第46話:新しい絆のカタチ
◆ノア◆
「わらわは少し離れておるぞ」
「うぃー」
そう言ってユーリの元を離れる。
次の瞬間には、ユーリは空間を断裂させ、召還の体制へ入った。
「しかし、相変わらずの理力じゃのぅ………」
実は、ユーリの理力はこの世界に来てからじわじわと増えている。本人は気付いていないだろうが。
そして、理力と魔力の魔術を発動するにあたっての変換効率を考えると、理力が1増えると実際使える魔力は1000増える計算だ。
そもそも、身体能力が異様に上がっていることに疑問はないのだろうか………。
いや、どうせユーリのことだ。わらわが何かしたんだろう、としか思っておらんのだろうな。あれは純粋にユーリの力だというのに。
「さて、何が出るかのぅ」
ユーリのことだから、どうせまた女のナニカを喚んでしまうのだろう。正直、これ以上ユーリの周りに女性が増えるのは好ましくない。それに、使い魔といえば、主人を守る相棒のようなものだ。自分はユーリの相棒だと自負している分、新たに相棒として使い魔が現れるということを考えると、胸にチクリと痛みを感じる。
………しかし、だからといってユーリに召還しないで、とは言えない。自分にだってプライドというものがある。
わらわの主はユーリ1人。
それは、ユーリに“ノア”と名付けられた時に、心に決めたこと。
自分には、ユーリと生きていくより他に、道はないのだ。そして自分もそれを望んでいる。心から。
しかし、次の瞬間、全ての思考が吹き飛んだ。
「む? な、なんじゃこれは!?」
足が動かない。と気付いた瞬間、下に薄く魔法陣が現れ、徐々に足元から体が薄れていったのだ。
「ゆ、ユーリ! おい!!」
しかし、ユーリとは存在する空間が違うので、声は届かない。
ならば、とアンネを見るが、その瞬間に気付く。
今は人型だ。
すなわち、ユーリ以外には見えない。
それはつまり、声も届かないということだ。
「アンネ!」
叫んでみるも、誰にも届かず虚空へ消えるのみ。
ルーリィとルドラは見えたはずだが、すでに天界へ還ってしまったようだ。他の使い魔ならいいが、神獣と神ともなれば、いつまでも地上にいるわけにはいかないだろう。どこかの研究所に送られるのがオチだ。
「この魔法陣は……、もしや転移陣か!?」
魔力の流れからして、どこか違う空間へ自分を押し流すようにしているのが分かった。
足元から薄れていったのが、すでに腰上あたりまで消えてしまっている。
しかし、それではユーリと離れ離れになってしまう!
「くそっ! ユーリ! 聞こえぬのかユーリ!!」
しかし、呼び掛けも虚しく、わらわはその空間から、消えた。
一瞬後、周囲の景色は一変していた。砂が舞い上がり、視界は零。それに、空気も全く違う。………理力が渦巻いていた。それも莫大な。……………少なくとも、先ほどまでいたあの世界とは別の空間だ。
そして次に、前方に気配を感じた。
さらに、こうして召還されたことにより、先ほどの転移陣らしきものが召還陣であることを理解した瞬間、
キレた。
「殺す」
わらわの幸せを奪った召還者に、死を。
この時、誰も気付かなかったが、自分の瞳孔は縦に割れ、その瞳は金緑色に輝いていた。………そう、猫の瞳だ。
その瞳は、自ら発光しているかのように輝いていた。
バネのようにその場を飛び出し、無意識に伸ばした爪で、確実に急所を狙う。
「く、おぉッ!!」
頸動脈を狙った一撃は、しかし頬を掠るに終わった。
一撃を与え、召還者から一旦離れ、思考する。
やはり、わらわを召還しただけのことはある。先ほどの攻撃は、一般人なら視認すら出来ない速度だったはずだ。達人でも、視認は出来ても避けるのは不可能な速さ。
それを避け、あまつ掠り傷しかつかないとなると、気配だけで次の行動が読めたのだろうか?
………いや、それは今はどうでもいい。やることは1つだけだ。
「断りもなしに我を喚ぶとは………貴様のその重すぎる罪、死によって償ってもらう………」
しかし、召還者を殺したところで元の世界に帰れるというわけではない。ならばどうする………?
その方法を思いついた瞬間、笑いが零れた。
「ククク………、もし元の空間に戻れないとするなら、この世界を終わらせて戻るとしよう」
世界を終わらせる。
そうすれば、神である自分はその世界から弾き飛ばされ、一番馴染みある世界に飛ばされるはずだ。それが元々ユーリがいた世界なのか先ほどまでいた世界なのかは分からないが、どちらでも構わなかった。もう一度ユーリと会えるなら。
すると急に、召還者は慌てだした。
「ちょっと待て、とりあえず話し合おう!!」
話し合う?
何をふざけたことを………。
「フッ……、貴様なんぞと話すことなど………」
と、軽く流してしまおうと思ったのだが、妙に今の物言いが引っかかった。
今の、殺されかけたにしては甘過ぎる言葉。
………よく考えてみると、いやに声色に覚えがある。気のせい、だろうか。
そして、わらわの召喚主は口を開き、
「まぁまずは落ち着いてくれ。おもに茶でも飲んでゆっくり話し合おう」
なんてことをのたまった。
………はぁ。知らず、溜め息を吐く。
「お主、相変わらずじゃのう」
「は?」
甘い、なんて言葉じゃ足りない。コーヒーに蜂蜜と砂糖をふんだんに入れたような、甘ったるさだ。
………ま、それがこやつの良いところではあるのだけど。
「いや、わらわは、」
言おうとして、まだ周囲に砂が舞い、視界が開けていないことが気になった。
邪魔だな、と思い手を振ると、風が巻き起こり、砂塵を吹き飛ばした。
「はぁ………。まさかわらわがユーリの使い魔となるとはのぅ………」
「ノ、ノアぁ!?」
そこにいたのは、我が主、ユーリだった。
◆ユーリ◆
使い魔はうちの猫。
いや、こんなタイトルだと、そんなに萌えない漫画やドラマな気がする。昔、奥さまは魔女ってドラマがあったよなぁ。見たことないけど。
「おーい、ユーリ。戻って来ーい」
「ん、ああ。すまん」
おおう、ヤバい。現実逃避が普通になってきた。
「とりあえず、空間を戻してはどうじゃ?」
「あ、そうだったな」
言われて、空間を元に戻した。
断裂した空間内に渦巻いていた魔力は、アンネの時と同じように、洪水のように流れ出し、空中に霧散した。
「………ほいっと。で、なんでノアが使い魔?」
「知らんわい」
「………さっき、俺を殺す気で来なかった?」
「気のせいじゃろ」
いや、あの殺気は尋常じゃなかった。現に、俺の頬には血が流れている。気配が動いたから反射的に身を引いたんだけど、どうやら正解だったようだ。
「まぁいいや。で、一応喚んじゃったんだけど、どうする?」
「うむぅ………、ま、良いのではないか?」
「使い魔になっても?」
「うむ」
いいのかよ。いや、俺はもちろんいいんだけど。
「んじゃ、名付けだけど、ノアのままでいいよな?」
「うむ。それがわらわの名じゃからな」
その言葉に、俺は微笑む。
「だよな。これからもよろしく、ノア」
そう言うと、ノアもニカッと笑って応えた。
「ん、よろしくの、我が主よ」
ここに、新しい絆のカタチが出来た。
ま、俺たちの関係はあまり変わらないんだけど。
………しかし、関係が変わるかもしれないことも、起こっていた。
「あのぅ、ユーリさん」
「ん? ああ、アンネか。どした?」
俺の後ろからアンネが恐る恐ると言った感じで声をかける。
どうかしたのだろうか。
「そこの方って………ノアさん、なんですか?」
はぁ? 何を言ってるんだ。
「いや、どこからどう見ても―――」
ちょっと待てよ?
今、ノアの姿は人間の姿だ。この姿って、普通の人には見えないのでは………?
「………アンネ。あいつが見えるのか?」
「え、ええ。女の子ですよね、猫耳と尻尾のついた」
おおぅ、見えてるよばっちり。
「ノア、どゆこと?」
「ふむ………、おそらく受肉でもしたのかの」
受肉? 召喚でそんなことになんの?
「………いや、これはまさか………」
「どうしたノア?」
「いや、………ふむ、これはまた凄いのぅ………」
ノアは独りで何か納得しているが、俺にはさっぱりだ。
「アンネ、とりあえずあれはノアだよ」
「そうなんですか………。もしかして、最初の出逢った時に、見えない何かに手を置いていたアレですか?」
「ああ、あれあれ」
確か、スィードと初対面で攻撃されて返り討ちにした後、銃から人型に戻ったノアの頭を撫でている時のことだろう。
あれはノアが見えない人からしたら、変態さんか頭が可哀想な人にしか見えなかっただろう。
「で、召喚も終わったし、帰るか」
「ええ。その前に先生に何を召喚したか言わないといけませんがね」
「………とりあえず、アンネは蛇って言っとけ」
「あはは………、了解です」
何人かの教師は気付いているだろうが、隠してくれることを願う。というか、王女相手なのだから手出しは出来ないとは思うのだけど。
「俺は猫って言っとくよ。おーい、ノアー」
「んむ?」
まだ考え込んでいたノアが頭をあげる。
「姿はそのまんまでいいから、教師に何召喚したか言いに行くぞ」
「うむ、それは良いが、本当にこの姿で良いのか?」
「大丈夫だって。………ちょっと脅せば簡単さ」
「………さすが我が主、あくどい」
「誉めるなよ、照れるじゃねぇか」
「誉めとらんわい」
互いに一瞬見つめあい、同時に吹き出す。
「あっはっは! まぁいいじゃん。なんとかするさ」
「ククク………、“なんとかなる”ではなく、“なんとかする”と言うところがユーリらしいの」
「誉めるなよ、照れるじゃねぇか」
「今のは誉めたんじゃよ」
さて、もうそろそろ昼時だ。飯でも食いに行くか。
そうして、俺たちは新しい一歩を踏み出した。
後書きに何かを書こうとするも、いざ書くとなると忘れてしまう。
こんにちは、私です。
ノアは、人型で誰からも見えるようになりました。これからは基本的に人型で行動することになります。
で、今回のノア目線ですが、ノア目線で始めようかすぐ次のシーンに入るかで迷っている時に、Rairtさんの感想を読んで、ノア目線を採用しました。
ノアの性格が恐ろしくなっていた理由、理解できた………でしょうか?
ちなみに、感想やら何やらで言われたことを、ガチで反映するのがこの小説です。こんな話書いてーとか、ここもっと詳しく書いてーとかあれば、書きますよ。一応それぞれのストーリーは頭に入っているので。
というか、頭ん中で好き勝手に動き回ってる感じ?
どうでもいいですね。
で、次回はもしかしたら閑話が入るかもしれません。少々フラグ回収などしておこうかと。説明回になるやもしれません。だからこその“閑話”なのですが(笑
ま、普通に本編入ってても見逃して下さい。あと、ティアのほかに新キャラが、と言ってたの、まだ出せなくてごめんなさい。
ではまた次回も見ていただけると幸いです。
ではではまたー。