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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
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第67話:トラウマ

 ◆ローレル◆


 ユーリと戦っていたグローというやつが龍になった。そのこと自体は少し驚いただけで、どうってことはない。

 しかし、グローが翼をはためかせ、空へ飛翔した瞬間、ユーリの様子が少しおかしなことになった。


「龍………、龍族………、トカゲ………」

「バカヤロウ! ぼーっとしてんじゃねぇ!!」


 瞬間、オレはユーリを全力で押し飛ばし、ユーリは床に転がった。

 そして、さっきまでユーリのいたところに、グローの作りだしたと思われる岩の弾丸が突き刺さり、闘技場を一部破壊していた。


「何してんだお前………ッ!?」

「貴方の相手は私ですよ」


 オレがユーリに向かって叫ぶが、脇からアルが炎を飛ばして来て、それをオレは地面を爆発させることで、高速で回避した。

 ユーリはそれを眺めながら、重い腰を上げる。


「あー、龍、龍ね。うん、なるほど」


 ユーリは俯きながらボソボソと呟く。なぜか目元が暗くなっていて、それが異様に不気味だった。

 そして、なぜか全身から発せられるとてつもない殺気。

 オレと戦った時よりもはるかに恐ろしいと感じてしまった。


「何者だよアイツ………」

「おや、仲間ではないんですか?」


 オレと対峙していたアルが、こちらを警戒したままで訊ねる。

 別に答える必要もないのだが、少しくらい話してもいいだろう。


「アイツとは仲間なんかじゃねぇよ。むしろ敵だ」

「それなのに共闘しているのですか………不可解極まりますね」

「ああ、そいつはオレも同感だ!」


 言うとともにオレは地面に両手をつく。それを見たアルが飛び上がると同時、アルの立っていた床から石の槍が突き出た。

 ちっ、もう完全にこっちの手の内ばれてんな。


「やはり貴方は強いですねぇ! もしかしなくても、貴方は“片翼のローレル”でしょう? どうりで強いはずです!」

「そいつぁありがとよ!」


 アルからも多種多様の魔法が放たれる。オレはそれを難なく避けながら、隙を見て石槍を放つがアルもそれをかわす。

 先ほどからどれだけやっても掠り傷が増えるばかりで、どちらも決定的な一打を与えられていない。

 ………だが、オレには1つ手がある。

 ま、他人を頼ることにはなるんだが、これくらいの卑怯な手は必要だよな?


 ドガァン!!


 と、その時、何かが地面に突撃したような、そんな音が聞こえた。

 そちらに目を向けてみる。

 ………クックック………、ユーリが勝ったか。


「グローさん!?」

「油断大敵、だな」


 グローが倒されたことに集中が乱れるアル。その隙を見逃すオレではない。

 一瞬で間合いを詰め、鳩尾みぞおちに掌底を食らわせる。


「グッ………」

「ふん、少してこずったか」


 アルはそのまま気絶してしまった。が、崩れ落ちるその瞬間に一応その両手足に岩の錠を付けた。決着の合図が出たらすぐ壊すが、ユーリとの一戦後、用心深くなったのは否めない。


「さて、と。おいユーリ、無事か?」

「ん、あ、ローレルか。………1ついいか?」

「あ? いきなりなんだよ?」


 ユーリは腕を組み、困惑した顔でオレに訊ねた。


「グローを倒した記憶がないんだが………」

「はぁ?」


 それを言ってオレにどうしろと。


「………まぁ勝ったんだからいいんじゃないか?」

「………それもそうか」


 とりあえず、第18戦目は、オレことローレルとユーリが勝ち進むこととなった。



 ◆レイネスティア◆


 グローが龍化し、飛び上がると同時、ユーリの様子がおかしくなった。

 目が虚ろで、半端ではない殺気が放たれる。その殺気は凄過ぎて、逆に周囲の人は気付かない。ただ、不調を訴えて席を立っていく。

 そんな中、ユーリは俯いていた顔を上げ、右手をグローへ向ける。

 その手から放たれるは1発1発が必殺の武器、光の槍だった。

 空へ向かい幾条もの光が重なる中、その図体の大きさからグローは幾発かを食らっていたが、いづれも急所を捉えていない。ということは、光の槍を見切っていたということか。

 しかし、ユーリの攻撃はそれでは終わらない。

 次に発動させたのは、氷の槍。

 やはりグローはそれを避けていくが、どうやらユーリの氷の槍とは、一般的な氷槍とは別のものだったらしい。

 グローの2枚の翼の両翼に、氷の槍が掠め、グローが苦悶の表情をすると同時、翼が氷に覆われたのだ。

 どうやらその魔法の本質はそこにあるらしい。

 当たった対象を凍らせる、そんな魔法。

 聞いたことも見たこともないが、現にこうしてユーリが使った。それは、もしかしたら新しい魔法を創りだした、とでも言うのかもしれない。

 翼を凍らされ、飛ぶことが出来なくなったグローは、落下していく。

 最後の最後で力を振り絞ったのか、風でなんとか体を浮かそうとしたが上手くいかず、結局轟音を立てて墜落した。

 その音にびっくりしたのかローレルと戦っていたアルに隙が生じ、それを見逃さなかったローレルが鳩尾を殴り、昏倒させた。

 その間にもグローが満身創痍ながらも起き上がろうとしていたが、ユーリはそれを見下しながら、手を軽く振り、グローの全身を氷漬けにし、沈黙した。

 そこにローレルが話しかけ、そこでやっとユーリから放たれていた殺気が嘘のように収まり、僕は無意識に止めていた息を吐いた。


「はぁ………、さっきのユーリはなんなの?」


 リナリアを挟んで隣にいるノアに話しかける。


「………トラウマじゃないかのぅ」

「トラウマ?」


 何かあったんだろうか?


「お主のせいでもあるのじゃぞ、レイネスティア?」

「へ? 僕?」


 ………もしかしてアンネルベルを攫っていた時のことだろうか?


「お主の思っておる通りじゃろうのぅ。今までどうってことはなかったが、やはり初っ端に龍族と会い、命のやり取りをして、しかも因縁吹っ掛けられたらトラウマにもなるじゃろう」

「………なんかごめん」

「それはユーリに言うんじゃな」


 そう言うと、ノアはリナリアに目を合わせた。


「さ、ユーリの元に行こうかの?」

「うん………、ぐすっ」


 リナリアはユーリがボコボコにされたあたりで号泣していた。それに関しては本当にユーリが憎い。

 僕に泣いてる女の子をあやすことなんて出来ないからね!

 ………いや、もう本当に困った。ノアがいなかったらどうなってたか。

 うん、さてユーリに会いに行こうかな。

 あの2人にも、ね。



 ◆ユーリ◆


 空砲が鳴り響く。これで第18戦目、終了だ。

 俺は舞台上でその音を聞いていたが、ふとグローを見て思った。


「というか、なんでグローは氷漬け?」

「お前がやったんだろうが。さっさと解凍しないと死ぬぞ? ま、龍族だから滅多なことじゃ死なんと思うが」


 とりあえずローレルの助言に従い、解凍する。グローの周囲だけ温度を上げる感じだ。


「レンジでチンってか」


 なんて言ってる間に、解凍終了。

 解凍と同時にグローは人化し、のっそりと起き上った。


「む………、負けたのか………?」

「ああ、もう試合は終了してる」


 ふむ、と言いながらグローは周囲を見渡す。


「アルはどこへ行った?」

「アル? ああ、それならそこにいるよ」


 グローの背後辺りを指差すと、そこにはアルと、アルに付けられた錠を壊すローレルがいた。

 どうやらアルはもう意識を取り戻しているらしい。


「すみません、グローさん………」

「フッ、それはお互い様だ」


 そう言って、快活に笑うグローと、つられて苦笑するアル。随分と仲がいいね。

 そういえば、なんか最初と性格違う気がするんだけど?


「あ、そういえばすまんな少年」

「あー、俺はユーリだ」

「ふむ、ユーリか。実は少し探し物をしていてな、それが上手くいかずイライラしていたのだ。そこにマルス祭というていのいい解消場があったから参加したにすぎないのだ」


 ハタ迷惑な話だ。


「まぁいいけどね………」

「しかし強いな、ユーリは。何者だ?」


 何者って訊かれてもねぇ………。一応役職?みたいなのはあるから、これでいいのかな?


「クレスミスト王国特別近衛騎士、ってことになってるけど」

「特別近衛騎士だと!?」


 うおっ。いきなり大声出すなよ………。

 そんなに驚くことか?


「おーい、ユーリ」

「はい?」


 ローレルが呆れたような表情でオレに呼びかける。


「あのな、特別近衛騎士ってのは、近衛騎士隊隊長とだいたい同格の地位で、その辺の貴族よりもよっぽど高位の地位だぞ? 大臣と同じぐらいって言えば分かるか?」

「………それってかなりすごいのでは?」

「お前………。凄いとかのレベルじゃねーから。王族にも一言申せることを考えれば大臣よりも地位は高いんだぞ?」


 近衛だから、王族とともに行動することが多いと考えれば、確かに重要な立場だ。近衛が王族に何か吹き込めば、それが意見として内政に関わってしまうことになるし。

 ………って考えると、なんで俺は特別近衛騎士なんて立場にいるんだよ?


「ユーリ、なんでお前そんなに無知なんだ?」


 おっと、来たよこれ。


「実はこの辺りには最近来てな。この地位についたのも最近なんだよ」

「旅でもしてたのか?」

「ああ」

「………それでよくラルム王が信用したな」

「それは俺も疑問だ」


 アンネを助けたくらいだからなぁ。まぁその辺はラルムさんの慧眼にかなったということで。

 それを聞いていたグローが、不意に笑いだした。


「はっはっは! なるほど、勝てないわけだ。あの魔力も凄かったしな」

「そりゃどうも」


 なんて話してると、舞台の端からノアたちが歩いて来るのが見えた。

 ………って、ああ。リナリアが泣いてたんだっけ。どうしよう。

 そして近くまで来たリナリアは、その泣きはらした目でこちらを見上げた。


「ご主人様………」

「………おい。すまん、色々」

「ううん。でもなるべく怪我はしないで」

「ああ………。悪かったよ」


 そう言うと、リナリアは俺の胸辺りに顔を押し付けた。

 それを拒否することなど当然せず、その頭をゆっくりと撫でる。


「とりあえずおめでとう、とでも言っておこうかの?」


 ノアはいつも通りだった。

 

「ああ、ありがと」

「じゃが、戦いのさなかに修行など、相手にも失礼じゃし、なにより自分の力を過信しすぎじゃ。敵と対する時は、いつでも全力で挑め。そうでないと、いつか後悔することになるぞ」

「うん、ごめん。今度から気を付けるよ」


 ノアって俺のお母さんみたいだな、と思うことがたまにある。

 ま、俺のためを思ってくれてるのだろうし、それは本当にありがたいことなんだけど。


「おめでと、ユーリ」

「おう、ありがとよ」


 レイはそれだけ。男同士でそれ以上の言葉は必要ではないのだ。

 が、レイは俺ではなく、となりにいたグローとアルに視線を移した。


「ごほん………、久しぶりだな。グローとアルよ」

「レイネスティア様………こんなところにおられたのですか………」


 先ほどとは打って変わったレイの口調と、グローの態度。

 まぁグローが龍人だったってとこから、なんか関係あるのかなぁとは思ってたけど、これは予想以上だ。


「レイ、知り合い?」

「ユーリ! レイネスティア様になんたる口のきき方だ!!」


 グローが口を荒げるが、とりあえずグロ-との間に結界を張って話を進める。


「うん。グローとアルは僕の部隊の隊員だよ。実力は結構あるはずなんだけど、どうやら負けちゃったみたいだね」


 その言葉に身を縮ませる2人。

 というか、その言葉からするとアルも龍人なんだ。意外といるんだね、龍人。


「ま、話したいこともあるだろうし、宿へ帰ろうか。それでいいかな、ユーリ?」

「ああ、もちろん」


 そう言って、胴に抱きついたままのリナリアを引きずるようにして、移動を開始する。

 ノアは何も言わずに笑顔で俺の横を歩いているし、後ろではローレルを加えた龍人3人がなんか議論してる。

 それをBGMにしながら、俺は舞台を降りる。


 ………リナリアに抱きつかれたことによって会場から殺気をビンビン感じたが、気のせいにすることにした。


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