第62話:第7戦目
第7戦目。レイの出番だ。
俺は何も言うことはないと言わんばかりに、すでに客席で試合が始まるのを待っている。
「レイはどうやって戦うのかね」
「ふむ………、やはり魔術と武術を組み合わせたものじゃろうて」
「ご主人様はどうやって戦うの?」
最後のリナリアの疑問は、今俺が迷っていることドンピシャだった。
俺は無意識に腕を組みながら考えていることを口に出した。
「うん、今回は魔術を極力使わないような戦い方を研究したいと思ってなー」
「魔法を使わないの?」
「いやもちろん身体強化は使うけど、なんつーか………、無駄撃ちしないって言ったらいいのかな?」
うむぅ、上手く言えん。
まぁそん時になれば分かるだろう。
『第7戦目、開始!!』
「おっと、始まったか。………って、オイ。ちょっとマテ」
俺は客席で微妙に腰を浮かせた状態で固まった。
なぜかというと、
『ぎゃああああああああああ!!』
『うわああああああああああああ!!』
『た、助け………!』
『悪魔だあああああああああああああ!』
選手がゴミの様に空を舞う。一体何が起こっているんだ。
俺は舞台を真剣に見始めた。
◆レイ◆
さあもうすぐ第7戦目開始だ。
僕は舞台に上がって軽く準備運動をしていた。そこに、話しかけてくる1人の男性がいた。
「やぁ、レイネスティア、だったかな」
「ん? ………あれ、あなたは確か………」
「スィードです。近衛騎士隊長の」
言われて思い出した。確か今は学園でセラフィムの護衛をしているはずじゃ?
そう訊くと、笑って答えた。
「いえ、王にマルス祭に出ろと御触れが出まして。あまり興味はないんですが、仕方なく、ですね」
「なるほどね。まぁ僕も暇つぶし程度なんだけど」
そういうと、2人で笑い合った。
しかし、もうそろそろ時間だ。第7戦目が始まれば、互いに敵同士。その点はちょっと気が引けるかな。
「あの、レイさん」
「はい?」
スィードが頭をかきつつ、苦笑しながら提案した。
「どうせ2人しか通らないんでしたら、共闘しません?」
「共闘、か」
そう言えば2人だったね、これ。忘れてた。
少し迷ったが、結論なんて一瞬で出た。
「うん、いいよ」
「そうですか? 良かった、レイさんと戦うとなると、非常に苦戦しそうですから」
「そこで負けそうと言わないのがいいね。そういう消極的な考えは好きじゃないから」
これで負けそうとか言っていたら、僕は全力でスィードを倒しにいっただろう。
なんちゃって。
「ふふ……そうですか、それは何よりです。………っと、そろそろ開始ですね。どういった戦法にします?」
少し考えてみたが、僕は普段独立して殲滅行動をしているので、あまり共闘というものをしたことがない。
ということは、離れてやった方が効率がいい気がする。
そのことを伝えると笑って、了解、と言ってくれた。
「うん、ありがと」
「いいえ、僕はどちらでも大丈夫なので」
この辺、スィードはちゃんとした訓練を受けているからだろう。近衛騎士隊隊長の肩書きは伊達ではない。
「それじゃ、御武運を」
「うん、スィードもね」
そう言って別れてすぐ、審判が出て来て、手を上にあげた。空砲を撃つのだろう。
僕はそっと集中力を高める。
「第7戦目……」
ドゥン!!
「開始ィ!!」
そう言った次の瞬間、舞台には2つの暴風が出現した。
「光刃・一閃」
そう言うと右手に光の剣が現れる。剣と言っても握る柄はない。右手の延長線上に光の剣が出来るような感じだ。なので、掌はチョップのような形をとっている。
その光刃で、僕は周囲の人間を一薙ぎする。すると、剣に当たった人間は残らず吹っ飛んでいった。そう調整したのだ。殺しては拙いだろうし。
「光刃・二閃」
左手にも同じように剣を出す。そして風の力を借り、一歩踏み出すと、鋏のように薙ぎ払う。
するとまた、5人ほどが吹っ飛んでいった。一部客席まで飛んでいるが、死んでいなければ大丈夫だろう。その後のことは知らない。
「光刃・四閃」
さらに、両手に一本ずつ剣が現れる。両手で鋏を持っているような形になった。
そのまま人が集まっているところへ一息で入り込むと、一言。
「解放」
刹那、舞台上は眩いばかりの光に包まれた。
その光の奔流は約10秒後、やっと光の晴れた舞台上には、僕と防御結界を張ったスィードしかいなかった。
「レイさん………、それはやり過ぎじゃないですか?」
「あー、あはは、ごめん。ちょっとやりすぎた」
あーあ、なんていいながらスィードは結界を解除する。周囲を見渡せば、場外や客席に埋まった選手の姿。
いや、なんか無駄にテンションあがってしまった。
なんとなく誤魔化し笑いをしながら客席を見渡すと、ユーリたちの姿を発見した。
その目はなんだか呆れているように見えるなぁと、他人事のように思った。
と、ここでようやく、終了の空砲が鳴る。
第7戦目は、僕ことレイと、スィードが勝ち進んだ。
◆ユーリ◆
第7戦目が始まった途端、2つの暴風が現れた。
1つはレイ。もう1つは………?
もう1つの方を良く見てみる。すると、そこには良く見知った姿を見ることが出来た。
「あれスィードじゃん」
「うむ? ………おお、そう言われればそうじゃな」
スィードは手に白い槍を持っており、そこにおそらく風を纏わせ、敵を風で吹き飛ばすという方法を取っているようだった。人がポンポン飛んでいく。
………あ、飛びながら別の方向から飛んできた人にぶつかって墜落した。
その方向を見てみると、レイが暴走していた。
「おいおい………、やりすぎだろ」
レイは両手に光の剣をだし、敵を全力で薙ぎ倒していた。その姿はまさに暴風。近付くものは全て吹き飛ばしている。
が、それもまだ序章に過ぎないと知ったのはすぐ後だった。
レイは両手に2本ずつ、計4本の剣を出したのだ。その内包する力は、半端ない。
「あれは流石にヤバいだろ!」
あんなので切りつけられたら、すぐに死なないまでも内臓破裂くらいはするかもしれない。
しかし、それは杞憂で終わる。
レイは舞台の中心部へ一瞬で移動すると、何か呟いた。と、同時、その剣が破裂するように弾け、そこにあった魔力が舞台全体に吹き荒れた。その勢いで選手は一瞬で吹き飛んでいった。俺たちのところにも1人飛んできたが、板状の結界を作り、後方へ受け流しておいた。
そうして数秒後、光が収まった舞台では、レイとスィードの2人しか立っていなかった。一瞬レイと目があったが、その直後、第7戦目終了の合図が響き渡った。
「さて、終わったな」
「うむ。………ユーリ」
「………なんだよ」
「おそらく吹き飛んだ選手は、酷い有様じゃろうのぅ」
「………」
そりゃあんな遠くから客席まで飛んだんだ。客席には一応の防御魔法は掛かっているからそれに引っかかって衝撃は軽減されるだろうが、それでもすごい重傷を負っているだろう。
「放置するのか?」
「………」
「ご主人様はそんな人じゃないよね?」
「……………」
なんでこう期待に満ちた言い方をするんだよ。やらないわけにはいかなくなっただろうが。
………まぁ、言われなくともやっていた気もするが、それを言うと負けた気がするので言わない。
「ノア、リナリア、重傷者の確認急いでくれ。俺はとりあえず目に見えた患者から治していく」
「「了解」」
ノアとリナリアの声がシンクロした。
それと同時、お前らは忍者かと言いたいほどにシュンッという音を残し、2人は消えた。重傷者を探しにいったのだろう。
「さて、」
俺もさっさと怪我人探して治していこう。
とりあえず、俺が後ろに受け流した誰かから治そうと思った。