間に、レイが全てを防ぎきって、特大の竜巻を作りだしていたりする。


「確かにレイの魔力量は多いじゃろう。しかしリナリアの技量がまだまだというのも理由の一つじゃ」

「ふむ、まだ発展段階なんだな」

「じゃがリナリアは後々化けるぞ」


 ノアがこちらを見てニヤリと笑う。

 俺としてはあまりリナリアに戦ってほしくないんだけど……、まぁ一緒に付いてきてくれと言ったしまったし、それは仕方のないことだろう。むしろ俺の背中を守ってくれるくらいに強くなってくれれば、俺も心配なぞしなくて済む。

 そこまで考え、俺もノアにニヤリと笑いかけた。

 その間にもレイとリナリアの戦いは加速する。

 リナリアは竜巻を、逆回転の竜巻で相殺。それと同時に右手に光る弾を作り、レイに射出した。


「なんだあれ、雷弾?」

「そうじゃろうな」


 俺より魔術の扱い上手いじゃねぇか。

 レイはそれをかわし、逆にリナリアへ一気に近付いた。


「お、決める気か?」

「うむ。しかしそれが吉と出るか凶と出るか」



 ◆リナリア◆


 当れば必殺だったはずの特製雷弾をかわしたレイは、こちらへ一気に近付いてきた。

 それを見て私は、両手を前で合わせた。


「雷天大壮!」


 八卦における乾と震の合成技。術者の筋力を底上げし、素早さも上がるという優れた技だ。


「ふッ!」


 レイが到達するであろう場所にフロントキックを放つ。しかしレイの姿がいきなり消え、すぐに下から気配を感じた。

 私はそこから片足でバク宙しそれを避ける。さらに空中からの雷撃。これをレイは体表面に薄く張った防御膜で弾く。……なんかずるい。

 私が地面に足をつくタイミングで足払いをされるが、そこはそれ。わざと足を曲げることで一瞬のタイミングをずらす。結果、レイの足を踏み台にしてちょっとした距離を開ける。

 次はこっちから……ッ!

 地面に足が付くと同時、雷天大壮によって強化された脚力で、レイの懐に踏み込む。


「ッ!」


 レイの驚きの声が僅かに聞こえたが、無視。

 ガラ空きとなったレイの腹部に雷混じりの肘打ちを食らわせる。

 吹き飛んでからの追い打ちは抜かりなく行おう。まずは地面を沼に変貌させ、機動力を奪う。そして空から特大の雷を落とし、下から石の槍。ついでに空気に圧を掛け、レイへ上空からの空気砲をぶつける。それを全て同時に行う……ッ!!


「坤! 震! 乾!」


 馴染みある八卦を唱える。

 そして生み出した四つの魔法は、レイに殺到した。


 ―――ドォンッ!!


 地震すら起こしかねない程の爆音が響き渡った。これで私の魔力はほとんど持って行かれたことになる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ここまで一気に魔法を使ったことがなかったからか、息が荒い。ついでに言うと、若干の眩暈もする。

 これで決めれたらいいんだけど―――


「……まさか、これ程とはな」


 いきなりの声に、弾かれたように空を見上げる。

 そこには悠然と超然と自然に空中に立つ、レイの姿が。


「……これで終わるはず、ないよね……」

「リナリアの本気に対し、私も敬意を持って応えねばなるまい」


 あれ、レイの一人称が“私”になってる? それに口調もいつもより固いような……。


「これで最後だ。これを受けて無事立っていられたら、私は負けを認めよう」

「……なによその条件」

「ふっ……、なに、ハンデなどと言うつもりはないが、私が満足できるかどうかで私の負けは決めようと思っただけだ」

「わけわかんない」

「そうか。それならもう、交わす言葉に意味は無し。いざ受けてみよ」



 ―――――光の雨(レイ)



 刹那、空全体が太陽になったのかと思った。今まで見えていた青空は、今は光り輝く何かで埋め尽くされている。


「なに……これ……」


 分からない。分からないけど……、これはヤバい。本能からの警告を私は茫然と受け止めていた。


「さあ、君はどうする?」


 その声を最後に、光り輝く空が堕ちてきた。



 ◆ユーリ◆


 あー、レイが本気になった。

 あの口調って、確か俺がレイと初めて会った時があんな口調だった気がする。ということは今レイは、龍人族として戦っているのかもしれない。そこには俺の知らない誇りというのがあるのだろう。

 さらに光の雨。あれは黒牙拠点破壊依頼でしか見たことないが、あの破壊力は目を見張るものがあった。

 光の雨はその名の通り、幾条もの光の線が降ってくる魔術だ。

 あれをリナリアが凌げるかどうかだが……。


「ふむ………」


 隣を見ると、ノアは腕を組み、掃射が終わり粉塵に包まれる舞台を見つめていた。

 俺はすぐに目を離し、舞台を見る。

 良く考えれば、リナリアはレイの口調と光の雨は記憶にないんじゃないかと思う。口調自体はそもそもたぶんリナリアの前で披露したことないし、光の雨もあそこから脱出したばかりで精神が最大級に不安定だった時の出来事だ。はたしてどれだけ記憶に残っているのか、いささか疑問が残る。


「はたして、どうなるか……」


 その声が届いたのかどうかは分からないが、一陣の風が舞い、砂煙を一気に払う。


 果たしてそこには―――、舞台に立ったままのリナリアの姿が。


「ええ!? リナリアが立ってるだと!?」


 ありえなくなないけど、耐えれる確率なんてほんのわずかだったはずだ。それを凌いだというのか?

 場内の観客も、この事態に喜びの声を上げる者と疑問の声をあげる者に分かれていた。


「……どういうこった? でもリナリアが立っているのは確かだしなぁ」

「………」


 俺の声に、なぜかノアは黙ったままだった。


「ノア?」

「………まったく、無茶しよってからに」


 なんだ? なんでノア困った顔してるん?

 そう思い、もう一度リナリアを見る。


「………あれ?」


 どこか違和感を感じる。なんだ?


「なぁノア。なんか違和感を感じんだけど」

「そりゃそうじゃろ。尻尾が四本になれば、そりゃ色々違うわい」


 ………んん?

 良く見る。目を擦る。もう一度見る。

 ……………リナリアの尻尾が四本なんですけど。


「ノア」

「ん?」

「簡潔に説明して」

「九尾はレベルが上がり、天狐に進化しました」

「はぁぁぁぁあああああああああ!?!?」


 なんでだよ!! これじゃあリナリアの尻尾をモフモフ出来ないじゃないか!!!


「問題はそこなのか……、いやホレ、リナリアを見るのじゃ」

「え?」


 再びリナリアを見ると、どこからともなく、もさぁ、と五本の尻尾が現れた。ということは再び九尾に逆戻り?


「ノア」

「天狐はスーパーサイヤ人モード」

「把握」


 まぁ細かい説明は後でしてもらおう。



 ◆レイ◆


 ………まさかあれを耐えきるなんて。本当に、これほどとは思わなかった。


「凄いな、本当に。短期間でよくぞここまで登り詰めた」

「はぁ、はぁ、……あたしにだって、譲れないものがあるのよ……」


 リナリアの顔色は優れない。やはり先ほどの爆発的な魔力の増加は、体にそれなりの負担を強いるものだったのだろう。

 なにはともあれ。


「これで、あたしの、勝ちねッ!」


 リナリアは花が咲いたような満面の笑みとともに、僕にピースをした。

 それを見て、僕もつられて笑ってしまう。


「ああ、約束だしね」

「でも、ね。もう限界だわ……、あと、よろし……く……」


 ふらりとリナリアの体から力が抜ける。あわてて体を支え、残ってる魔力を見てみると、もう後は生命活動に必要な分しか残っていなかった。

 というかこれはこれでヤバい状況なのでは?


『リナリア選手の気絶により、勝者レイネスティアぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!』


 と、ここで審判からのコールが上がった。まぁ気絶したのなら僕が勝ちになるだろう。

 でも、約束は約束だ。


「ねぇ、審判さん」

「あ、はい。丁度いい、ついでに勝者インタビューにしてしまいましょう!! どうでしたか今回の試合は!?」


 審判がなぜか僕にマイクを向けてくる。こんなのって審判がする仕事じゃない気がするんだけど……、まぁいいか。

 とりあえず言いたいことだけ言っておこう。


「次の試合、僕は棄権します」

「はぇ?」


 審判の唖然とした声がマイクを通して会場に木霊した。

 ってそれは置いておこう。


「ユーリ! ちょっと来て!」

「なんじゃらほい」


 呼んだ次の瞬間には隣にいた。なにそれこわい。


「どした?」

「い、いや、なんでもない。リナリアの魔力が底についてて危険だから、譲渡してくれない?」


 僕が譲渡することもできるんだけど、どこかリナリアの魔力とは合わない気がする。魔力の質が、僕よりもユーリの質に似ているのだ。今は弱ってる時だし、なるべく似通った魔力を渡した方がいい。

 しかしユーリはなぜか困った顔をしていた。なぜだろう。もしかして譲渡の仕方が分からない?


「どうやって譲渡すんの」


 予感的中。


「わらわがやるからよいぞ。下がっておれ」

「ん、ノアか。すまんな」


 これまたいつ現れたか分からないノア殿が、リナリアの額に手を当てる。

 これで大丈夫、かな。



 ◆ユーリ◆


 この時俺は、油断していた。

 いや、油断とはまた違うか。忘れていた、という表現の方が正しいかもしれない。

 なんにせよこの時の俺は、今自分が何のためにここに居るか、完全に忘れていた。目標はマルス祭優勝で、自分の実力をクレスミスト王国の各大臣や貴族などに見せつけ証明することだと、勘違いしていた。

 違う、そうじゃない。

 元々俺はなぜマルス祭に送られた? それまでどこにいた? そこではなにをすべきだった?

 俺は何のためにここに居る?


「………?」


 良く分からない違和を感じた。


「どうしたんじゃ?」

「どうかした?」


 ノアとレイが話しかけてくる。リナリアはまだ気絶したままだ。


「いや、……なんか胸騒ぎがするというか……」


 自分でも上手く説明できない。

 ありていに言えば、こうだろうか。


 ―――嫌な予感がする。


「ッ!!」


 その時、急に悪寒がした。


「ノア! 何か―――」


 ―――バリィン!!


 その時、何かが割れるような音がした。


「ユーリ!!」


 ノアの叫び声。

 なぜかゆっくりとした時間の中で、俺はゆっくりと振り返る。


「―――」


 俺はソレを辛うじて視界に収めることに成功した。

 しかし、嫌に冷静な頭が判断する。

 無理だ、と。


 ―――ブチッ


 何かの断裂音。

 いや、分かってる。

 これは俺の胸から聞こえた音。


 ―――鉄の矢が俺の胸を貫いた音だ。


「………な、カフッ」


 口から紅い液体が漏れ出た。おそらく食道か肺かを貫いたのだろう。

 ああ、これはヤバいなぁ。

 どこか他人事のように思い、目の前が一瞬でブラックアウトした。


「ユーリぃ!!!」


 叫んだ声は誰だったのか。それすら分からず、俺は倒れた。

 お久しぶり過ぎです。芍薬牡丹です。この名乗り上げが久しぶり過ぎる。


 すいませんでした。いろいろ設定に縛られて、身動きできませんでした。なので新しい展開にもっていきました。いろいろ詰めないといけないところはありますが、とりあえず好き勝手やろうかな、と。

 そういえば私のパソコンがずっと調子悪かったので、明日あたり初期化準備に入りたいと思います。これで直ればいいのだけど……。


 それではまた次回。失礼します。

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