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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第一章 ここは異世界
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第07話:あなたの名前

 ◆アンネルベル◆


 私は、クレスミスト王国に次ぐ大国である、リンディア帝国へ、和平大使として向かっていた。

 長年争っていたリンディア帝国はとても寒い地域で、暖かく豊かなクレスミスト王国に幾度となく戦争をしかけて来た。

 しかしクレスミストは世界最大の国。そうそう簡単に負けるはずがない。

 結局のところ、これ以上争うよりも、和平を結び、交易を営んだ方が両国にとってプラスである。………と、リンディア帝国から来た使者が持ってきた書簡に書かれていた。

 確かに、リンディア帝国は漁業が発展しており、交易して良し、技術を貰って良しではある。しかし果たしてそう上手くいくのだろうか。

 私は揺れる馬車の中、椅子の背もたれに身を任せた。

 リンディア帝国の王は野心家として有名である。その彼が、豊潤な大地を諦める?

 私には、どうしても納得できなかった。

 しかし、リンディア帝国から使者が来たからには、こちらもそれ相応の返答が必要になる。無視すれば、こちらの名が貶められることになってしまうからだ。

 そんな中、私は豪奢な馬車に乗り、リンディア帝国へ向かっていた。和平の約束を結ぶために

 しかしその道中、信じられないことが起きた。


 バサバサッ!


『何者……ぐはぁッ!!』

『こ、こいつら龍人だ!!』

『うわぁ! に、逃げろー!!』


 馬車の外が騒がしくなり私は窓を開け、外の状況を見ようとした。

 しかし次の瞬間、激しい破壊音とともに、馬車の天井が吹き飛んだ。

 唖然として広がった空を見ていると、不意に頭に影が落ちた。

 ちょうど見上げている方向と逆側、つまり背後に何かがいる。


「………」


 ゆっくりと私は振り返る。


「貴女がクレスミスト王国第一王女、アンネルベル・クレスミストだな」


 その声とともに、私の意識は一度途絶える。その瞬間、白い鱗のようなものを見た。



◆◇◆◇◆◇◆



「うぅん………」


 と、私は目を覚ます。ここはどこだろう。起きたばかりで頭が回らない。


「あー、おはよう」


 ………誰!?

 聞き覚えのない声に、恐る恐る顔を向ける。

 そこには、なんだが少し困っているような青年が座っていた。

 ………それから少し話したところ、どうやら私はどこかに倒れていたらしい。

 龍人は?

 あの時私を護衛していた人たちは?

 そもそも本当に龍人に襲われたの?

 疑問は尽きない。

 しかし、どうやら助けられたというのは本当みたいだ。この青年からは悪意などは欠片も見えない。むしろ戸惑っているように見える。

 ところで、この猫さんはなぜ喋れるのだろう。私の予想では、精霊が猫さんの体を借りて話しているのだと思うのだけど。でもこれは高位の術者にしか無理だし、そもそもそのような術式を行ったような魔力を感じない。青年の方は魔軍小隊長程度の魔力はあるみたいだけど、これほどの術は施行不可能だろう。

 考えれば考えるほど、謎は増える。

 しかし、今はそんなことを考えている場面ではないことに思い至った。

 青年は私の名前を知らなかった。別に驕っているわけではないが、自分の名前は各国に知れ渡っているはずだ。だって私の魔力量は異常だから。

 その私を知らないというのは、どうも引っかかる。

 私は緩んでいた緊張感を、再び張りつめさせた。


 ………でも。


 私の名前を聞いても平然としているこの青年は、もしかしたら生まれて初めて私を見て恐縮しなかった人ではなかろうか。もちろん両親を除いて、だが。

 ………あれ? そういえば………。


「それで、あなたの名前は……?」

「あれ、言ってなかったっけ」


 たぶん言ってないと思う。言われた記憶がない。


「俺の名前は、ツキシロ・ユーリ。しがない旅人さ」


 ツキシロ? 聞き慣れないファーストネームだ。


「のう、ユーリ」


 と、急に猫さんがツキシロさんに話しかけた。


「何?」

「こちらでは姓と名は逆じゃぞ」

「………欧米かよ」

「ではテイク2、いこうか」

「仕切るんじゃねぇよ」


 そして、コホンと咳をすると、先ほどと同じような格好で、名乗りをあげた。


「俺の名前は、ユーリ・ツキシロ。しがない旅人さ」

「………」

「………」


 三人の間に、妙な間が空いた。


「ノア」

「なんじゃ?」

「やっぱ二回は不味かったよな」

「どうやらそのようじゃ」


 その、内緒話っぽくしているのに丸聞こえな作戦会議に、私は思わず吹き出してしまった。


「あははっ……」

「お、やっと笑ったね」


 ……………恥ずかしい!


「さて、ユーリよ。わらわはお主に言わなければならないことがある」

「ん、なんだ?」


 急に落ち着いた声色で話し始めるノアさんに、私も知らず緊張感を高める。


「わらわは腹が減った」


 瞬間、ユーリさんと私がずっこけたのは言うまでもない。

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