第55話:北の森
レイ襲来から3時間後、ルチアーナが馬車で学園へやってきた。
ここまで俺は、レイが無害でルチアの護衛をやっているという旨を必死で学園側へ説明していた。
なぜか俺一人で。
と言うのも、アンネもセラも授業があるから無理、などと言われてしまったのだ。スィードもセラに付いていなきゃならないらしい。アンネは俺が離れてもいいのかと訊いたら、別に私一人でも自分の身くらいは守れると言われてしまった。
俺の存在意義は………?
ルチアの馬車が到着するのを外で待っていた俺は、その馬車からルチアが飛び降りてくるのを発見した。
「おっす、ルチア」
「お兄ちゃんひさしぶり!」
体当たりのように突っ込んでくるルチアを優しく受け止める。
「どうしてまた学園に?」
「えっと、地方の村を見て来いっていわれてね、ついでにお姉さまもいる学園にきてみたかったの!」
「なるほどね。で、なんでレイだけ早く来たん?」
「先にわたしが行くってことを伝えてもらおうと思ってね、先に行ってもらったの」
そのせいで俺が大変な目にあったんだが、それで責める気にはならんよなぁ。
「じゃあとりあえずアンネに会いに行くか」
「うん!」
ルチアの手を握り、俺たちは学園の中へ歩みを進めた。
◆◇◆◇◆◇◆
「ルチア!」
「お姉さま!」
教室に付いた時は丁度昼休みになった時間で、アンネの姿をいち早く見つけたルチアはアンネに駆け寄っていった。
やはり先ほどと同じくアンネに体当たりで抱きつき、頭を撫でてもらっていた。アンネも優しい笑みで撫でている。
「ユーリさん、ありがとうございました」
「んにゃ、どうせここまで連れて来ただけだ」
「いえ、レイさんのことも含めてです」
「いや、アレはレイのせいだろ明らかに。学園の外で人化して来れば問題はなかったはずだし」
さて、と一息ついていると、生徒がなぜか帰り始めているのに気付いた。
どうしたんだろうと思っていると、昨日気絶したまま放置されたローレルが話しかけて来た。
「ようユーリ!」
「ああ? あー、ローレルか。なんだよ」
とは言ってみたものの、ローレルの好戦的な目から、何を言い出すかは予想がついている。
「ちょっと提案なんだけど、」
「棄却されました」
「まだ言ってない!?」
やはりリンデイア一族はからかうと面白いなぁ。
「せめて言うだけ言わせろよ!」
「どうぞ?」
「再戦を申し込むぜ!」
「却下」
そんなぁ!?という声は全力で無視し、アンネに訊ねる。
「なんでみんな帰るんだ? 今日はこれで終わりなのか?」
「ええ、そうです。今日は教員の方々が午後から会議を行うらしいので」
なるほど。じゃあ午後は暇になるのか。
「アンネはどっかに行く予定ある?」
「いえ、ルチアもいますし、寮でのんびりしているつもりですが………」
「そか。なら午後はちょっと自由にしていい?」
アンネは少し考えて、頷いた。
「ええ。でしたらセラも一緒に過ごして、スィードに護衛してもらうということにしましょう」
「すまんな」
「いえいえ。………でも、何するんですか?」
俺は少し笑って言う。
「前からの懸念事項を潰しにな」
◆◇◆◇◆◇◆
今、俺の周囲には木しかない。
というか、ぶっちゃけ森の中にいた。
周囲はたまにギャーギャーという鳥の鳴き声がこだまし、背の高い木によってほとんど日の光が地上まで届かない。
日本では絶対に見ない、なんか黄色でぐるぐるにツタが巻いていてしかも時々うねうね動く植物や、体長5メートルは越すような牛と虎の間みたいな動物がいた。
というのも、ここは北の森だ。特に名前は付いていないらしく、みなから“北の森”と呼ばれているらしい。たまに“聖なる森”などと呼ばれることもあるらしいが、俺にとっては、どこが聖なる森だ!と声高に叫びたい気分だった。
ここに来た理由は、至極簡単。以前セラの意識が戻った際、意識がなくなる前に北の森に足を運んだと言っていたからだ。
ならばと暇になった午後を使い北の森に行こうとしたのだが、まず場所が分からない。
で、アンネに訊いたのだが、場所がどうのこうのより、行くなと言われた。
しかしセラみたいなのがまた現れても嫌だし、そもそも瘴気とかの話になると、完全に俺の分野になる。つまり、俺が解決しなくてはならない懸案。
そのことを説明すると、しぶしぶながら教えてくれた。どうやらここから北西へ40キロくらいの場所にあるらしい。
ということで行こうとしたのだが、ここで問題が起きた。
「私も行く!」
「いや、流石に危ないから………」
「行くの!!」
リナリアがごねた。頬を膨らませて抗議する姿は垂涎ものだったが、今回は危なすぎる。
なお食い下がるリナリアを説得すること1時間。結局、今度1日デートすることと、今夜一緒に寝ることと、何かお土産を買ってくるということで妥協してもらった。なんだってこんなことに………。
で、次に起こった問題が、どうやって行くか。
これは案外早く解決した。
自転車だ。
俺は創造魔術で自転車を創った。細部は流石に想像出来なかったのだが、大まかな原理や形は想像出来るので、それを元に創造したわけだ。
そして、最近覚えた空力操作で背後に概念としての噴射口を付けて準備完了。あとは荒れ地や草地なんかをジェット噴射で爆走するだけだ。
俺はアンネやらリナリアやらその他色んな人に見送られながら出発した。レイはなんか異様に落ち込んでて使い物にならんかった。
で、現在。
「な、なぁノア(小声)」
「………なんじゃ?(小声)」
「あれ、なんだ?(小声)」
「………食虫植物?(小声)」
ああ、確かに食虫植物だろうよ。………形だけはな!
なんつーか、ハエトリソウみたいな二枚貝のような葉を持っている。ハエトリソウはその二枚の葉の間に入った虫を食べているはずなのだが、………こちらのソレは、大きさが違う。
「ハエトリっつーか、ヒトくらいトリそうだな」
「じゃのう。しかもやたら動いておるし、食う気まんまんじゃの」
俺たちは木に隠れながら巨大ハエトリソウを見ていた。
と、そこに、
「あ、あれは………虎?」
「虎、と言ってしまうには非常に抵抗があるが、何かと問われれば、やはり虎かの」
虎に羽根が生えて蛇の尻尾を持ち、爪と牙が異様に鋭いやつがいた。体長3メートルほど。勝てる気がしねぇ。
そいつは巨大ハエトリソウに気付いていないのか、森の中をのっしのっしと歩いていた。
「ヤバいのでは?」
「う、うむ………。しかしこれも食物連鎖じゃろうて」
「スケールのでかい食物連鎖だな」
そしてそのまま見ていると、巨大ハエトリソウの狩猟圏内に入ったのだろう、虎もどきは一気に巨大な二枚の葉に挟まれてしまった。
グガアアアアアアアアアアアアア!!
虎もどきの咆哮が聞こえ、中でもがくが、なぜか葉は破れることがなかった。
そして5分後。
「……………」
「……………」
虎、完全に沈黙しました。
「………生きて帰れるかなぁ」
「………だ、大丈夫じゃろ………たぶん」
俺とノアの、ジャングル探検隊は続く。
誠に申し訳ありませんが、いよいよ更新が滞りそうです。
とりあえず、単純計算で6月19日には帰ってこれると思いますので、何卒ご了承いただけますようご報告させていただきます。
では、また。