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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
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第75話:確執

 マルス祭第3回戦第1試合。

 俺は今、舞台に上がっている。

 今日は生憎の雨天だ。そういえば雨が降るのは久しぶりな気がする。


「ちっ。風邪引かなきゃいいけどな………」


 俺は目に入る雨粒に注意しながらも空を見上げ、小さく呟いた。


「余所見していていいんですか?」


 俺は空を見上げていた視線を正面へ戻す。刹那、伸びてきた追尾する水の鞭のようなものをかわし、逆にこちらから石飛礫いしつぶてを約時速200キロで飛ばす。しかしそれを彼女はひらりと避けた。

 そして未だ追尾を続ける水の鞭に俺は無理矢理自分の魔力を叩きつけ、術式自体を瓦解させる。そして、水の鞭は重力に従い、舞台に広がる水溜まりの一部となった。


「大丈夫だ、余所見はしても油断はしてない」

「そうですか」


 対戦相手は前回準優勝したらしい、カルミナという水魔術を得意とする魔術師だ。白っぽい髪を肩上くらいまで伸ばしていて、後ろで2つに結んでいる。背は150ちょっとといったところか。アンネと同レベルだな。

 今日は生憎の雨。完全に相手のホームグラウンドと化している。


「次行きますよ」

「教えてくれるなんてありがたいね。涙が出そうだ」


 カルミナは手を地面につくと、膨大な魔力を注ぎ始めた。それを見た俺は全力で飛び上がる。

 瞬間、舞台全体が水の針で埋め尽くされた。


「うわ、エグい魔術使うなぁ……!」


 下にいたままだったら串刺しだった。こいつ、根っからの後方支援型っぽいな。つまり、究極的には砲台の役目だ。そして範囲攻撃がお得意、と。

 ならばこちらも雨を……いや、雲を利用させてもらうぜ。


「雷よ!」


 俺は未だ飛び上がった格好のまま、空に手をかざした。

 そして、俺は下ですでに防御魔術の構築に入っているカルミナに静かに告げた。


「死ぬなよ」

「問題ありません」


 その時。カルミナは今までの無表情から一瞬笑みを覗かせ、そう言い放った。

 それに俺も笑みを返しつつ、術式を完成させる。


「雷雨!」


 そう言った瞬間、雲間から一条の雷光が舞台に落ちた。周りで見ていた観客は、カルミナから離れたところに落ちた雷に不思議がっていたが、その疑問も一瞬後に解消した。……いや、させられた。


「………ッ!?」


 カルミナがその大きな瞳を、さらに大きく見開き驚きの表情を見せる。

 それもそのはず。

 雷光は一条では済まなかったのだ。

 二条、三条、………立て続けに雷が落ちる。その際に生じる轟音と強烈なフラッシュは、よもや人の平衡器官を狂わせるほどだ。

 今放った雷雨という魔術。天候で言うところの雷雨は雷を伴う雨のことだが、これは似て非なるモノだ。………まさに、雷の雨、なのだ。雨がごとき雷の数。それこそ先ほどカルミナの放った範囲攻撃など比べ物にならないほどの。


「くッ!」


 カルミナは必死にこれを耐えていたが、10秒もすれば次第に防御が剥がれていく。

 周囲があり得ないほどの光と音に支配される中、カルミナは徐々に防御を剥され、ついに、


 パリィン――………


 割れた。


「―――――ッ!!!」


 全身に雷を受けてしまう!!

 そう思ったのかカルミナが体を縮こまらせたが、一向に衝撃は来ない。

 そうして恐る恐る開かれた目に映り込んでくるのは、俺の姿。ただし、カルミナの首に刀を構えた姿だったが。


「降参だよな?」


 俺はにこやかに告げる。

 それを見たカルミナは一瞬ポカンとしていたが、軽く息を吐き、呆れたように言った。


「やるなら気絶させればいいのに………。おかしな人ですね」

「いやいや、女性を傷つけることは出来んて」


 そういうと、カルミナは苦笑を漏らした。


「それにな」


 俺は続ける。


「可愛い少女ならなさらだ」

「ッ!?」


 ニヤリとして言うと、面白いようにカルミナの顔は真っ赤になり、顔を背けた。


「………分かりました、降参です。………本当に不思議な人ですね」

「誉め言葉として受け取っておくよ」


 カレリアの降参宣言と同時、会場が歓声に溢れた。相変わらずの音響兵器並の声量だな。さっきの雷鳴とタメ張れるんじゃないか?

 俺は刀をポイッと投げて、亜空間にしまう。それを見たカルミナは驚きに目を丸くさせた。


「亜空間魔法………まだそんな手を持っていましたか。ということは、私では貴方の実力を出させるまでには至らなかったようですね」

「いや、結構いい試合だったぜ?」


 実際そうだ。俺自身、凄く楽しかったし、勉強になった。


「ま、いいや。んじゃ、またいつか」

「ええ、またお会いできるといいですね」


 そういうと俺は、歓声鳴り響く会場を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆



「っだー、冷てぇ」


 舞台袖に入ると、俺は雨で濡れた髪の毛をタオルでガシガシと拭いた。ちなみにだが、観客席はなんかの魔術で、雨が掛からないようになっているらしい。魔術便利だな。防御魔術の応用か?


「おーい、ユーリ」

「あぁ? おー、ノアか。どした?」

「いや、濡れておるじゃろうと思っての」


 現れたノアはこちらに手をかざした。するとどうだろう。温風が放たれたではないか!


「どうなってんだ?」

「いや、ただの風と火の魔術を組み合わせただけじゃよ。簡易ドライヤーじゃの」


 ………魔術便利だな。


「さてユーリ。次はサンローズの戦いじゃが………見るか?」

「む………」


 サンローズか………。うーん、まぁ普通に考えて見ておいた方がいいのはいいんだろうけど、………。


「気は進まん、か」

「ん、まぁな。つってもそんなこと言ってられんか」


 一応見ておかなければならない気がする。もしこのままサンローズと戦うなんてことになったら、前回の二の舞となってしまう気がするし。

 俺自身落ち着かないといけない、かな。


「っしゃ、行くか」

「うむ」


 そう言うと、俺達は観客席へ向かうため、階段へ向かっていった。



◆サンローズ◆


「試合開始ッ!!」


 審判の声が響く。

 今日の生憎の雨は、私の得意な火とは相性が悪すぎた。

 ………だからといって負ける気はサラサラないんだけど。


「一瞬で終わらせてやるよ」


 相手の長身痩躯の男が笑いながらそう言って手に水の剣を構えるが、その時私はこう思った。


(そのセリフ、絶対フラグよね)


 フラグ、という言葉は元々使ったことはなかったが、あの特別近衛騎士が城内にいる時、まれに知らない言葉を発することがあった。その言葉は日常生活で使い勝手がよいものが多く、城内では割と良く使われている。

 そして実は、その言葉は城下の人間にも少しずつ広まってきているというのだから、アイツの影響力は凄いと言わざるを得ない。城にいる間もよく城下の街へ散策に行っていたらしいし、民からの人望も厚い。

 なんだかなぁ、と思ったりもする。自分でも言っていて意味が分からないが。


「さぁ、神にお祈りは済んだか?」


 私に祈るべき神などいない。

 そんなもの、何年も前に死んでしまった。


「グダグダと五月蠅いわね。遠吠えは私の聞こえないところでやってちょうだい」

「なんだと?」


 男の空気が変わる。

 しかし逆に言えば、やっと今になって変わった、ということ。遅すぎる。

 私はこっそり足裏に集中していた魔力を解き放つため、右足で舞台をタンッと叩いた。

 瞬間、


「うッ! な、なんだこれは!?」


 舞台から霧のようなものが立ち込め、視界が零になる。

 魔法なんて単純なもの。舞台上の水溜まりを一気に熱し、水蒸気を作り出しただけだ。

 そして、これが一番のチャンスだ……!


「疾ッ!」


 小さく息を吐き、私は男へ向かって行く。火系統を得意とする私にとって、男の体温からどの位置にいるかなんて、目で見ているように分かる。………いや、むしろ熱を視界なしで感知できるのだから、目よりも分かるかもしれない。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、手に魔力を集める。


「どこだ! どこにいる!!」

「ここよ、マヌケ」


 大声を出してくれるんなら、熱感知なんか出来なくても倒せたかもしれない。

 私は男の腹部に右手を合わせ、全力で殴るとともに、手のひら大の水球を作り、発射した。


「ぐふぉッ!!」


 男はそのまま吹っ飛んでいき、場外どころか観客席まで飛んで行った。そして勢いよく観客席にぶつかり、砂煙が舞い上がった。。

 あ、やっちゃったか。そんな軽い気持ちで見ていると、砂煙の晴れたそこには、………因縁深い人物が男を抱え、こちらを見つめていた。



 ◆ユーリ◆


 あ、あぶねぇ………。当たるところだった。

 気をつけろよサンローズ! 投げるのは別にいいけどよ!!


「投げるのは良いのか」

「心読むなとあれほど」


 ノアが冷静にツッコミをくれたおかげで、冷静になった。

 飛んで来た男は普通に防御して防いだが、舞い上がった砂煙はどうにもならない。仕方ないのでミストを空気中で舞わせ、浄化を計ることにした。


「うむ、いい感じ」

「じゃのぅ。しかしてユーリ」

「んー?」

「実はリナリアが先ほどからサンローズを凝視しておるが、そっちは良いのか?」


 ………。


 ちらり、と隣を見る。


「……………」


 ………あ、あの、リナリアさん? 瞬きくらいして欲しいんですが………。


「ご主人様」

「はい」


 なぜか敬語な俺だった。


「なんでサンローズが?」

「え、いや、それは知らないです」


 未だこちらを見ないリナリア。どないやねん。


【なんで関西弁やねん!】

【なんかリナリア怖くて言葉を発しづらいからって念話を使ってまで突っ込むノアに惚れたぜ!】


 その前に心読まれた件についてはもう諦めた。


「ご主人様は知ってたの? サンローズが出てるってこと」

「あー、うん。まぁ、知ってた。すまん」

「ふぅん………ま、いいけどね」


 リナリアは息をフーッと吐いて、背もたれに身を預け、視線を空に向けた。

 とはいっても、俺だって知ったのは最近だ。それにリナリアとは確執が大きいし、せっかく最近安定していたリナリアをわざわざ不安定にさせると言うのも、酷な話だ。もちろんいつか言わなければならない、もしくはいつか気付く話ではあったのだが、でもたぶん、それは今ではなかった。出来ればなんか対策というか、対応というか、そんな感じのを考えておきたかったんだが………今更か。


「じゃあ次はサンローズと戦うかもしれないんだね」

「ん? ああ、そうだな」

「………別にね、サンローズに対してはもう怒ってるわけじゃないの」


 リナリアは呟くように続けた。


「サンローズは………なんだろ、どこか壊れてるように感じたの」

「壊れてる?」

「うん。壊れてる、なんて言うと失礼だけどね。ま、なんていうか………ご主人様!!」


 いきなり大声を出され、びくっとする俺。


「な、なんだよ」

「勝ってね」


 なんて、綺麗な笑顔で言うもんだから、どうするかなんて決まってしまった。

 それに加えて言えば、前哨戦ですでに怪我しないと約束しちまったしな。流石に怪我をしない、なんてのは難しいとは思うけど、なるべくは悲しませたくない。

 まぁなんつーか、結局こういうことを言うしかないんだよ。


「任せとけ」


 そう言って、俺は不敵に笑った。


 そういえば本当に今更だけど、なんでリナリアとサンローズはあの日、戦ってたんだろう?

 どうも。


 まずは、200万PVありがとうございます!

 いつの間にかいってました。すいません。というかすでに214万いってます。


 最近なんだか指がツン状態です。今回の話も数日に分けて書いたので、どこか矛盾やら誤字脱字やらあるかもしれません。見つけられた際はご連絡いただけると幸いです。

 あと、活動報告でも書いてますが、PixivだったりTwitterだったりみてみんだったり、色々やってます。宜しければどうぞ。


 それではまた次回。


 ではでは。

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