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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第三章 フォレスティン学園
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閑話03:サンローズ

 ◆レイネスティア◆


 ユーリが学園へ向かってからも、僕の生活は変わらなかった。

 たまに町へ行ったり、あとは屋根の上で昼寝をしたり。もちろんルチアーナの護衛を頼まれているのだが、町へ行くときは警備が十分か確かめてから行くし、屋根の上にいるときは、さらに大丈夫だ。というのも、僕は龍族であり龍人である。ということは、身体能力も一般人とは比べようもく、魔法にも長けている。つまり、城くらいの範囲であれば、安全確認は簡単なのだった。

 ついでにいえば、ルチアーナには風の精霊を付けている。危機が訪れたらすぐに分かるはずなのだ。


 そして今、屋根の上で昼寝をしている僕の耳に、最近では聞き慣れた声が聞こえてきた。


「レイー!」


 ………どうやら姫が呼んでるみたいだ。

 僕は立ち上がると、屋根の端まで歩いて行った。そして無造作に落下し、その途中で屋根の端に手をかけ、そこを支点に真下にあった窓へ飛び込む。


「わっ!」


 少し驚かせてしまったが、飛び込んだ先にあった廊下には、アンネルベルよりも白い金髪に、幼い体をドレスで着飾った、クレスミスト王国第三王女ルチアーナ・クレスミストがいた。

 僕はユーリたちが学園に行っている間、ルチアーナの護衛を任されているのだ。


「やぁ、どうしたんだい?」

「もう! 驚かせないでよ!」

「あはは、ごめんごめん」


 頬を膨らませるルチアーナだったが、実はそれほど怒っていないというのはなんとなく分かった。


「それで、何か用?」

「うん、ちょっと外へ出るから付いて来て?」

「いいよ、了解」


 こうしてたまに、ルチアーナはお忍びで城下に出ることがあるらしい。


「で、何しに行くの?」

「んー、ちほーあんぎゃ?」


 ………えーっと、その言い方だと今日中に戻って来れなさそうなんだけど。


「お父様がね、一度地方がどうなってるか見てこいって。ついでに学園まで行くよん」

「あー、じゃあちょっと準備しなきゃね」

「んーん、もう準備終わってるからすぐ行くよー」


 準備終わったって………僕の分も終わったんだろうか。

 ま、いいか。いざとなれば龍化してひとっ飛びだし。旅になるなら馬車だろう。


「分かった。じゃあ行こうか」

「うん!」


 そう言うと、僕の手を取り歩き出すルチアーナ。天真爛漫とは、この子こそ指す言葉だろう。

 しかし同時に、少し恐ろしくも思った。

 まだ幼いのに、全ての準備をしてから僕に言うという方法を取った。これは、僕が非常に断りにくくなる方法だ。もし政治に転用したなら、この力は大きい。

 ルチアーナの行く末が気になるなぁ、と思う僕だった。


 ルチアーナに連れられ外に出る。すると、兵士の練習場が遠くに見えた。どうやら、誰かと誰かが円形闘技場で試合をしているらしい。

 確かあそこは以前、ユーリがキレてサンローズとかいう近衛騎士隊副隊長をボコボコにしたらしい場所だ。

 そういえばサンローズはどうなったんだろう?


「レイ? どうかしたの?」

「あ、ううん。なんでもないよ」


 少し考えこんだ僕を不思議に思ったのだろう。ルチアーナが僕を覗き込んでいた。


「それじゃーしゅっぱぁつ!」


 ルチアーナが元気良くときの声を上げる。

 それっぽく聞こえただけで戦闘はしないけどね、などと自分にツッコミをする。


 さて、出発だ。



 ◆サンローズ◆


 剣を振る。

 風の刃を飛ばす。

 しかし、目の前の男には掠りもしない。

 受け止められたりかき消されたりするのではない。全てかわされるのだ。


「畜生!!」

「すぐ熱くなる性格は直した方が良いな」


 勢い良く薙いだ剣は、相手がしゃがみ込んだことによりかわされる。そして剣を振ったことにより生じた隙を相手が逃すわけもない。


「隙あり」

「ぐぅッ!」


 腹に衝撃。

 どうやら何か魔法で打たれたらしい。

 吐きそうになるのをこらえ再び起きあがると、相手はその場でこちらを静かに見ていた。


「サンローズ………お前本当にやる気あるのか?」

「当たり前よ!」

「ならとりあえず一旦休憩だ。その血の上った頭を冷やせ」

「なッ……私はまだ、ぐッ!」


 まだ先ほどの衝撃が腹に残っているのか、すぐに膝をつてしまう。

 それを見た相手は軽く溜め息をついた。


「だから、だよ。お前はまだ近衛騎士隊の副隊長なんだ。無理をするような馬鹿でないことを祈るぞ」


 そう言って、相手は円形闘技場から降りて行った。

 ………今まで戦っていた相手と言うのは、王国総軍隊長のバイマーだ。その力は近衛騎士隊隊長スィードに僅かに劣る程度とされている。

 どちらにせよ、私よりも強い。


「ちッ」


 腹の痛みを我慢し、なんでもないように闘技場を降りる。

 確かに、少々熱くなっていたかもしれない。………こう思えるようになったのも成長なのだろうか?

 私は少し離れた場所にある木陰で、木を背もたれにして座り込んだ。


「それもこれも、あいつのせいよ………」


 声に出してみると、ふつふつと怒りのようなものが込み上げてくる。………しかし、それとはまた別の、何か分からないものも浮かんでくる気がした。

 ………少し考えてみると、どうやら浮かんでいるのはあの亜人らしかった。


 私は、クレスミスト王国の出身ではない。もっと向こうのリンディア帝国でもない。そもそも、人間の国ではない。

 亜人の国だった。

 そこで私は、奴隷のように扱われていた。………いや、奴隷として扱われていた。

 当時幼かった私には分からないことだったが、亜人の国では人族が虐げられているのだった。

 襤褸ぼろ切れのような布で肌を隠し、亜人からの暴力に耐え、………しかし、ようやく逃げるという考えが浮かんだ時、すでに歳は10を数えていた。

 幸いにも私には魔法の才があったし、それなりに扱えた。


 そして、11歳の誕生日、私は初めて人を殺した。


 それは、私を端金はしたがねで買った誰かだった。もう顔も覚えていないし、思い出したくもない。


「はぁ………」


 ここまで思い出して、私は深く溜め息を吐いた。

 なんでまたこんな欝なことを思い出したんだろう。………ああ、なんとかっていう亜人のことを考えていたからか。

 ………私だって分かっている。これはただの八つ当たり。

 でも、私は我慢できなかった。………我慢できない性格になってしまっていたんだろう。


 あの場所を逃げ出した私は、人間の貴族に拾われた。太った醜い奴だった。

 どうやら私は可愛い容姿をしていたらしく、色々着せ替え人形のようにされたが、いい加減鬱陶しくなったのでデブが税金を横領していた証拠をある貴族に渡した。ある交換条件とともに。

 その交換条件とは、その貴族の養子にしてもらうこと。

 そしてデブ貴族は地位を落とされ、私は養子になった。

 デブ貴族が落ちたことにより、私を養子にした貴族は地位が上がった。その地位は、侯爵。

 これで権力を笠に着た私は、今までの鬱積を晴らすように、我慢をしなくなった。


「………はぁ」


 私は二度目の溜め息を吐いた。

 どうにもあの男、ユーリとかいうやつと会ってから調子がおかしい。あいつに腕や足を切られた時は絶望したが、医務室で目覚めると、今までのことが夢だったかのように、綺麗に手足は無事だった。

 しかし、感じた恐怖と絶望は、私の心の奥に根付いた。

 それと同時に、ある欲求が私を駆り立てた。

 それは、


 あの男を倒したい。


 別に、殺したいとかではない。純粋に、再戦したいのだ。

 今度はちゃんと、あんな殺し合いではなく。

 そして、私の今の力でどれほど食らいつけるのか、試してみたい。

 勝てるとは思っていない。それはそうだ。あれでもまだ手加減していたと思うから。


 それでも。


「……………」


 私は右手のひらを見て、握りしめる。


 戦ってみたい。

 そして、私の過去と決別したい。

 強く、なりたい。

 過去に囚われず、今を生きれるように。


「………ん、よし。大丈夫」


 軽く気合いを入れる。

 もし次にあの亜人と会ったら、………謝れる、だろうか。

 そんな意味でも強くなりたい。


「私も変わったわね………」


 今までだったら暗殺くらいするかもしれない。無理だとは思うけど。


 と、その時、近衛隊の服を着た女の子が近寄ってきた。………おそらくだけど、私の隊の誰かだ。名前は覚えていない。………というか、名前を覚えようともしなかったな、そういえば。


「あ、あの、サンローズ副隊長!」

「………なに?」


 私は今までの癖で、不機嫌な返事をしてしまう。………失敗した。次はなんとか柔らかい受け答えを―――


「み、水です!」

「いらない」


 ………しまった。そうじゃない。


「ご、ごめんなさい、失礼します………」


 とぼとぼと去っていく女の子の背が、どこかしょんぼりした犬を思わせ、少し笑ってしまった。

 っと、それどころじゃない。


「ちょっと、待ちなさい」

「え、あ、はい!」


 こちらへ振り向き、直立不動になる彼女。


「貴女の名前は?」

「え、えっと、私はカレリアであります!」


 カレリア、か。覚えておこう。


「なぜ私を気にかける? おそらく私は嫌われていると思ったのだけど」

「わ、私はサンローズ副隊長の武勇を見、近衛隊に志願したであります! 副隊長は私の目標であります!」


 ………馬鹿がいる。私なんかを目標にしたら性格破綻者になる。


「やめときなさい。私なんかを目標にしてたらあとで後悔するわよ」

「私はサンローズ副隊長を目標にしています。私の目標を貶めることはどうかやめて下さい」


 そう言うとなぜか泣きそうな顔になった。

 ………なんなんだこの生物は。目標にされる私の身にもなりなさいよ。


「………水」

「は?」


 これで私は部下の前で無様な姿は見せられなくなったじゃないか。


「水、くれるんでしょ?」


 今度は笑顔で言えただろうか。


「あ、はい! どうぞ!」


 渡された水に、感謝の意を述べ、一息に飲み干す。


「さて、と。じゃあもう一度行ってくるわ」

「はい! 私、応援してます!」


 私は立ち上がり、闘技場へ向かって歩き出す。

 周りの兵士たちは、今のやり取りに目を疑っている様子だったが、そんなのどうでもいい。

 私は強くなる。


 あいつに、ユーリに勝てるように!


 闘技場に上がった私を見て、バイマーはニヤリと笑った。


「どうやら落ち着いたようだな」

「大きなお世話よ」

「お前にも味方はいるんだな」

「何それ。味方皆無みたいな言い方はやめなさい」

「クク………、今まではそうだったろうに」

「もういいでしょう、今はそれより―――」


 ガキィンッ!!


 私の剣とバイマーの剣が、初めて交差した。


「戦いましょう?」


 ………そういえば、ユーリは今なにしてるんだろう?


 サンローズさんのターン。


 この話で、本編・閑話込みで50部目となります。本編47話プラス閑話3話という計算ですね。


 それにともない、ユニーク5万ありがとうございます!

 もうなんとお礼申し上げればよいか………。それに、もうすぐ累計アクセスも50万いきますしねぇ………。予想をはるかに超える結果です。


 さて、サンローズさん。今回の話は賛否両論ありそうで怖いのですが、サンローズは“亜人”というもの全てに憎しみを向けています。幼いころのトラウマというのは、そう簡単に消えるものではないですしね。


 レイは………、まぁルチアと軽い旅に出ます。多くは書きませんが、学園までの道を進みながら、地方の村を視察しに行くといった感じです。もちろんルチアのほかにちゃんとした査察官もついていきます。ルチアはただ見分を広めるために、って感じですね。


 さて、長くなりましたが、ここで失礼させていただきます。

 また次回、お会い出来ると幸いです。


 ではでは~。

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