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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
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第77話:八卦六十四卦

 時刻は間もなく昼ごろ、と言ったところか。

 今日は身内の第3回戦最終試合、つまるところ、レイとリナリアの試合がある日だ。

 俺はすでに席に座らず、立ったまま観戦している。というのも、今いるのは観客席ではなく、舞台袖というか野球場で言うところのベンチにあたる場所で見ている。横にはノアがいつも通りの顔で舞台を見守り、舞台を挟んで観客席の上部、貴賓席のど真ん中にはアンネが豪奢な衣装を纏い、鎮座している。

 観客席は今日も満員御礼。………いや、若干いつもより人が多いように思える。たぶん満席ではないだろうか。

 まぁ、それはそうだろう。なんてったって、微笑みの魔術士イケメン野郎のレイと超絶美少女狐っ娘のリナリアの試合だ。俺がリナリアを知らなかったとしても、この試合に足を運んでいたように思う。

 レイは山岳用のブーツみたいなものを履き、上半身を覆い隠すように色々と幾何学的な模様の描かれたマントを羽織っている。元の世界では考えられないエメラルド色の髪の毛が風にふわりと流され、もうすげぇカッコいい雰囲気を出している。しかしながらいつもは優しげな眼が幾ばくか鋭くなっているのは、やはり相手がリナリアだからだろうか。

 そしてそのリナリアは裸足で舞台に立ち、涼しげなセレスト色のサマードレスを着ている。それは首に巻かれた奴隷の証、瑠璃色のチョーカーが、とても似合ってるね。


「………ま、未だに奴隷って言葉には嫌悪感しかないけどね」

「ん? 何か言ったかの?」

「いや、なんでもないよ」


 そう、なんでもない。この世界の住人にとっては、なんでもないことなのだ。

 ………はてさてそろそろ時間なのではないかな? 審判が2人の間に歩き寄っている。


「ノアはどう見る?」

「………この試合のことか?」

「うん」


 ノアはしばし目を瞑ったが、案外早く目を開いた。


「師匠としてはリナリアには頑張ってほしいところじゃな」

「………そっか」


 頑張ってほしい、か。なんとも曖昧な言葉だ。

 しかし、たぶんその言葉の意味するところを、俺は正しく理解していると思う。

 そう、リナリアは―――



◆リナリア◆


 負けられない。

 それが今の私の根底にはあった。


「始めッ!!」


 審判の声が響く。それと同時、両手を強く叩きつけた。


 ―――パンッ


 それは拍手。明確な意思と力があれば場を清めることが出来るが、私にとっては自分の“場”を作ることにほかならない。鳥の場は空、魚の場は海。個々によって自分の能力が最大限発揮することのできる場は違う。私は拍手によって半強制的に自分の場を作ることが出来るのだ。

 そして今この瞬間、ここは私の場。最初から全力で行く。


「まぁそうくるよね」


 私が場を作るその一瞬でレイはすでにすぐそこまで迫ってきていた。風かなにかの魔法を使ったのだろう。私はそれを紙一重で避ける。


「ッ! 不意打ちとは汚いわね」

「もう試合は開始してるしね。意識逸らした方が悪いよ」


 まぁそれもそうね。

 そう思いながらもそのまま体を勢いよく横へ投げ、瞬時に作った石の槍を5本投擲する。が、それは当り前のように避けられた。くそぅ。


「まぁ早めにリタイアすることをお勧めするよッ!」

「その言葉、そのままお返しするわ!」


 レイは避けた勢いをそのままに転がり、舞台を勢いよく殴った。

 するとどうだろう。舞台の石がせりあがったと思ったら、4メートルほどの石で出来た人形みたいなのが出てきた。これってあれだよね………。


「ゴーレムまで作れるの……?」

「結構自信作なんだ、これ」


 レイは飄々と応える。

 ゴ-レムは高難易度の魔法だったはずだ。無機物に擬似的な意思を与え、ある程度の自立行動を可能とした魔法。これだけ見れば労働させるのにちょうどいい気もするが、魔力消費量が半端じゃないらしい上に、制御が非常に困難である。それゆえ、広く使われることはない魔法だ。

 しかしながら戦闘、特に短期決戦においてゴーレムの価値は計り知れない。なんたって、2対1になってしまうのだから。


「それは流石に酷くない?」

「これも魔法さ」


 その言葉と同時、ゴーレムが突進してきた。そんなに速いというわけではないが、それでも一般人に比べれば相当速い。


「くッ!」


 近付いてただ殴るだけのゴーレムに、私はとっさに落し穴を空けた。これだけの質量に押しつぶされるのは、非常に拙い。

 私が集中して魔法を行使すると一瞬にして半径1メートル、深さ5メートルほどの穴が空き、そこにゴーレムは落ちてしまった。

 それに安堵してしまったのがいけなかった。


「僕のこと忘れてない?」

「!?」


 気付けば背後からレイの声。


(ヤバい……!!)


 そう思うが技後硬直に陥っていた私には、かろうじて振り返ることしかできなかった。

 そこに見たのは―――


「光刃二閃」


 両手に光の剣を交差するように構え、今まさに―――


 ―――ズバンッ!!


 体を開くように薙ぎ払ったレイの姿だった。


 ………そうだ。レイの得意魔法はなんだった? 風系統だ。土は得意ではないはず。

 つまりあのゴーレムはただのフェイク。囮の役目でしかなかった。

 レイの攻撃で吹き飛ばされながらそんなことを頭の隅で考える。


「安心するのはまだ早いよ」


 舞台に体を投げ出されながら薄眼を開くと空高く跳び上がったレイの姿。

 そしてその手には、光の剣。


「ちょっと、それは拙いんじゃないかしら……!?」


 そんな呟きなどレイの耳に届くはずもなく、無情にもレイの次の手が放たれる。


「突き刺せ光刃!」


 その手から2本の光の剣が矢のように発射される。私はそれをまだ満足に動けない体を必死に捩じり、なんとか掠りながらもかわした。しかしその拍子にご主人様から貰った服が破れてしまい、レイに殺意が芽生える。

 しかしそれすらもまだ序章。

 私は頭の隅に何か掠め、それが何か気になっていた。

 光刃。それはいったいどんなものだった?


「ちょっと待って………」


 思い出せ。早く。早く!!

 レイはどんな戦い方をしていた?

 前哨戦。

 50人による乱戦。

 レイとスィードの共闘。

 光刃・四閃。

 ………そして。


「それは本当にヤバいんだけど!?」


 そんな私を無視するかのように、レイの口は無情にもその言葉を紡ぎだす。


解放(エレウテリアー)!」


 次の瞬間、舞台は大爆発に見舞われた。



 ◆レイネスティア◆


 光刃二閃。投擲。そして解放による大爆発。

 このコンボは僕の使うもっともポピュラーなコンボだ。さらに続けることも出来るが、流石にそれはやりすぎだろう。


「………さて、これで倒れてくれれば一番いいんだけど」


 舞台には濃い砂煙が立ち込めていた。それはそうだろう。魔力の塊である光刃をオーバードライブさせて爆発させる魔法なのだから。

 だからこそ、これが必殺のコンボなのだけど―――


 ザァ、と一陣の風が吹く。


 そこには、片膝を折り、両手を前へ出し、荒い息をしながらも防御しきったリナリアの姿があった。


「そう簡単にはいかないよね」


 僕は鋭くリナリアを睨み、改めて戦いに集中することにした。



 ◆リナリア◆


 危なかった。師匠に結界の在り方を教えてもらってなかったら今ので墜ちてた。

 私が展開したのは防御の楯ではなく、結界。

 結界とは防御とは全く違い、結界内の穢れを否定するという、非常に苛烈な魔法だ。だからこそ、レイの一撃を凌げたともいう。


「………もう本気で行くわ」


 誰にでもなく呟く。

 あちこち怪我をしている。手にも裂傷が走ってるし、今の衝撃で耳に斬り傷が入った。足も怪我してる。そして………そのすべてから血が出ている。

 捧げよう、私の血を。

 そして、見せてあげる。私の力を!

 私は結界を解くと、声高に叫んだ。


(かん)!」


 坎。八卦においては耳、そして水を意味する。有する力は、“流”。


(しん)!」


 震。八卦においては足、そして雷を意味する。有する力は、“動”。


 そこから私はさらに発展させる。すなわち―――


「術式融合、雷水解らいすいかい!」


 ―――混合魔法。

 有する力は、“分散”。


「らいすいかい………? なんだそれ?」


 レイが疑問の声を上げる。きっとご主人様も知らない、私だけの魔法。

 八卦はっけ六十四卦ろくじゅうしか


「今更何をしたってどうにも………、ん」


 遠くでレイが奇妙だとも言うような顔をした。

 それはそうだろう。それこそが私の魔法だ。


「おいおい………こりゃあまた………。僕の魔力がどんどん無くなっていってるんだけど」


 雷水解による魔力の分散。つまりレイの魔力を殺ぎ落としているのだ。これはどちらかと言うと攻撃的な魔法ではなく、補助魔法に区分されると思う。

 レイは吃驚したのか、無意味に両の掌を見ながら呟いた。

 ………チャンス。


かん! しん!」


 乾は天、震は雷を意味する。

 そして―――


「術式融合、雷天大壮らいてんたいそう!」


 ―――融合。

 雷天大壮が有するのは、“力強さ”。

 文句なしの攻撃魔法だ。


「はぁッ!」


 雷速とまではいかないが、今までと比較にならないほどの速さでレイの背後に回り込む。


「だぁぁぁあああ!!!」


 拳に雷を乗せた一撃を背中に見舞う。


「クッ!」


 しかしレイはそれをくらいながらもこちらへ向けて風の刃を放つ。

 その数実に30余り。

 それがとめどなく私を襲う。私は舞台から土の壁を作り、それを防御壁としておく。


「乾!」


 その土の壁に隠れながらも、その間に乾と唱える。


「降って、雷」


 そう言った瞬間、一条の光が天から雷速で飛来する。その名の通り雷速で死角からレイに降り注ぎ、その速度に追いつけず、レイはダメージを受ける………はずだった。


「まだまだ甘い!」


 いつの間にか舞台に片足をついた状態で持ち直していたレイは片手を空へ向けると、勢いよくその手を振った。

 次の瞬間、


 ―――ダァンッ!!


 凄い音がしたと思うと、降り注いだ雷はレイの手によって弾かれた後だった。


「嘘……でしょ……」


 なんなの今のは………。雷を薙ぎ払ったように見えたけど………。


「………どうやったのよ?」

「別にたいしたことじゃあないさ。ただこうして―――」


 一瞬呆けた私をレイが見逃すはずがなかった。

 次の瞬間にはレイは視界から消え失せ、その時点ですでに懐に入りこまれた後だった。

 そして、


「―――魔力で流しただけだよ」

「が、ぁアッ!」


 何事かも分からないまま、私は吹き飛ばされた。

 痛い。お腹を殴られたみたいな衝撃だった。でも、どうやって雷を防いだの?

 私はなぜか引き延ばされた時間の中で高速思考する。

 レイは言った。魔力で流した、と。ということは自身の体から魔力をそのまま流し、それによって雷を流しいなした、ということか。

 今は雷水解の影響で魔力は減り続けているはずだ。つまり魔力の出力が安定しないことを意味している。その上での、この現象だ。

 私は川の流れを思い出した。例えば洪水で激流と化した川の底に、棒を付き立てようとしてみたとする。しかし棒は激流に流され川底にはたやすく触れようともしない。この場合、棒が雷、激流が魔力、そして川底がレイだ。

 そこまで考えて、やっと体が舞台の床に投げ出された。この間、一秒にすら遠く及ばない時間。私は不思議な体験をしたと思う。


「づぁッ!」


 痛みを堪えてレイを見る。レイは攻撃を仕掛けるでもなく悠然とただそこに立っていた。

 悔しい。それはあたかも弱者を見るような立ち振る舞いだったからだ。

 極めつけがこのセリフである。


「降参する?」


 舐めやがって。

 お久しぶりです。遅れて申し訳ございません。


 今回は随分と久しぶりに書いたので、文が散らかってる気がしてなりません。思うところがあったら助言下さると幸いです。


 また、最近ツイッターかなり使ってるので、フォローしていただけるとありがたいです(@liliumcat)。


 次はもっと早く投稿できるよう頑張りますので、これからも宜しくお願いいたします。


 ではでは。

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