第50話:魔法理論
二限目。魔法理論。
「ではまず復習から入りますね。そもそも魔法には属性魔法と神霊魔法があり、―――(中略)―――つまり、これを代価魔法ということもあるわけです」
………。
「アンネ、分かりやすく説明してくれんか」
「………了解です」
二限目は魔法理論とのことで期待していたのだが、正直、理解が追いつかなかった。
やはり新しい理論体系というのは覚え難いものですね。
「何から訊きたいですか?」
「全部だ」
「………把握しました」
ふぅ、とアンネは1つ息を吐いた。
「魔法には、大きく2つのまとまりがあります。1つは属性魔法。もう1つは神霊魔法です」
「属性魔法っつーと火とか水とか?」
「そうです。でも、この2つはさらに2つずつ分けることが出来て、属性魔法はそのまま属性魔法と無属性魔法。神霊魔法は神聖魔法と精霊魔法に分けられます」
俺は頭の中で図を作る。
属性魔法┳属性魔法
┗無属性魔法
神霊魔法┳神聖魔法
┗精霊魔法
というわけか。図で表すと分かりやすいかも?
「まず属性魔法ですが、先ほど言われたように色々属性があります。“木”“火”“土”“金”“水”の5つですね」
………五行?
陰陽五行思想か?
こういうのってヨーロッパの四大元素が普通だと思ってた。いわゆる“空気(風)”“火”“水”“土(地)”の4つだ。
「たまにユーリさんが使っている風魔法は、木属性の派生系ですね。雷は水属性の魔法ですね」
「なるほど。しかし、なんで風は木属性なんだ?」
「これは昔の人が考えたことなんですけどね、見えない風を唯一見ることが出来たのが揺れ動く木や草だったかららしいです」
ああ、そうか。視覚で確認出来る一番身近なのが草木だったわけね。
「まぁ雷は分かるわ。氷の摩擦だもんな、あれ」
「そうなんですか?」
「ん、知らんのか。地表が温められて発生した上昇気流に乗ってきた水蒸気は湿度が高いほど低層から飽和水蒸気量を越えて水滴になり、雲になる。その水滴が高空まで運ばれると、気圧の変化で氷結するんよ。で、それ同士がぶつかり合うことで静電気が発生すると、雲の上層と低層に電位差が出来る。この差に落ちるのが稲妻ってやつだ。で、雲の低層と地表の間にも電位差が生じると、ここに雷が落ちる、と。こういうわけだ」
「は、はぁ」
うむ? 反応が思わしくないな。
「えっと、正直分からないことだらけだったんですが………」
……………あ。
そりゃそうだわ。何言ってんだ俺。
「あー、すまん。今のは理解しなくていい。とりあえず今は魔術の説明をお願いします」
「え、あ、はい」
アンネは気を取り直すようにゴホンと一つ咳をした。
「で、この五属性ですが、それぞれ司っているものがあります。得意分野みたいなものですかね」
「へぇ、そうなんだ」
「ええ。木は成長。火は死滅。土は不変。金は堅固。水は生命。と、なってます」
なるほど。その辺は五行と変わりない、かな? 俺もよくは知らないんだけど。
「次に無属性魔法ですが、これは置いといて先に神霊魔法にいきましょう」
「うぃー」
「まず神聖魔法ですが、これは神様に力を貸してもらう魔法です」
「というとルドラみないな?」
「そうですね。私が以前使ったルドラ召喚の魔法はこれにあたります。それと、精霊魔法も精霊に力を貸してもらうものですね」
なるほど。これは使い勝手がよさそうだ。個々が思考できるということは、臨機応変な対応が出来るはず。
「これは属性魔法のように自分の魔力を変化させているものではなくて、神様や精霊に魔力を渡し、その見返りに力を貸してもらうものです。これは未熟な魔法士が使うとごっそり魔力をもっていかれたり、しかも力を貸してくれなかったりするので注意ですね」
「色んな神様がいるんだなぁ………」
といいながら、隣ですでに寝始めているノアを見る。
「で、最後に無属性魔法ですが、これは他と少し異なります」
「ほほぅ?」
「これは代価魔法ともいいまして、自分の魔力を代償に、世界に変化を促す、というものなんです」
「………例えば?」
「ユーリさんの創造魔法や亜空間魔法なんかもこれに入ります」
あー、なんとなく理解できた。つーか、今までので説明つかないやつを無属性魔法、つまり代価魔法と呼んでるわけか。
じゃあ、もしかして俺の治癒魔法もどきもこれに入りそうだな。
「んじゃあ、属性魔法の司る領域ってのはどんな感じ?」
「えっと、その属性が得意なところですかね? そうですね……木属性なら付与系ですかね。火は純粋な破壊。土は保護。金は防御。水は治癒です」
「土の保護ってなんだよ?」
「防御のちょっと違う形のなんですけど、滅多に使いません。覚えなくていいです」
「そ、そうですか………」
土系統可哀想です。でも力が不変ってなんか良さそうなんだけどなぁ。
あれ、そういえば………
「なぁアンネ。以前レイが光の剣みたいなの出してたんだが」
「ああ、それは火属性ですね。火は熱と光の属性ですから」
ああ、そかそか。納得。
「じゃあ光属性とか闇属性はないのか」
「えっと、それがそうでもなくてですね………」
アンネは目を閉じ腕を組み、色々考えていたが、整理できたのか目を開いてこちらを見た。
「これらとは全く別の魔法というのがありまして、古代魔法というのがあります」
「古代魔法?」
「ええ。もう文献にしか残っていない魔法です。そこには光と闇の魔術があったらしいですが、今ではその原理も使い方も、想像すら出来ませんので、使える人はいません」
いわゆるロストテクノロジーというやつなのだろう。
確か俺の世界にもいくつかあったはずだ。ピラミッドとかストーンヘンジとか。
「なるほど。だいたいの理解は出来た。ありがとよ」
「いえいえ、これくらいお安いご用です」
そこで、座っている机に影が差した。
俺たちは揃って、ゆっくり顔をあげる。
「もういいかしら?」
「「……………」」
目の前に、教師が立っていた。
こめかみに青筋立てて。
後書き小話【姫と龍の小旅行】
「ねー、レイ。まだつかないの?」
「そうだねぇ、あと一時間くらいかな?」
僕ことレイネスティアとルチアーナは、もうすぐ何回目かの村へ着く頃だった。
すでにいくつか村を回ってきた。どうやら税率も厳しくはなく、それなりに幸せな生活をしているらしい。
ただ、ところどころで奴隷と思わしき亜人やエルフを見た。しかしそれは所有物であるため、こちらから干渉することは出来ない。
………いや、本当は出来る。法律があるのだから。しかし黙認してしまっているのは、この村の村長か領主か。どちらにせよ、早急になんとかしないと駄目だろう。
どちらにせよ、それらは城に報告しないと何も始まらないのだけど。
「レイ?」
「ん、なんでもないよ」
僕はルチアーナに和みつつ、笑いかけた。
僕は龍人だ。でも、他の奴らみたいに人間を悪しざまに下等生物だと切り捨てられない。
ルチアーナのような無邪気さに癒されもするし、セラフィムの落ち着いた姿にも心穏やかになれる。そして、アンネルベルのような、僕と同等の力を持つ者もいる。
それは、ユーリのせいだとも、ユーリのおかげだとも言えた。
(良くも悪くも人に影響を与えるタイプだよねぇ、あれは)
僕は内心で苦笑した。
これからユーリに影響を受け、変わっていく人は多いだろう。それでもその中で変わらないものを見つけられたなら、それは自分にとって、とても大切なもの。
僕の中の変わらないものって、なんだろう?
「ねぇ、レイってば」
「あ、ごめん」
なんでもないと言ったそばからこれだ。気を付けないとね。
「んじゃあ何して遊ぼうか」
「そうだねー、それじゃあ―――」
こうして、今日もまったりとした時間は過ぎて行く。