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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第四章 マルス祭
67/96

第64話:八卦

 ◆ユーリ◆


『―――ケン!!』


 リナリアがそう叫んだ途端、舞台上は大雨暴風状態になった。そこだけ台風が起こっているようなものだ。俺には超デカイ洗濯機に見えた。


「おいおい………なんじゃありゃ」

「ぶわっはっはっはっは!!!」


 ノア大爆笑。

 いや、なんで?


「プクククク………、あれがリナリアの潜在能力じゃよ。クックック」


 いや、潜在能力なんて言われても分からんよ。アレは何なんだ?


「いや、もうそろそろ良いじゃろ。種明かししてやろう」

「頼むぜ、おい」

「フフ………、先ほどリナリアが言った『ケン』という言葉。漢字に直すと『乾』という漢字になるのじゃ」


 ノアはそう言いながら指で空中に大きく『乾』と書いた。

 ケン

 それってどこかで………


『―――コン!!』


 舞台上でリナリアが再び叫んだ。

 それと同時、舞台のみがブレたのだ。………おそらくだが、局地的な地震か何かだと思う。地震をこんな形で見たことがないのでイマイチ確信が持てないが。


「クックック、今の『コン』は、漢字では『坤』となるのぅ」


 再びノアは空中に、今度は『坤』と書く。

 ケンコン

 これはもう、もしかしなくてもあれだろう。


「………八卦か?」

「正解じゃ」


 ノアはニヤリと笑い、俺に説明しだした。

 簡単にまとめると、以下のようになる。


 《易に太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。八卦は吉凶を定め、吉凶は大業を生ず》


 これは儒教の基本になる五経の筆頭、易経の生成論において陰陽思想と結合して宇宙の根源として重視された概念らしい。

 大極は両義を生じ、四象に分かれ、八卦を成す。そこからさらに六十四卦と分かれるらしいが、今は置いておく。

 その中の八卦には、ケンコンシンソンカンゴンがある。それぞれ象徴する力があり、その中でも乾は天を、坤は地を象徴しているのだ。


 つまり。


『―――コン!!』


 リナリアが叫ぶと同時、舞台の石が勢いよくせり上がり、選手たちは空高く舞い上がった。しかし、リナリアはどこ吹く風。微動だにしていない。

 つまり、おそらく今、舞台上の天と地はリナリアの制御下にある。


「ノア、もしかしなくてもリナリアは乾と坤を操っているのか?」

「くっくっく、そうじゃともそうじゃとも。リナリアは九尾じゃ。狐の鳴き声とはどんなものじゃ?」


 そうノアに訊かれ、俺は記憶を漁る。どうやら漫画とかの知識でしか知らないみたいだった。


「えっと、コーン、て鳴いているのはよく漫画とかで目にするな」

「ふむ。ケーン、とも鳴くぞ?」


 ん? ああ、そういえばそうかもしれない。………っておい、まさか。


「もう予想はついたかの? 狐は元来、ケンコンに親しみを持っておる種族なんじゃよ」


 ケンとコン。なるほど、それは良く知られた擬態語としての狐の鳴き声だ。

 つまり、鳴き声がすでに言霊になってんのかよ。………そういえば、晴れてるのに雨が降っている今の舞台の状況は、狐の嫁入りおてんきあめと言えるのではなかろうか?


「なるほどなぁ。でもなんで今になってそれが使えるようになったんだ?」

「リナリアはな、ユーリのおかげで目覚めたんじゃよ」


 俺の?


「うむ。そういえば、リナリアの魔力量からして、これほどの魔術は使えぬとは思わんかったか?」


 あー、それは思った。あまり持っていないはずなのに、どうしてこんなにデカい魔術を………、あれ? どこかで聞いた話だな。少ない魔力量なのにデカい魔術連発するやつ。………誰だっけ。


「ユーリ、お主のことじゃろが」


 あ、俺でした。………って、おい、それじゃリナリアは!?


「うむ。リナリアは理力を持っておるのじゃよ」

「なん……だと……」


 チートだチート! 俺はともかくとして、リナリアは元からこの世界にいたんだから、チートだろう! じゃなかったらバグだろこれ!?

 つか、なんで今更理力発現したし。


「だから、それがユーリのせいなのじゃよ。………いや、おかげとも言うが」

「どこでそうなったんだ?」

「リナリアを治療した時じゃ。お主、リナリアを2度も治療しておるじゃろ? しかもかなり大きな怪我を」


 確か出会った時に一回と、サンローズ戦で一回。どちらも致命傷だったはずだ。特に前者。

 あー、ちくしょう。胸糞悪い。


「ユーリの特殊な治療魔術は、理力で発動しておるんじゃ。ユーリに自覚はないじゃろうがな。故に、リナリアの切断された四肢はユーリの理力の塊で出来ていたわけじゃ」


 今はほとんど完治しておるがの、とノアは続けた。

 ということは、体内に理力が入ったため、潜在的に存在した理力が呼び覚まされた、というわけ?

 ………リナリアすげぇ。でも、天孤なんかは神格化されてるから、神様の持つ理力を持っていたとしても不思議ではない、はずだ。


「これはもう普通なら、1000年に一度の逸材であったろうな」

「そうだなぁ。リナリアすげぇ」

「今はユーリの奴隷じゃが」

「………なんか棘が刺さるんだけど、なんだろうねこれ?」

「気のせいではないか?」

「あはは、そうだよね」

「ふふふ、そうじゃとも」

「あははははははは」

「うふふふふふふふ」


 奇妙な笑い合いは、約5秒後に終わりを迎えた。


 舞台上のリナリアの背後に、まだ意識が残っていた選手が立っていたのだ。

 リナリアはまだそれに気がついていない。

 しかし無情にも、意識の朦朧とした選手は、その手に持った細剣を振りかぶり、リナリアに切りかかった!


「―――リナリア!!」


 そう思わず叫んだ途端、リナリアは即座に体を捻り、床に身を投げた。

 どうやら叫んだ声は間に合わなかったが、叫んだ俺を見ていたのだろう。その反応速度は素晴らしいものだった。

 しかし、それでも世界はそう簡単に回らない。


「あぶね……ん? リナリア?」


 リナリアは床に伏せたまま、相手を睨みつけていた。なぜか立ち上がろうとしないのだ。


「………む、どうやら足を少し切られたな」

「怪我したのか!?」


 ノアに言われ良く見てみると、リナリアの足元にうっすら赤いものが滲んでいるのが見えた。

 ………ああ、やっちまった。そう思いながら、俺は頭を抱える。

 リナリアも俺と同じだ。半端じゃない力を持っているが、経験が圧倒的に足りない。


「あとで治療すりゃいいのはいいんだけど、やっぱ痛いよなぁ」

「うむ………。なにか防御する物を創造して能力を付与してみてはどうじゃ?」

「っていうとアンネの腕輪みたいなやつか」


 あのアラート機能付きのやつ。それもいいな。


「しかし、リナリアの血が流れたということは、ここからは本気が見れるぞ?」

「まだ本気じゃなかったのかよ!?」

「というか本気が出せなかったというか、な。あれには血が必要じゃから」

「血、か………」


 おそらく血が必要になるというのは、血が力の源であるからだろう。特に呪術では。

 血とは、体の一部でありながら、無形である魂の一部。力の『チ』。命の『チ』。


「血というものは、あらゆる呪術で使われておるように、血そのものに特別な力があるのじゃ」


 そうだ。生贄いけにえというのは、神に血を捧げる祭りではなかっただろうか。

 生贄は、よく子供が犠牲にされたらしい。というのも、自分が大切にしているものであればあるほど、神が喜ぶと考えられていたからだ。

 だから、『子供』という字の『供』は、『そなえる』と書くらしい。最近『子供』と書かずに『子ども』という表記が多いのは、もしかしたらこのせいなのだろうか。

 閑話休題。


「血とはすなわち、両義を生む大極。万物の根源。トコタチ、サツチ、カグツチ、オロチ―――チは神霊そのものを表す言葉じゃ。………だから人は血を捧げるのじゃよ」


 そして今、リナリアはその舞台に血を捧げた。九尾たる高潔な血を。


 リナリアは、一瞬にして纏う空気を変え、ギロリ睨みつける。

 そして、その言葉に魂を乗せる。


『―――シン!』


「あれ? 震?」


 などと言うと同時、


 ドガァン!!


 強烈な光と、爆音。それは、見ていた人の目と耳の機能を奪うには、十分すぎる威力だった。

 かく言う俺も、スタングレネードの餌食になっていたりする。これがかの有名なM84スタングレネードか!?


「まぁ威力が桁違いじゃし、何よりダメージをあたえとるじゃろうが」


 スタングレネードは、ほぼ無傷で相手を無効化する手榴弾だ。なので、全力で倒しにかかっているリナリアの震は、まったく性格が異なっている。

 というか、目と耳を無効化するはずなのに、なんでノアの声が聞こえたんだ?


「もう治っとるぞ」

「おおッ」


 目を開けたら、普通に見えた。ついでに音も違和感なく聞こえている。


「お主が遊んでおる間に、一般的な治癒魔法で治しておいたわい。感謝するんじゃな」

「遊んでた記憶はないが、うん、ありがとう」


 そう言えば試合はどうなったんだ?

 俺は一瞬明順応に目を眩ませたが、よく舞台を見てみる。


「………リナリアの単騎勝利ですか」

「………そのようじゃの」


 どうやら、おそらくではあるが舞台に落ちたのは雷だったらしい。その場にいた選手全員に当たったらしく、舞台にいた者は全員が黒焦げで気絶していた。その他は言わずもがな、場外アウトだ。

 その舞台の中心で、足の痛みに少し顔を歪ませながら、リナリアはなんだか晴れ晴れとした表情をしていた。


「ふぅ………、まぁなんとか勝ったか。でもなんでさっき震って言ったんだ? 乾と坤しか操れないんじゃないのか?」

「ああそれはな、あれは八卦が1つ、シンじゃが、その象徴は、始動の時、龍、足、そして雷なのじゃ」


 そういえば、リナリアが傷つけられたのは、足だ。震の象徴の1つに足があるから、そこから流れ出る血はまさに震と相性が良かったのだろう。ついでに攻撃手段が雷だったし。

 しかし、たった一言で現実を塗り替えるだなんて、そんなこと赦されるのだろうか。

 乾と坤ならまだ分かる。それは狐の鳴き声と酷似した音だから。

 でも、震は別だ。それはもう狐とかは関係なく、八卦として扱わねばならない。リナリアはきっと、乾と坤で八卦に慣れて、そこから血を捧げることによって他の八卦を発現することが出来るのだろう。

 まぁ乾と坤、つまり天と地を操るって時点で、もうほとんど他は必要ない気もするんだけどね。震の雷だって、天から落ちるものだし。

 でもこれは魔法体系的には、どこに入るんだろ?


「ユーリ、リナリアは強いじゃろう?」


 なんて考えていたから、ノアの言葉にとっさに反応出来なかった。


「え? ああ、うん」


 俺は少しぼんやりとしながらも、ノアの言葉について考えを巡らせる。

 確かに強かった。天と地を操るなんて、まさに神の領域だった。


「リナリアはの、お主に劣等感を感じておったのじゃ」

「はぁ?」


 ノアは舞台上のリナリアを見つめながら続けた。


「北の森にリナリアを連れて行かんかったじゃろ?」

「うん、さすがに危ないし」

「それで、あやつは自分がお荷物なのではないのかと悩んでおったのじゃ」

「そんなこと……ッ!」

「ああ、そうじゃろうの。ユーリはそのような狭量な人間ではない」


 そこで、ノアは俺をまっすぐに見つめた。


「しかし、問題は受け止めた側がどう思っておるか、じゃ。実際リナリアは自分がお荷物だと思い、強くなればユーリとともに行動出来ると思ったのじゃろうな。もしくは恩返しが出来る、とか」


 ………そうか、そうだよな。確かに俺はリナリアが心配で学園に残してきたが、残された側の感情がどうだったのかなんてのは、全然考えてなかった。

 全部、ある意味では自分勝手な行動だったのだろう。


「じゃから、結構前からわらわに戦闘指導を仰いでおったのじゃよ、リナリアは」

「ノアに?」

「うむ。なるべくユーリに気付かれんように、とのことじゃったから、わらわの魔力は極力使わず、理論の話と指示が主じゃったがな」


 ………そうだったのか。リナリアもリナリアなりに頑張っていたんだな。

 ふぅ、と俺は息をつき、背もたれに身を預ける。

 全く、気付かないとはなんたる不覚。むしろ俺がリナリアにご主人様なんて呼ばれる資格がないんじゃないかね?

 ま、そんなこと言ったらリナリアは言わずもがな、ノアにも怒られるだろうけど。


「………まずはリナリアを誉めないとな」


 それと治療。


「クックック………、そうじゃの。頑張った子にはご褒美を。当然の行いじゃ」


 俺たちは笑い合い、席を立った。


 それと同時、審判の空砲により第11戦目が終了したことを再度実感するのだった。

 こんにちは、芍薬牡丹です。


 リナリア回で調子に乗ったので、分割させていただきました。


 ………さて、まずはこれでしょう。

 累計100万アクセスありがとおおおおおおおおおおおおお!!!

 ついにミリオン達成いたしました。本当にありがとうございます。いや、こんなに見ていただけるとは、感激です。

 それに加え、文章&ストーリー評価共に300突破ありがとうございます!


 み な ぎ っ て き た


 まだ吹っ切れはしません。


 そして、お気に入りしていただいている方も900件を越え、お気に入りユーザー登録していただいている方も20名と、感謝のインフレを起こしております。

 でも言いますぜ。ありがとうございます!


 そういえば、活動報告で逃げ水云々の変な短編書いたんで、暇になって気分が乗れば御一読下さると嬉しいです。まぁ変なお話ですけど。


 それではこれにて失礼。また次回お会いしましょう。


 ではでは~。



 2010/07/08 21:35

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