閑話05:学園
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少しだけ上空に現れ、すとんと地面に足を着く。
うん、転移も上手くなったもんだ。何度か変なとこに飛んだこともあったが、だいぶ慣れた。というか、失敗して変なとこに飛んだ記憶はもう忘れたい。
うん、どうでもいい。
「そうですね。どうでもいいです」
「そうだな。して、ここはどこだ?」
「フォレスティン学園の外ですよ。ちなみに今は午後の授業中です。私は魔法の講義を取ったので、ここで新しい魔法を試しているところです」
「そっかぁ。………いや、久しぶり」
「そうですね。でもまさか目の前にやってくるとは思いませんでしたよ。………とりあえずユーリさんの体で新技試してみますね」
「ちょ、ちょっと待て!? お前実は怒ってるだろ!?」
「いえいえそんなことありませんよ絶対的にそんなことありえませんだってユーリさんですしユーリさんがトチ狂ったことをしでかすのは今に始まったことではありませんしというかそもそも前科がありましたねってそれは置いておくとしまして何はともあれ新技行きますクレイジーデュオス!!!」
「え、ちょ、なんかヤバぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」
………アンネルベルさん、いきなりはマズいっす。
ま、なんというか、フォレスティン学園に転移したのはいいけど、捕捉出来るのがアンネくらいだったんです。杖でちゃんと発動したのは門の近くに転移するらしい。これは後で知ったことだが。
で、アンネからなんか食らって地面に倒れ伏す黒焦げのナニカ。
言わずもがな、俺です。
「久しぶり、アンネ」
「リナリアさんも久しぶりですね。そしてユーリさんは相変わらずですね」
「あはは、ご主人様は変わらないよ」
そんな会話が聞こえてきたが、俺はとりあえず回復魔術に集中しているのでそんなことに気を配る余裕はありません。というか良く聞こえないし。
アンネの放ったクレイジーデュオスというのは、どうやら雷系らしい。なんか天を覆うような光が俺に殺到してきたので。
流石アンネ、軽く死ねるくらいの威力だったが、とっさに偏光迷彩の応用で体にぶち当たる電気を反対側へ連続転移させるという無茶なことをやった。しかし、やっぱ光の速さとか無謀すぎ。大部分が当たってしまった。しかし、なんとか生きながらえたことに感謝したい。
ちなみにこれは後で知ったことだが、この時リナリアが八卦魔術の坤を発動していて、地面を隆起させて電気を逃がしていたらしい。リナリアさんありがとうございます。
「それで、何用ですか? まだマルス祭やってますよね?」
「あ、そうそう。こちらのエイラさんが、学園に会いたい方がおられるとのことでして」
そう言って、アンネはやっとエイラのことに気付く。そしてその顔が驚きに変わり、次の瞬間には柔らかい頬笑みに変わっていた。
「………分かりました。エイラさんは私が案内しましょう。こちらへ」
「うぁ、あ、あの、アンネルベル様にそこまでして、いただくのは………」
「まぁまぁ、私がいた方が何かとやりやすいですし」
「い、いやでもそれはああああああぁぁぁぁぁぁ………」
エイラさんはアンネに連れて行かれた。
うん、まぁその方がいいだろう。
「リナリア、お前も行ってきたらどうだ?」
「ん? どっちでもいいけど、ご主人様は行かないの?」
「ああ、どうせこっちに来るだろうしな。今はとりあえず向こうからせまってくる金髪ロールの相手をせにゃならん。リナリアは逃げとけ」
そういうと、リナリアは演習場を見回し、ある一点で視線を固定した。
そして引き攣り笑いに変わる顔。………まぁあれ見たらそうなるわな。
「ご主人様、死なないでね」
「ああ、大丈夫だ」
そういうと、リナリアは足早にアンネたちを追いかけて行った。
さて、金髪姫はどうしましょ。
「ユーリさん!!」
なんて考えている内に金髪――ティアリスがやって来ていた。
しかもなんか武装した奴らを引き連れて。なんでこんなにわんさか護衛みたいなのがいるんだ?
「よう、おひさー、ティア」
「あ、お久しぶりで……、じゃないですわよ! 貴方がマルス祭に行ったせいでわたくしにどれだけ迷惑がかかったと思っていますの!?」
え、いや、なんで?
なんか迷惑になることしたっけ?
「貴方を追いかけてローレルがマルス祭に参加した結果、わたくしの護衛がたくさんついてしまって、もうストレス溜まりまくりなんですわよ!?」
知らんがな。それ八つ当たりじゃんかよ。
「あー、じゃあとりあえず俺がいる間は護衛外せば? つってもエイラが帰ってくればすぐ行くけどよ」
「その間だけでもいていただけるとありがたいですわ」
そういうと、ティアは周りの護衛に説明しだした。
最初は渋っていたが、俺がクレスミスト王国の特別近衛騎士だと知ると、素直に引いてくれた。………いやもちろんティアに危害を加えることはしないが、ティアはリンディア帝国の第2皇女だ。ついでにクレスミスト王国と敵対してる国でもある。つまり、敵国の騎士に姫を預ける形になるわけだが、そこんとこいいのだろうか。
てなことを訊くと、ティアはことも無げに言い放った。
「今クレスミスト王国が私に手をだしたら、それこそ戦争に発展しますわ。国力はクレスミスト王国が勝ってるとはいえ、リンディア帝国は寒い地域。兵士の錬度はリンディアが勝っているでしょう。リンディアにとって懸念すべき点は食料ですが、一応備蓄はあるので数年は耐え凌げるはずです。………ま、敵対しているとは言っても貿易相手でもありますからね。そう簡単に攻撃などすれば、自国が危うくなるのは双方理解しているでしょうし」
………よくもまぁこんなにポンポンと出てくるものだ。やっぱこれでも姫様なんだなぁとわけの分からない疎外感を感じる。
なんというか、纏う空気が違うんだ。
「まぁその他にも理由はあるのですけど、どうでもいいですわね。それよりも、何か話しなさいな」
「はい? なんで?」
「だからわたくしの気晴らしですわ」
「なるほど」
そうだなぁ、何を話そうか。やっぱりマルス祭のことかねぇ?
なんて考えながら、俺はティアに話し出すのだった。
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で、2時間くらいすると、アンネたちが帰ってきた。そこに、セラフィムも連れて。
「よ。久しぶり、セラ」
「お久しぶりです、ユーリ様。息災の様でなによりです」
「ああ。あとさ、そんなに堅苦しい話し方じゃなくてもいいんだぜ?」
そう言えば最初からセラは丁寧語で俺と話していた。確かにセラを目覚めさせたのは俺かもしれないが、どちらかと言えば俺はきっかけを与えたにすぎないと思っている。
起きるか起きないかは、最終的に本人次第なのだ。
「いえ、そう言うわけにはいきません。それに、私はこの口調が普通なので」
そう言ってセラは微笑む。
なんつーか、聖女、って感じだな。姉と違って。
「………ユーリさん?」
「………アンネさんなんで怒っておられるのでしょうか?」
「なんだか不躾なことを思われた気がしたので」
「き、気のせいですよ。アハハ………」
やっぱり女性には心を読むスキルがデフォルトで備わっているのですね。
「それで、エイラさんはセラに会いに来たんですよね? もう良ければ帰りますか?」
そうエイラさんに訊ねると、一泊だけ学園に認めてもらったとか。
帰りも学園から馬車か転移か、何かしらしてくれるとのこと。
「でも、どうして私がセラフィム様に会いに来たって分かったんですか?」
「それはあれですよ。最近復学したってのがセラのことじゃないかな、と思っただけで、そんなに深い意味はありません」
と言うと、エイラさんは、ほーっと納得顔になった。
ちなみに、俺がアンネらと友達だというのはすでにセラから伝わっているらしい。
「エイラさん、少しこっちへ来ていただけませんか?」
「あ、はい。何ですか?」
セラに呼ばれ、エイラさんが離れていく。
それを確認してから、俺はアンネに話しかけた。
「………それにしても、やっぱ知り合いだったか。アンネ、エイラさんって何者?」
少し離れたところでセラと雑談し始めたエイラを横目にそう訊くと、少しアンネは顔を曇らせた。
「………エイラさんは侍女の1人だったんですが、亜人だと分かった途端他の侍女たちに排斥されてしまって………」
あー、なるほど。だから言いづらそうにしてたのか。
「もちろん排斥しようとした侍女たちは解雇しました。一応他の職も見つけてあげましたから大丈夫でしょうけど、王城には必要のない人材です。でも、エイラさんはこれ以降こんなことがあれば私たちに迷惑がかかると言って、退職してしまったんです」
「ふむ。なるほどねぇ………」
そう言って、再びエイラさんを見る。
セラと話している顔は元気に充ち溢れ、路地裏で見たあの寂しそうな顔と同一人物だとはなかなか思えないかった。
「もう一度王城に仕えることは出来ませんの?」
と、ここでティアが話に割って入ってきた。
「私もできることならそうしたいんですが、なんにせよエイラさんが拒否するのでは、ね」
ふむ。それもそうか。
なら、
「いっそ学園で働けばいいんじゃね?」
「え?」
「は?」
アンネとティアが同時に驚く。
いや、そんなに悪い考えじゃないと思うんだけど。確かに生徒たちは亜人に対して色々な感情はあるだろうが、それは割と一部の人だけだったりする。
そして、俺の発言に考えを巡らす2人。どうでもいいけど、こいつら二大国家の姫なんだよな。そんで俺は小市民。何してんだ俺。
「うん、いいかもしれません」
「そうですわね。これを気に迫害されている亜人を少しずつ学園に配属するという手もありますわ」
そうして出た答えは、前向きなものだった。
うんうん、何よりじゃよ。
「んじゃ、帰るかね」
「もう帰るんですか? 一泊くらいすればいいですのに」
「いや、ノア置いて来たし、明日は明日でパーティーがあるらしいんだよ」
そう、マルス祭開催による、出場者限定パーティーだ。非常に面倒だが。
「そうですか。それなら仕方ありませんね」
「ん。リナリア、こっちゃ来い」
「はーい」
とてとてと寄ってきたリナリアの肩を掴み、いつでも転移出来る形になる。
「んじゃ、アンネもティアも元気でな」
「はい、またお会いしましょう」
「貴方もお元気でね」
そう言って、アンネとティアは離れる。それと入れ替わりにやってくる影があった。
「おお、セラか。元々体弱いんだから無茶はすんなよ。エイラさんも、あまり堅く考えずに楽に行きましょう」
「ユーリ様もお元気で。怪我などしないで下さいね」
「本日はありがとうございました、ユーリさん。お詫びはまたいつかさせて下さいね」
そんな2人に苦笑で応えつつ、俺は魔力を展開する。
「んじゃ、またな」
魔力をまとめて、はじき出す感覚をイメージする。そして、
「転移!」
ふわりと風を巻き起こしながら、俺とリナリアはその場から転移した。
後で聞いたことだが、エイラさんは学園で仕事が出来るようになったらしい。良かった良かった。
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で、再びドレブナイズに戻った俺たちは街を散策し、宿に帰ってからノアに制裁を受けるのだった。
「ちょ、ノアさん? そこの関節はそっちには曲がらないっだあああああああああああああああああ!!」
どうも。
長くてすいません。
今回はリナリアとのデートExでした。
実はこんなことがあったんです。本当は本編に入れつつ書いていくはずだったのですが、予想外なことが次々起こり、それどころではなくなってしまった、と言うのが本音です。
で、書きたかったこの話を閑話にしてしまったと。そんな感じです。
さて次回ですが、パーティーの様子やら入れるのもアリですが、さっさと試合に入った方がいい気がします。まだマルス祭編では2つ程強制イベントがありますので。どうしましょうかね。
で、その次はそろそろティアリスさんやセラフィムさんにもスポットを当ててみたいなぁなどと思っております。
はてさて、どうなることやら。
それではまた次回お会いしましょう。
ではでは。