第61話:第3戦目
闘争都市ドレブナイズ。
マルス祭開催の地であるドレブナイズは、まさに闘争都市という名が相応しい。
それはなぜか。
都市は丸く出来ているのだが、その中心に大きな闘技場が置かれ、その周りは様々な店と宿がひしめき合う商業区域になっている。闘技場では毎日のように何かが行われ、商業区域ではもうお祭り騒ぎで、露店も賑わっているし、すでに誰が勝つかの賭けも行われているらしい。
その中でも普通の宿に泊まった俺たち四人は、なぜか今、全員マルス祭の舞台に上がっていた。
「………どうしてこうなったし」
それは簡単。なぜか全員登録されていたのだ。
とにかく、今日は前哨戦。何百人もいる中から人数を絞り込む戦いだ。
方法は簡単。一度に約50人ずつ舞台に上がり、乱戦。勝ち残った2名が次のステージに進めるのだ。
今回の参加人数は約1000人。それをこの乱戦で40人にまで絞ろうというわけだ。
そして、全20戦あるうち、俺は18戦目と、かなり後の方である。しかしノアが3戦目、レイが7戦目、リナリアが11戦目と、バラけてしまったので、俺たちはみんなで応援している。
「まずはノアだな」
「うむ。まぁ見てるがよい」
それだけ言うと、ノアはさっさと選手控えを出て、舞台へ上がってしまった。それを茫然と見送り、俺はすぐに応援席に行かなきゃと、気付き、走るのだった。
舞台は石で出来た円形で、具体的には分からないが、相当広い。50人が乱戦しても支障がないくらいだ。
俺が応援席に行くと、レイとリナリアはもう先に来ていたようだった。
「ご主人様遅いわよ」
「悪い。ちょっと激励に行ったんだけど、あんま緊張もしてないし、大丈夫そうだった」
「そ」
それだけ言うと、リナリアは前を向き、舞台を視界に入れた。
いつにない冷たい反応だが、その顔が僅かに強張っている。どうやら、ノアが非常に気になっているようだった。
「くっくっく………、リナリアは面白いな」
「え!? な、なにがよ?」
「んにゃ、なんでもないぜ」
「んん?」
不思議そうにするリナリアを横目に、俺は舞台を見る。
そこには屈強な男たちが準備運動をする中、眠そうに目を擦りながらぼんやりしているノアが見えた。
その姿があまりにもアレだったので、念話を使い、話しかけてみる。
【ノア、眠いんか?】
そう言うと、ノアはのんびりとこちらを見上げた。
【ユーリか。うむ、こうもいい天気じゃと、どうも眠くなる。猫の習性じゃのぅ】
【お前、やっぱ猫なんだな】
【そりゃあの。さて、わらわは勝っても良いのか?】
その言葉に頭を傾げてしまった。
【なんで?】
【いや、あとあと面倒かなと思うての】
まぁ後のことは後で考えれば大丈夫だと思うけど。それに、それくらいで大事にはならんでしょ。
【大丈夫だと思うぞ。なんかあればフォローするし、フォローしてくれるとありがたい】
【そういうことなら了解じゃ。………っと、そろそろ始まるの。切るぞ】
そう言った途端念話が切れたが、どうやら本当に乱戦が始まるらしい。ちなみに、1戦目と2戦目は見てないので、これが初めて見る試合である。
審判らしき男が舞台の端に上がり、手を上にあげると
ドンッ
という空砲がなった。たぶんこれも魔術なんだろう。
それと同時、審判が「第三戦目、開始ィ!!」と叫んだ。
◆ノア◆
開始の合図が放たれた次の瞬間、わらわに屈強な男が近寄り、話しかける。
「お嬢ちゃん、どこから迷いこんで来たのかな?」
「へっへっへ、まずはこいつからつまみだすかねぇ」
「チッ、ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ!」
なんて、無様。
こいつらとユーリが同じ種族だとは到底思えない。
わらわは一歩、足を踏み出すと、手に空気を圧縮し、それを1人の男の腹にあてがう。
「あ?」
次の瞬間。
ドゥン!
凄まじい音がして、男が吹っ飛び、遥か客席にまで飛んでいった。客席は大騒ぎだったが、こちらは逆に静まりかえっていた。
「………どうした、来んのか?」
今のはただ、圧縮した空気を相手に近接して開放しただけ。魔法じゃなく、手品だ。
しかし、他の奴らにはそうは見えなかっただろう。わらわがその細腕だけで男を飛ばした、などと考える輩まで居るようじゃし、あまり質は高くないのぅ。
そんなことを考えながら、さらに速度をあげ、一歩。男の腹に右掌を添え、解放。
ドゥン!
………うむ。今度は舞台と客席の間、場外にちゃんと落ちたようじゃの。力加減が難しい………。
―――だが、まぁ。
舞台に上がっていた選手の目が変わった。
―――勝つ以外の選択肢などないのじゃが。
「先にこいつからやっちまうぞ!」
そう言った男は、自分の身長ほどある大剣を振りかざすが、モーションが大きく、避けるのはたやすかった。
しかし、わらわはそれを避けてすぐにジャンプで飛び上がった。背後にも選手がいて、氷の玉を名放っていたからだ。
その氷は技後硬直に陥っている大剣使いに命中。昏倒させていた。
「ふむ。まぁ誰も彼もが敵であるには変わりないからの。その判断は正解じゃ。ただし、」
わらわは手に電気を発生させる。
「不用意に近付くのはいただけない」
氷を放った術者は、剣も扱うらしく、氷を放った後に切りかかろうとしていたのだ。
わらわは手にまとった電気はそのままに、優しく男の頭を撫でる。
瞬間、
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」
男の悲鳴が上がる。
感電したのだ。
「ふん。みっともなく声をあげるでないわ、小童め」
男は服を黒く焦げさせながら、ドサリと舞台に沈んだ。
多少のその惰弱さにイラリとしたが、すぐにそんな感情は流れてしまった。
「さて」
と、わらわは周囲を見回す。
そこには、恐怖に歪んだ顔しかおらず、興ざめしてしまった。
「ふわぁ………」
思わずあくびを漏らしてしまう。
「さ、次じゃ」
早くこの戦いを終わらせて、寝よう。
そう思い、そこからは全開でお相手した。
◆ユーリ◆
ノア強ェ………。異常に強ェ………。
俺みたいなバカの一つ覚えみたいな魔術の使い方ではなく、その時々に応じた魔術を使い、しかも消費は最小限に抑えている。こんな使い方は、初めて見た。
風を纏い急接近、後ろ回し蹴りを鳩尾に叩きこみ、すかさず風魔術を使いジャンプ。背後からノアに襲いかかって来ていた男は目標を失い、しかしノアはその男の頭上から雷を落とす。
けっこう魔力を使っているはずなのに、俺の内包理力はそれほど減った感覚がしない。ということは、それだけ変換効率がいいのか、それほど大きな魔術を使わずに敵を倒しているということなのか………。
どちらにせよ、俺が戦ったら負けそうだなぁ………。
「ご主人様? どうかしたの?」
「いやぁ、ノアの強さを初めて見たというか、俺はこんなやつに主とか言われてたんだなぁとか思うと、なんか気が引けるというか………」
ふぅん、とリナリアは頷き、こちらを見ないままでこう言った。
「私も実は結構強いのよ?」
「はい?」
どういうことだ、と訊ねようとした瞬間、ノアと知らない男1人を残し、全てが石の舞台に倒れ伏したり、場外へ飛ばされていた。
ここで、第3戦目終了の空砲が上がり、審判のジャッジの声が響いた。