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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
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第73話:月明かり

 ◆ノア◆


 夜中、ふと目が覚めた。

 窓から差し込む月明かりが丁度自分の顔に当たっていたからか、と鈍い頭で適当に理由付けをする。


「………んむ?」


 と、ここで気付いた。

 ユーリがいない。


「まったく、あのあほうめ」


 そう言いながらもごそごそとベッドを下りる。ちなみに着ているのは、以前ユーリに創ってもらった青色のパジャマだ。

 この部屋のベッドはダブルベッドなので、自分とリナリアは比較的小さいのでユーリが入っても何ら問題はない。しかし最近ではユーリは、寝るときは一緒なのに朝起きるとソファで寝ている。どうやら自分たちが寝ている間に抜け出しているようだ。

 なんとも紳士的な行動かもしれないが、すでに時遅しと感じるのはわらわだけじゃろうか?

 そんなことを考えながら5歩ほど離れたは所にあるソファを見る。


「………すぅ……」


 そこにはもちろん、布団にくるまったユーリがいた。


「こんなところで寝て風邪でも引いたらどうするんじゃ………」


 言いながら、少しずれていた布団を掛け直す。


「んん………」

「おっと」


 それと同時、ユーリが寝返りを打った。それに伴い、さらに布団が捲れあがる。


「お主………わらわに喧嘩売っとるのか?」


 そう言いながらもやはり布団を掛け直す。こんなによく出来た従者はいないぞ?と自分で自分を褒めてみる。


「ん……、寒い………」

「掛け直してやったというのになんたることを」


 何か掛けるものは………そうだ。着ていた服でも上に掛ければよいか。

 と、そこでふと窓を見た。確かに月明かりは入ってきていたが、どうやらそろそろ空が明るくなる頃らしい。この短時間でも変化が分かるほどに空は次第に明るくなってきている。


「そろそろ夜明けも近いのぅ……うお!?」


 しみじみと呟いていたのだが、急に下から引っ張られ、膝が崩れ落ちた。


「んな、な、なんじゃ!?」

「んむー……」


 そこには、鼻先1センチにユーリの顔があった。


「近い!?」

「寒ィ………」

「ちょ、こら、」


 言いながら自分の体に巻きつくユーリ。手が腰のあたりに巻きついていたりと、地味に危険な感じだったりする。………いやいや冷静に状況を考察している場合ではないのだけど!!


「ユ、ユーリ、離さんか!」

「………すぅ」


 そしてユーリは再び深い眠りへと落ちていった。………この状況でどうしろと。

 しかし上手いことというか、ユーリの被っていた布団がずり下がり、 自分も布団がかけられているような感じになっていた。


 ―――でもまぁ。


 はぁ、と諦めの溜め息を吐き、ユーリの眠っているソファに寄りかかるように背を預ける。そして首を横に傾けると、そこにはユーリの顔がすぐ間近にあった。


 ―――たまにはこういうのも悪くないかもしれん。


 なんて考えながら、少しずつ眠りの世界へと旅立っていった。



 ◆リナリア◆


 ………一体これは何がどうなっているのだろう。


「すぅ………」

「んにゃ………」


 朝起きるとご主人様と師匠が、ソファの上と下で抱き合うように眠っていた。別にそこに嫉妬を感じることはない。最初からご主人様と師匠の間には確かな絆があったし、他の女なら嫉妬も感じるし少々ご主人様に説明を求めるかもしれないが、師匠なら別にいいか、と思うのだ。

 なので今回真っ先に思いついたのは、


「寒くないのかしら………」


 日中は確かに気温が高く、あまり外に出たいとは思わない。しかし夜になれば急に寒くなり、朝方はかなり冷えるのだ。

 そんな中、確かに触れ合って寝てはいるが、その布団1枚では寒かろう。

 そう思い、今まで私が1人で占領していたダブルベッドの上の布団をズリズリと引きずり降ろす。


「これを掛ければいいかな」


 そう言いながら、2人の上になるべくゆっくりと布団を掛ける。

 ………どうでもいいが、そういえば2人の寝顔をこうもじっくりと見れるなんて、あまりない機会ではないだろうか。

 そう思い、先ほどまでより近付いてじっくり見ようと身を屈めた。しかし、それが失策だと気付くのに時間はそうかからなかった。


「ううん、2人とも可愛い寝顔ね、って、ええ!?」


 ガクン、と膝が崩れる。

 何事かと下を見やると、そこには手が2本。………ご主人様と師匠の手だった。


「え、え? なにこれ?」


 床にぺたりと座りこみながらも状況を把握しようとするが、頭がなかなか回らない。ただでさえ寝起きなのだ。

 そうつらつら考えている内にも、2本の手は私に絡みついて来た。


「え、あ、ちょ、あぁー……」


 嘆きの言葉も虚しく、私は2人の間辺りにまで引き込まれ、師匠には完全に抱きつかれた。


「え、2人とも起きてるの!?」

「んんー……、すぅ………」

「うにゃ………んむぅ………」


 普通に寝ていた。


「はぁ………どうしよう」


 そうは言いながらも、なんだかとても幸福な感情に流され、その感情は穏やかな眠りを連れてきた。

 あーあ、せっかく起きたのになぁ。

 そうは思いつつも少しでもこの幸福な時間を堪能していたくなり、そっと、瞼を閉じた。



 ◆ユーリ◆


 ………もう寝たかな?

 真夜中、俺はふと目を開ける。両脇にはノアとリナリアが規則正しい寝息を立てているのが目に入った。

 それを確認し、俺はベッドからゆっくりと降りる。


「………明日も晴れかね」


 そう言いながら、窓の外見上げる。そこには元の世界と変わらず、月が浮かんでいた。

 はたしてこの世界はなんなんだろう。確か大陸は3つで、その他に島々が無数にあるらしい。この時点で地球とは別物だと考えた方がいいだろう。さらに気になることは、言語体系だ。文字はなんだかアルファベットとアラビア文字を混ぜたような形だった。もちろんノアの集中講座により簡単なものは書けるようになったが、未だ謎が多い文字だ。それに、ティアはリンディア帝国の者だと聞いたが、クレスミスト王国と変わらない言葉だったように思う。


「うーん………?」


 腕を組み、変わらずそこに鎮座している月を見る。

 離れている、とはいってもそんなに離れていないのか? ………いや、もしかしたらこいつらの言っている“世界”自体が小さいものだとしたらどうだろう。

 例えば、他の大陸では文明が発達していない、とか。大陸が見つかっているということはそれなりの航海術……羅針盤や操舵技術、造船技術なども発達しているのだろう。しかし、他の大陸では文明が進んでおらず、移住することはなかった。よって、この世界の人の“世界”は“そこまで”なのかもしれない。


「………ま、考えても仕方ないんだけどな」


 そう言って、ソファに寝転がりノアたちとは別の、もう1枚の布団を自分に掛ける。


「………ちょっと薄いかも。まぁくるまれば大丈夫か」


 言葉通り俺はぐるりとくるまり、ふぅー、と息を吐いた。


「………ふぁ……、寝よ」


 1つ大きな欠伸をし、俺はそのまま眠りへ落ちて行った。



◆◇◆◇◆◇◆



「………どうしてこうなった」


 状況を把握するために言っておくッ! 俺は今世界の神秘ってやつをほんのちょっぴりだが体験した。

 い、いや……、体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが………。

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!


『俺は1人で寝ていたと思ったらいつのまにか3人に増えていた』


 な、何を言っているのか分からねーと思うが俺も何がどうなったのか分からなかった………。

 頭がどうにかなりそうだった………。リア充だとかフラグだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………。


「………さて」


 お遊びはこれくらいにして、2人を起こすか。この2人というのは、もちろんノアとリナリアだ。なぜか俺の腕に抱きついて寝ている。おそらく俺が寝ている間にこっちに来たのだろう。


「風邪引いても知らんぞ………」


 とりあえず、先にノアを起こすことにした。


「おいノア。起きろよ」

「ん、んにゃぁ………」

「………」


 お、起こしづれぇ………。

 よし、ノアは置いておこう。先にリナリアを起こすべきだったんだよ。そうだそうだよそうだとも!

 俺はノアの隣で寝ているリナリアに目を向ける。


「リナリアー、ほら起きろよー」

「ぁん………ゃ………」

「……………」


 ぐぉぉぉぉおおおおおお!!!

 なんだこの罪悪感!! そしてなんでちょっと艶めかしいんだよ!?

 ぐ………ッ、いや、それでも俺はこいつらを起こさねばならない! なぜなら!! それが俺の使命だからだ!!!(ちょっと壊れかけてる)


「お前ら! いい加減起きるぉ!?」


 ぐいっと腕を引っ張られ、頭から床に流れるように落ちた。そのため、両脚はソファの上で、上半身は床、という変な格好になってしまった。ずりずり落ちたので痛みはなかったが、………それよりも拙い状況になっていたことが判明した。

 どうやら俺は、ノアとリナリアの間に落下したらしい。


「オイ待て。嫌な予感しかしないんだが」


 そんな声は風のように流され、やはりというか予想通りというか、俺の腕に抱きついていた2人もつられるように体勢を崩す。そして、結果的に俺の上に2人が抱きつくような形で終息した。


「………どうしてこうなった」


 とりあえずなんだかいい香りがするのだが、極力無視しよう。なんか意識したら色んな感じでヤバい。何がヤバいかって………そりゃ色んな感じに。

 でもなぁ、なんでこんなに柔らかいんだろう。


「にゅふぅ………」

「しゅ……まぁ………」


 何言ってんだこいつら。

 でも、なんだかすっごい顔が安らかなので、ちょっとこのままにしておくか。

 そう思い、黒髪の頭と金髪の頭をゆっくりと撫でる。………こいつらの髪の毛って、たぶん俺の髪とは何か根本的に違うんだろう。柔らかさとか、細さとか。


「うーん、なんかすげぇ」


 なんとなくノアの髪の毛を一房持ちあげ、サラサラと落とす。本当にサラサラと音が聞こえそうなほどに、柔らかい髪質だ。世の女性が羨むだろうなぁ、これ。

 あーあ、2人とも幸せそうな顔しちゃって。動く気ないが、動けねぇ。

 腕が疲れたので、撫でていた両手をだらりと両脇に置き、なんとなしに天井を見上げる。


「見慣れた天井だ………」


 まぁ当たり前だが。

 さて、どうしよう。………どうしよう、フラグ立ててみようか?

 いやいや、なぜ自ら死に直結するフラグを立てようとするのか。でももしかしたら、という気持ちがぬぐえない。はたして世界に“お約束”を期待していいのだろうか。


「………」


 まぁそんなに都合よく世界は出来ていないのだよ。ふふん。当たり前だ。そんなんだったら俺の身がもたない。

 さぁ、勇気を出して声を大にして言ってみようではないか。魔法の言葉を。


「………こんなとこ誰かに見られたら拙いよな」


 コンコン


 ―――世界は、そう言う風に出来ている。


「えぇ!? ちょ、ちょっと待って下さい!!」

『あ、はーい』


 ドアをノックする音に敏感に反応し、俺は声を上げた。

 流石だぜ魔法の言葉! 全力でありがたくねぇ!!


「おいノア! リナリア起きろ!!」


 言うが、起きる様子が見られない。なぜだ。


『あの、ユーリさんですよね?』

「あぁん!?」


 突如ドアの向こうから話しかけられ、変な声を放ってしまった。ちょっと恥ずかしい。

 いや、というかなぜ俺の名前を知っている?


「えっと、誰だ?」


 声からして女性だと言うのは分かるんだが。


『アンネルベルですよ。お久しぶりです、入ってもいいですか?』

「ア、アンネぇ!?」


 意味分からん!? なぜアンネがここに!? だってあいつ今はフォレスティン学園にいるはずで、ここに来る意味が分からん!!


「い、いや、ちょっと待ってくれ!」

『はぁ、それはいいですけど、なんか怪しいですね』

「え、あ、アハハハハ、ソンナ、アヤシイダナンテ」

『………失礼します』

「待てぇい!?」


 俺の叫びも虚しく、ガチャリと無情にも鍵が開く。………なぜ鍵持ってるし。

 そしてスッと開かれたドアからアンネが顔を半分だけ覗かせる。そして、刹那、その片目が細くなり、無表情になった。


「あ、あははは………久しぶり、アンネ………」

「……………」


 あ、あれ? なんでこんなに寒いの? なんで部屋に置いてる物がカタカタと震えだす?


「………んむ? ………おっと、これはまた」


 やっと起きたノアは俺には目もくれず、リナリアの肩を揺らす。


「ほれ、起きんか」

「んぁー……ししょぉー……」

「はいはい」


 布団ごとずりずり壁際まで下がる。その様子を一瞬“退避”という言葉に置き換えようとしてしまったのはなぜだろう。全く分からないナァ。


「ユーリさん………」

「………はい?」


 未だアンネはドアから顔を半分だけ覗かせただけでこちらを見ており、正直果てしなく怖い。

 そして、スッと片手が出て来て、おいでおいでと俺を招き寄せる。俺にはそれが黄泉の門から手招きする亡者のように見えた。それを見てガタガタ震えながら、ノアたちを見る。


「………」

「………」


 目を反らされた。


「ユーリさん………?」

「………はい」


 俺はゆっくりと果てしなく重い腰を上げ、震える足でアンネの元へ向かう。


 数分後、宿どころか10軒隣りまで響き渡るような叫び声が聞こえたのだが、これが後に怪談として語り継がれることになろうとは、この時誰も知る由はない。

 どうも。


 思ったんですが、別にユーリって最強でもチートでもないですよね? 確かに換算魔力は莫大ですが、それを上手く使えるかどうかは彼次第ですから。それに元々彼が持っていた力なので、チートも違うかな?と。

 なので、タグには“?”を付けときました。まぁ治療面では最強と言って過言ではないでしょうけど。


 さて、ついに来ちゃったあの方。特には何もしないと思いますが、なんか巻き込まれる可能性はあります。

 とりあえず、次は3回戦の様子をお見せできるかと思われます。たぶん。


 それではまた次回。


 ではでは。

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