第49話:一限目
「お断りです」
バッサリ。
そんな表現がぴったりな言葉だった。
おそるおそるアンネを見ると、………なんだろう、笑顔なんだけど、目が笑っていない。よく見る表現ではあるが、実際見るとこんなに恐ろしいものだとは思わなかった。
一瞬ポカンとした男だったが、すぐに不適な笑みを浮かべる。
「ふ……ふはは………! オレは別に付き合って欲しいなどとは言っていない! ただ想いを述べただけなんだから、その応えはおかしいだろ!! 自意識過剰だなぁ!!」
うざー。
てか、お前は一体何がしたいんだ。それと、お前が思ってるよりアンネは計算高いぞ?
アンネは笑っているのに笑っていないという奇妙な顔をしながら言った。
「だから、お断りです」
「はい?」
「その気持ちすらお断りだと言っているんですよ」
「気持ちすら!?」
告白の前段階で拒否られる男の気持ちって、どうなんだろう。
とりあえず、床に倒れ伏した姿を見ていると、なんとなく予想はつくが。
「………で、こいつ誰よ」
はぁ、とため息をついたのはティアだった。
「こいつはわたくしの護衛をしているローレルですわ。残念ながら」
可哀想になってきた。というか、気の毒に思えてきた。
「ローレル、起きなさい」
ティアが床に手をついてうなだれているローレルに呼びかける。
「ちょっとオレ死んでくる」
「あ、それは良かったわ。逝ってらっしゃい」
「止めろよ!?」
「なんで?」
「いやそんなさも意味が分からないみたいな言い方やめて?」
………漫才でもしてんのかお前ら。なんかティアとローレルって、同じ方向性の性格な気がする。
そう、つまり。
「似た者同士だな」
「「似てない!」」
「………ハモんな」
なんだか脱力してしまう光景だった。
そんな光景を全く見ずに、アンネはすでに授業の準備をし始めていた。
ノート。もちろん日本のような立派なものではないが、一応製紙は出来るらしい。あと、教科書はないようだ。
「ユーリさん、早く準備した方がいいですよ。もうすぐ始業時間ですから」
「おお、了解だ」
「ちょっと、わたくしを無視しないで下さる!?」
「そうだそうだ! ティアリスはともかく、オレを無視すんな!!」
「なんですってローレル!!」
「なんだよやるか!?」
ブチッ
「うるさい」
ゴチンッ
「だぁ!」
「ぐぉ!」
俺は2人の頭をぐわし、と掴むと、互いの頭にぶつけた。流石に色々限界だったんだ。
次の瞬間、騒然とする教室内。『ティアリス皇女様を殴った!?』とか『ローレルに一発叩きこめただと!?』とか。まぁ、そんなのどうでもいいが。
頭を押さえたまま悶絶する二人を放置したまま、俺は授業の準備を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆
一限目。算数。
さっそく、俺は脱力した。
いや、算数が悪いわけではない。この世界では計算が必要な場面は多々あるし、これは一般教養の一部でもあるだろう。基本知識と言ってもいい。
しかし、しかしだ。
日本で学歴社会と言う拷問を受けた俺には、耐えられないことがあった。
それは―――
「なんで九九算が出来ねェんだよお前!!」
なのだった。
突然叫び出した俺に、女性の教師はビクビクと怯えていた。
どうやら、この世界には九九というものは存在するが、それほど大事にはされていないらしい。別になくても出来るから、らしいのだが。
「………いや、許せねェ。許せねェよ」
くっくっく………、と笑い続ける俺は、さも奇妙に見えただろう。
いや、しかし。と、俺は考えてみることにする。
なんか自然にアンネと同じクラスにいるが、俺よりアンネは2つくらい年下なのだ。ならば、授業内容は遅れていて当たり前。さらに言えば、ここは異世界。もちろん授業内容も違うだろうし、進行速度も授業順序も違うだろう。
そう考えればあまり気にすることではなさそうだが、………九九は大事だろう。
「アンネ、そんなに九九は大事じゃないのか」
「ええまぁ………乗算も足算が出来れば必要になることなどありませんし………。そこまで時間をかけてするものでもないと思うのですが………」
なるほど。ここの世界の人はよほど気が長い人が多いんだろう。なんて幸せな世界。ストレス社会の日本とは大違いだ。
ただまじめな話、これから国が発展する中で、書類が早く終わらないというのは致命的なものとなる。実際、王城では書類がたまりにたまっていた。これでは国民の不満や不安は広がるばかりだろう。そうならないためにも、計算能力の高さは、とてつもないアドバンテージになる。
なので、俺は心を鬼にしてアンネに告げる。
「アンネ、寮に帰ったら九九を暗記してもらう」
「え、ええぇぇぇぇぇえええええ!?」
アンネの悲痛な叫び声が上がった。
………いや、俺は別にサドじゃないよ? ホントだよ?
時間がない!!
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投稿ォ!!!




