第08話:危険察知センサー
「へぇ、アンネは王女様なんだ」
「ええ、そうなんです。だからさっきは驚いちゃって」
あれから俺たちは村長さん(名前はゴルドーというらしい)にお腹がすいたと相談すると、すぐにそれなりの昼食を用意してくれた。というのも、村に外から誰かが来るというのはとても珍しいことらしく、村人たちがえらく歓迎してくれたのだ。その時、少しずつ食べのもを貰った結果、かなりの量になってしまったのだ。
それもひとまず落ち着き、少し遅い昼食をいただいている。
「んじゃあ、アンネルベル様、とでも呼んだ方がいいのかな?」
「いえ、出来ればそのままがいいのですが………」
「おっけ。俺も丁寧語は苦手だからこのままでいさせてくれると助かる」
そう言って苦笑すると、アンネも笑ってくれた。
自己紹介をしてから少ししか経ってないのに、馬があったのか、俺たちはすぐに打ち解けられた。
そのため、一応の目的も出来た。それは、アンネをもとの城へ返すこと。
「とりあえずメシくったら村ん中でも探索すっか」
「はい、そうですね」
「ノアもそれでいいよな?」
「んぁ?」
と、猫のままで顔をあげたノアは、スープが口の周りに付き放題だった。
「ほら、ノア。口の周りが汚れてんぞ」
そう言って、布で口を拭いてやる。
「んぉ、すまぬな」
「それはいいけど、お前良く食うな」
「わらわは別に食わんでも生きていけるのじゃが、それでは精神が死んでしまう。こういった嗜好品は、わらわたちにとってはわりと重要なことなんじゃよ」
「わらわたちっつーと、なんだ、神々?」
「じゃな」
「なるほどなー。ま、人の寿命とか余裕で越えるだろうから、俺にはイマイチ理解が追い付かないけど………」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「あン?」
と、そこでアンネの待ったが入った。
「神々、とはどういうことでしょうか………?」
あ、やべぇ。
「あー、俺そんなこと言ったかな?」
「言いました」
即☆答!
「ノア、ばらしてもいい?」
「わらわの正体くらいなら構わんぞ?」
つまり異世界がどーのこーのはナシ、と。
「アンネ」
「はい」
「これは内緒な?」
「ええ、もちろんです」
ふぅ、と息を吐く。
「ノアは猫神なんだ」
「かッ………、かみ……さま……?」
やっぱこんなこといきなり言われても混乱するだけだよな。というか頭の残念な人と思われるだろう。
「いや、いきなり何言ってんだとか、信じられんとかはあるだろうが、一応本当らしい」
「だ、だから魔力を感じなかったのですね………」
おや? 案外すんなり受け入れられた?
「思ったよりすんなり理解すんだね」
「いえ、先ほどから気になってたことがあったんです。それが、ノアさんが神様だとすれば筋は通ってますので、可能性はとても高いのではないかと判断しました」
この世界では神というのはどういった捉え方をされているのだろう。普通に神とかいるんだろうか。
にしても、ノアが神だってよく信じられたね。俺なんか最初は無視しようとしてたのに。
「ま、いいや。そんな感じなんで、とりあえずアンネを城まで送ってくよ。何かと物騒そうだしね」
「いいのですか? 旅をしていたと言うからには、何か目的があったんじゃないですか?」
まぁ霊域破壊の目的があるんだが。
「ノア、霊域の場所分かるか?」
「分からん」
「てわけで、当分はアンネと城に向かいつつ、情報収集だな」
なんという連携。流石俺の猫だ。ノアもそれなりに俺のことを理解してくれているみたいで、実はちょっと嬉しい。
「え、あ、ありがとうございます。よろしくお願いします、ユーリさん、ノアさん」
「おう、よろしくなー」
「よろしくたのむ」
こうして、仲間が増えた。
ただし、戦力に加えるのがはばかれる相手ではあるが。
いやだって王女だぜ? 俺もまだこの世界のことを全然理解い出来てないけど。王国と呼べるほどの莫大な土地を持つ国王の娘なんだから、それはもう………なんだ………すごいのだろう。
頭悪くてすまん。でも、実際どれくらいすごいのかなんて、日本出身の俺には分かりませんよ。
「さて、昼食も終わったところで、村の探索でもしますかね」
「うむ。どうじゃ、アンネ。お主も来るか?」
「あ、はい。行きます」
と、そこでアンネの服装を見る。
………ドレスです。
「流石にそれじゃあなぁ………」
「ユーリ、それくらい創りだせるじゃろ」
「………また魔術?」
「うむ」
それはいいけど、アンネの前で使っていいのかなぁ………。
「サイズが分からんと創れんじゃろ。それなら目で見ながら創った方が良い。………それとも何か? ユーリはアンネのサイズをじっくりたっぷりあますことなく調べ上げたいのか?」
「なぜそんな卑猥な言い方をする! ほら卑猥すぎてアンネがポカンとしてんじゃねーか!」
「おそらくアンネは理解してないだけだと思うが………」
後で聞いたところ、実際よく分からなかったらしい。
「じゃあ別にいいけどよ。で、どうすんだ?」
「お主の魔術特性は、“概念”と“解析”じゃ。今ユーリが着てる服を解析して、アンネにも着れる服を複製・創造すればよい」
なるほど、わからん。
「まず、魔法の使い方を教えてくれ………」
「気合いじゃ」
「なるほど気合いか。よしやるぞ……って無理だよ!!」
ノリツッコミだった。
「今のお主なら、体を巡る、血とは異なる感覚が分かるじゃろ。さっき枷も外したしの」
枷を外したって、もしかして落下時のことだろうか。
とりあえず、意識を体の内側へ向けてみる。と、それは案外簡単に見つかった。
「ああこれか。なんで今まで気付かなかったんだろう」
「ま、意識するまで気付かないものは多いんじゃよ。さて、さっさとゆくぞ」
はいはいっと。
えーっと、服を解析。複製。想像。ズボンだとアレだろうからスカートにして、っと。………よし、創造。
ふさっ、と、手の中に俺の服のデザインを模した、女性用っぽい服が出てきた。
「こんなもんか?」
「じゃな。まだ少し扱いが荒いが、それはまあ気にせんでもそのうち良くなるじゃろ」
「そっか。ほら、アンネ」
そう言ってアンネに服を差しだすが、反応がない。ただの屍のよう………ではないが。
「どした?」
「ユーリさん。その服、どうやって作りました?」
「魔術?」
「………それ、たかが小石一つ出すことも、私にはできないくらいの大魔術ですよ。普通は100人くらいの上級魔術士が三日三晩寝ずに行使するほどのものです………。ユーリさんは一体………?」
あ、やっぱりめんどくさいことに。
「俺が使ってるのは、魔力じゃなくて理力ってやつなんだわ」
「理力、ですか?」
「そ。ま、魔法と似たようなもんなんだけど、創造系に得意な性質があって、俺の特性も概念らしいから、それがいろいろいい感じに働いたんじゃね?」
なんというアドリブ。俺も言っててイマイチ理解できません。
「えっと、そ、そうなんですか………」
アンネも良く分からなかったらしく、とりあえずスルーしてくれた。
「んじゃアンネは着替えてくれ。俺たちは外で待ってるよ」
「あ、はい。分かりました」
そう言って、俺とノアは家から出た。
「さて、村の探索ですな」
「うむ………。じゃが、明後日にでもここを出発せんと、この村に迷惑がかかるやもしれぬ」
「だな、とりあえずは何も起こらないことを祈ろ………う………?」
なんだろう。村の外から凄い勢いで向かってくる砂煙があるのだが。
「あ、今俺の危険察知センサーにビビッときた」