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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
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第68話:約束

 俺たちがとった宿は石造りの宿で、壁には防御魔法がかけられていたりと、なかなかの宿である。

 部屋割りは、2部屋。俺ことユーリ、ノア、リナリア組と、レイ、ローレル組だ。

 ………まぁ俺の部屋は置いといて、レイの部屋にいるローレルだが、こいつ、試合当日にマルス祭の行われているドレブナイズの町についたらしい。………つまり昨日だ。

 もちろんローレルは宿が決まってないとのことで、空いていたレイの部屋に入れてもらった。特に理由はないが、あえて言うならその方が面白そうだったからだ。


 で、今、俺の部屋に全員が集まっていた。床に座布団とクッションの間みたいなのをひいて。

 ちなみに、客人2人を混じえている。


「……―――てことは、グローとアルはレイの側近で、突然離反したレイを個人的に追いかけていたと」

「そうだ」

「そうですね」


 客人とは、昨日やりあったグローとアルである。

 昨日試合が終わった後は、とりあえず疲れているので一旦グローとアルには帰ってもらった。

 で、翌日の朝。再び俺たちの宿に訪ねてきた2人から話を聞いた結果がこれだよ。


「レイ、あとは任せた」


 というわけで、丸投げした。

 レイは苦笑しながら、了解、と答えた。

 これはレイの問題であるからして、俺が入り込む余地はない!

 何より面倒そうな気がする!


「ということで、俺はちょっと町に出てくるわ」


 全20試合が終わって初めて知ったのだが、マルス祭はこれから始まるらしい。ここまでは予選を兼ねた余興で、明日開会式が行われるとのこと。

 本戦自体は一週間後からあるらしいのだが、その間、選手同士でのパーティーやら説明やら、とにかく暇な時間はほとんどなくなってしまうらしい。

 ならば何もない今日、少し遊んでおこうと思ったのだ。


「いってきまー」


 と言って立ちかけた瞬間、服の裾を誰かがふわりと引っ張り、それになぜか抵抗できなかった俺は立つこと叶わず尻餅をついた。


「………えっと、リナリア? どした?」


 俺の隣に座っていたのはリナリアだった。

 その細い腕で、俺の服の裾を握っているのだ。

 ガッシリとではなく、綿毛のような、ふんわりとした感覚で。

 ………なんだろう、この背徳感。


「………約束」

「へ?」


 リナリアが顔を真っ赤にして、上目使いでこちらを見る。

 すでに俺のヒットポイントはレッドゾーンまで突入していた。


「や、約束? えっと………」


 なんかリナリアと約束してたっけ?

 うわやべぇ、思い出せ俺!


「あの、北の森の………」


 あ、思い出した。


「あー、デートだっけか………」


 こくりと頷くリナリア。何この可愛い生物。


「それとお土産………」

「あー」


 そんなことも言ってたな………。ホントごめんなさいリナリアさん。あの時は色々限界だったんです。

 言い訳ですねすいません。


「分かった。んじゃ一緒に行くか。そん時なんか買い物でもしようぜ」

「う、うん!」

「うし、じゃあ行ってくら」


 そう部屋の中にいる仲間に言うが、なぜか皆、生温かい目でこちらを見ていた。

 ………いや、理由は分かるけどね?


「ユーリ………」

「なんだよノア」

「ぐっとらっくじゃ!!」

「やかましいわ!!」


 ノアが実にいい笑顔で親指を上げる。

 一応は応援されてる感じの言葉だが、軽く馬鹿にされている気がした。というかおちょくられているというか、弄られているというか。

 そんなことはどうでもいい。とにかくこの場のこの空気は長時間耐えられるものではない………!


「行くぞリナリア!」

「あ、待ってよご主人様!」


 俺は立ち上がり、リナリアを連れて部屋を出て行った。

 その際、視界の端を掠めたリナリアの嬉しそうな顔が、とても印象的だった。



 ◆アンネルベル◆


 私はフォレスティン学園に残って、今日も変わり映えのない毎日を送っていた。

 ただ、休みが明けて学園に来て、これまでずっと楽しかったのが、今は周りが静かなのがとても嫌だった。


「はぁ………」

「どうかなさいましたか、アンネルベル様」


 ちょっとしたテラスで紅茶を飲んでいたのだが、どうやら溜め息が聞こえたらしい。背後に立つバイマーが声をかけて来た。

 バイマーはクレスミスト王国総軍隊長である。つまり、近衛隊を除けばクレスミスト王国の最大のかなめであるのが、このバイマーなのだ。


「いえ、なんでもありませんよ。ただ、少し周囲が静かだな、と思っただけで」

「ふむ、それはユーリ殿らのことですかな?」


 こういう思慮深く頭の回転が速いところは、実に隊長向きだと思う。逆に言えば賢くないと隊長になんかなれないのだけど。


「そうですね。いつもあの方たちは騒がしかったので」


 そう言って苦笑するが、正直に言えば寂しい。こちらには妹のセラフィムもルチアーナもいるが、やはり物足りなさは感じてしまう。

 ………どうやら知らず知らずのうちに、ユーリさんは私の中で大きな存在となっていたようだ。


「ふむ………、でしたら見に行きますか?」

「え、いいんですか?」


 その言葉に驚き、後ろを振り返る。

 バイマーは右手で顎をさすりながら、考えを口に出した。


「ラルム王であれば、気になって勉学に集中できないと言えば簡単に行かせてくれそうなものですがね」


 あの方も、こう言っては何ですが娘に大甘な性格をしてらっしゃいますから、とバイマーは苦笑した。

 確かに、それなら行けるだろう。そこまでは私も考えた。だけど、そんな理由で学業をおろそかにするのはやはりはばかられるのだ。

 そう伝えると、再びバイマーは少し考え、今度はおそるおそる話し出す。


「ふむ………、例えばこういうのはどうでしょう?」


 そう言って、バイマーはその考えを話し出す。聞いている内に、それは名案な気がしてきた。

 しかし、父が許すだろうか………?


「そこは私がどうにかいたしましょう。私は今、アンネルベル様の護衛でありますゆえ、王に一言申す事も可能でありましょうから」

「………ならば任せます。くれぐれも無理はなさらぬよう」

「ハッ」


 さて、それじゃあ一応準備はしておこうかな。

 どうなるかは分からないけど、行けたらいいなとは思う。


 今ごろユーリさんたちはどうしてるんだろう………?


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