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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第三章 フォレスティン学園
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第48話:時よ止まれ

 本日、寮での目覚めは、とても心地良いものだった。

 ベッドは確かに城のものより、若干肌触りは悪くなっている。しかし、今、手に触れるこの柔らかな感触は、どんな高級なシルクさえ霞むほどの質感だった。


「うむぅ〜……」


 目が開かないほどに寝ぼけたまま、ソレを抱き締める。

 気持ちいい。ほのかに暖かく、それが安心感を与えてくれるようだ。

 少し強めにそれを抱きしめる。


「んぅ………」


 ………何か聞こえたような。いや気のせいだろう。ありえない。


「んん………」

「んにゃぁ………」


 何か両側から聞こえたような………。いや気のせ………い、じゃねーよ!!


 ガバァッと起き上り、左右を見る。

 右隣にノア。水色のパジャマを着ている。俺が以前創ったやつだ。

 左隣にリナリア。こちらはピンク色のパジャマ。ノアのを見て欲しいと言われたので創った。

 ちなみに今抱きついていたのはリナリアらしい。あのもふもふ感は、おそらく尻尾だろう。


「うん。どうしてこうなった」


 考えてみよう。………寝起きの頭で考えられると思ったの? ただでさえ今は混乱中だと言うのに。


「とりあえずお前ら起きろ」

「んぁ………ごしゅじんさまぁ………」

「んむぅ………いまなんじにゃぁ………?」


 ………ッ!

 なんという破壊力!!


 いやまて、とりあえず萌えるのは後にしよう。こんなとこ誰かに見られでもしたら………


 コンコン


 キターーーー!!


 自分でフラグ立てといてなんだけど、早すぎませんか!?


「ユーリさん、起きてますか?」


 アンネだった!

 しかも訊ねながらも鍵開けただと!? なんで俺の部屋の鍵持ってんだ!?


「おはようござ……………」


 時よ止まれ。


「………」

「………」


 アンネの目が徐々に細くなっていく。軽くドアノブに置かれていた手が、堅く握りしめられていく。

 アンネをまとう魔力が、急に大きくなった。


 そして時は動き出す。



◆◇◆◇◆◇◆



「おはようございます、アンネルベルさん。それとユーリさ………」


 教室に入ってきて、挨拶をしたティアが、固まった。


「………ユ-リさん? あなたはいったいどこの怪物と戦ってまいりましたの?」

「危険ってのは、案外身近に潜むものなんだよ」

「は、はぁ………」


 ティアは納得のいかない顔をしながらも、席に座った。

 それもそうだろう。今、俺は腕に包帯を巻いているからだ。

 あの後アンネから制裁を与えられた結果だ。なんとかかわし続けたものの、怪我は免れなかった。

 そして気付いたのだが、どうやら俺は俺自身の怪我を治せないらしい。なんとか上書きオーヴァーライトをしようとしたのだが、どうやっても作り上げた魔力の肌が、自分に吸収されてしまう。つまり俺の体は、俺の魔力には騙されない、と言うことなのだろう。

 なんとも便利なんだか不便なんだか分からない魔術になってしまった。


 ちなみに、俺が彼女らと一緒のベッドにいた理由だが、良く考えれば俺のせいだった。

 昨夜はノアとリナリアにベッドを使ってもらい、俺はソファーで寝た。その際リナリアから猛反発があったのだが、ここでは割愛する。

 そして夜中、トイレに行って帰ってきた俺は、そのままなぜかベッドに入ってしまったらしい。


「………ユーリさんの自業自得ですよ」

「まぁ、そうだな」

「………やりすぎましたごめんなさい」

「………いいよ、別に」


 こうして謝れるところは、アンネのいいところだと思う。今回は俺が全面的に悪いのだけど。


「で、今日から授業なわけだけど、何するんだ?」

「ああ、今日は午前中は算数と魔法理論ですね」

「魔法理論?」

「ええ、魔法には色々な性質がありますから、それを体系化させたものです」


 ああ、なるほど。そういえば具体的にどんな魔法があるとか知らないもんな。これは興味深い。


「算数は俺んとこのと変わらんだろ。午後は?」

「午後は戦闘訓練です。武術の人と魔法の人で分かれます」

「アンネは魔法組だろ?」

「ええ、たまに武術もしますけどね。ティアもそうですよ?」


 俺は少し離れたところにいるティアを見る。

 そう言えばペガサスのルーリィはどうしてんだろ。こっちの世界にいないとなると、使い魔と言うより召喚獣みたいだな。


「そういえば、ティアには護衛いないの?」


 ティアもリンディア帝国の皇女なわけだし、護衛がいてもおかしくないはずなんだけどなぁ。


「ああ、いますよ。いますけどね………」


 なぜかアンネの顔が陰る。


「あの人は、」


 言いかけたアンネの声に被るようにして、教室のドアが勢いよく開かれた。


「おはようさーん、今日もみんな元気かー?」


 入ってきた男は、黒に近い蒼色をした短髪の、なんか軽そうな奴だった。

 つか、なんであんな奴が………、とか思っていると、ガタッというとこが聞こえ、そちらを振り向くと、


「あ、あなたいままで何をやってらっしゃったの!?」


 ティアだった。


「いやぁ、ちょっと山で遭難してたんさ。許してくれよ」

「あなた、わたくしの護衛でしょうに!」

「そうだけどさ、やっぱ男としては冒険に憧れる気持ちと言うか………お?」


 そこで、やつがこちらを振り向いた。と思ったら、凄い走ってこちらへ向かって来た!


「アンネルベル様!!」


 ズザァッ!と片膝をついてアンネの手をとる男。

 何をするのかと思えばそのまま手の甲に口づけをした。

 ………いや、正確には、しようとした。


「ッ!」


 瞬間的に、男はその場から離れる。


「………なんだ今の魔力の動きは?」


 どうしたんだろうと思っていると、僅かながらアンネにあげた腕輪が反応しているのが分かった。

 どうやらアンネは今のを攻撃と判断したらしい。もしかしてこの男、アンネに嫌われているんだろうか。


「………いや、オレは諦めねぇぜ!」


 暑苦しくも男はそう言うと、教室内なのに大声で叫んだ。


「アンネルベル様! 大好きだ!!」

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