第42話:立食パーティー
少し休んだ後、俺たちは寮へ向かった。ここでは王城と同じように石畳がちゃんとあり、かなり動きやすかった。それに園内に植林などもされており、西洋風の普通の学校、といった雰囲気だ。
「それはいいんだけどさぁ………」
「どうかしたの、ご主人様?」
「いや、あれ………」
俺が目を向けた先には、アンネルベル。しかし、その姿は幾多の人によって遮られている。
つまり、人の渦の中心となっているのだ。
「やっぱり王女ってことか」
「そうじゃの、皆取り入ろうと必死なのじゃろう」
「私は、それ逆効果なんじゃないかと思うんだけど」
俺たちは思い思いの言葉を吐くが、そろそろアンネが限界そうだ。作り笑いが引き攣ってきている。
「………仕方ない、助けるか」
放っておいたらアンネがキレそうだ。正直、そうなったら俺でも止められるか微妙だ。
「ちょっとごめんよー」
などと言いながら、人ごみの中心へ入っていく。途中で何人かに舌打ちされたが、無視。
多少時間がかかったが、なんとかアンネの元へ辿り着くと、少し顔を青くしていた。どうやらあまりこういったことは得意ではないらしい。
「よおアンネ。大人気だな」
「ユーリさん………もう少し早く来て下さい」
「ん、すまん」
どうやら本気でまいっていたらしい。悪いことしたな。
「はい、どいてどいて。もう休むから」
そう言うと、集団の中からどこかのおぼっちゃんみたいなやつが話しかけて来た。
「なんだ君は! 我々は今アンネルベル様と大事な話をしているのだ! 平民がしゃしゃり出て来るな!」
平民、ねぇ。
「アンネ、俺って平民なの?」
「どうでしょうか………。一応貴族でもいいと思いますよ。特別近衛騎士なのですから」
そうか、と呟き、おぼっちゃんに向き直る。
「実は俺、特別近衛騎士なんよ」
「こッ! 近衛騎士、だと……ッ!?」
驚くおぼっちゃんに伴い、周囲の人も騒然とする。
「もういいから行こうぜ、アンネ」
「ええ、そうですね」
周囲から、アンネルベル様を呼び捨て!?、とか、タメぐち!?、とか聞こえてくるが、無視無視。
「………いや、貴様なんぞが特別近衛騎士なわけがない。僕に敬意さえも払わない貴様なんぞがな」
「はいはい」
俺はそれすら無視して人垣を抜ける。その先にはリナと、その肩に乗っているノアが待っていた。
とりあえず部屋に帰ったら荷物を置いて、セラにも荷物を届けなきゃならんのだよな。
そう思っていたが、次の一言で、なぜか俺はキレた。
「それに、そこの薄汚い亜人を気高き学び舎に入れるなど、我らを愚弄するにもほどがある! 今すぐ放り出せ!」
おぼっちゃんがそう言うと、少し迷いながらも近くにいた警備兵がリナに向かって歩いて来る。
が、俺はそれに構わず、おぼっちゃんの眼前に瞬間移動した。そして、その太い首に右手を伸ばす。
「うぐッ!」
「貴様、今なんつった?」
俺は右手で首を締めつつ、訊ねる。
「ユーリさん、落ち着いて下さい」
「………」
後ろからアンネが声をかける。
俺は少し迷ったが、素直に首から手を離すことにした。
「………すまん」
「いえ、いいですよ」
しばらくむせていたおぼっちゃんだが、息が整うと怒声をあげた。
「貴様! 僕にそのような扱い、即刻死刑にしてやる!」
「あらあら、貴方はいつから司法権を持っていたんでしょう?」
アンネが、俺から顔が見えない位置で、おぼっちゃんに話しかける。
なぜかおぼっちゃんは固まった。
「この方は我がクレスミスト王国の特別近衛騎士であることを、私、クレスミスト王国第一王女アンネルベル・クレスミストが保証します。ちなみに彼は私の護衛なんで、貴方ごときでは瞬殺ですよ」
「………」
その言葉におぼっちゃんはおろか、周囲の人でさえ沈黙した。
「ついでにですが、彼女、リナリアさんはユーリさんと奴隷契約を結ばれたので、リナリアさんを貶めることは特別近衛騎士ユーリ・ツキシロを貶めることであり、ひいては護衛をしてもらっている私を貶めることであり、最終的に王を貶めることになりますので、………どうか言動にはご注意を」
おそらく、アンネは凄い笑顔だと思う。凄惨な、と言い換えてもいいが。
確認するが、俺からはアンネの顔は見えない。
「さて、では寮へ向かいましょうか」
こちらへ振りかえったアンネは、もう普通の空気だった。
「………なんかさぁ、お前ってそんな性格だっけ」
「そうですよ?」
まぁいいけど。
「んじゃ行くか」
「ありがと、ご主人様」
「………ああ」
さて、寮に行きますか。
◆◇◆◇◆◇◆
寮は、一言で言うと、デカイ。
ついでにいえば、豪華だ。
王城ほどではないが、シャンデリアっぽいやつや、絵画や、大理石みたいなのもある。誰もが一度は夢見る豪邸が、ここにはあった。
部屋の広さはアンネの私室の半分ほど。それでも畳50畳ほどあるのだから驚きだ。
俺は亜空間から服などをある程度出した。亜空間であればいつでも出し入れできるので、不測の事態に備えるためだ。
次にとなりのセラの部屋に行き、これまた荷物をある程度出した。
ちなみにだが、この亜空間は俺の魔力が充満しているので、膨張縮小が自由だし、何が入っているかも細かく分かる。それに欲しいものも手を入れれば勝手に中のものが移動し触れられるので、あとはそこから引っ張り出すだけ。さらに中は時間という概念をなくしたので、食糧を入れても永久に腐ることがなく、しかも温かいものなどもそのまま、という便利っぷりである。
で、なぜ夕方に着いたのに今日から学園が始まると言ったのかと言うと、
「………パーティーね」
なのだった。ついでに始業式も兼ねているらしい。
いつもは食堂に使うらしい大きな大きな空間で、立食パーティーなんかをやっている。
俺はどうも馴染めず、壁際で、渡された白ワインを飲んでいる。ちなみに赤と白のどちらがいいかと訊かれたので、白と答えた。肉には合わないけど、俺はこっちの方が好きだった。
というか、20歳未満飲酒禁止、とかないのだろうか。いい子は20歳以上になってからお酒を飲んでね。少しぐらいなら飲んだ方がいいらしいけど。結局のところ、程度問題だ。
傍にノアとリナはいない。2人は部屋で待っているとのことだ。まぁさっきあんなことがあったんだもんな。仕方ないか。
「さて、アンネはどこ行ったんだよ……?」
一応アンネの護衛を任されている身としては、気にしておかないといけない。アンネがいくら強かろうと死角は出来る。それを埋めるのが俺の役目だ。
「……って、探す意味ないな」
会場を見ると、白いドレスに身を包んだアンネが、再び人にたかられていた。そこに人が集中しているので、見つけるのはたやすい。しかし、近付くのは至難の技だろう。
これでは護衛どころではないか。なにかアンネに身を守れるものがないかねぇ………。
そう考えていると、ふと考えついた。
「あ、そうか。そういうものを創ればいいんだ」
思い立ったが吉日とばかりに、創造魔術を開始する。
常に持っていられるもの………ブレスレットなんかがいいか。
「創造」
手の中には、銀色で細身の、シンプルなブレスレットが出て来た。
「さて、これに概念武装するか」
例えば太刀に“切断”という概念を加えればどうだろう。なんでも切れる太刀が出来る。
では盾に“拒絶”という概念を加えればどうだろう。なにものも通さない盾が出来る。
この2つを戦わせてみろよ、と言われれば、一見『矛盾』のように思えるが、実はそうでもない。概念を付与したイメージが強ければ強いほど、力は強くなる。そこに『同等』はありえない。どこかでどちらかが優れていて、どちらかが劣っている。
「うーん……、やっぱ“防御”、いや“拒絶”か? ………“反射”もいいな」
考えればキリがない。
というわけで、
「よし、魔法は“吸収”。物理は“反射”。それ以外はとりあえず“拒絶”で」
俺はブレスレットをさらに2つ創り、それぞれに概念を付与する。一応俺とリンクさせることで、俺の魔力が続く限り機能し続けるようにした。………ついでに、俺とリンクさせたってことは、そのブレスレットの機能が発動した時は、俺に分かるようになっている。
………やばい、完璧すぎる。
しかし、俺はこの機能を強くするために、ある制限を付けた。それは、『敵意ある者にのみ反応する』ということ。制限をかけることで、さらに機能を充実させることが出来るらしい。
………本当はその得物に対応する概念、つまり太刀なら“切断”、盾なら“拒絶”のようにする方が概念としては上位に立ちやすい。同じ“切断”を概念として付与したものでも、太刀と木の棒ではどちらが有利かなんて火を見るより明らかだ。
一応神様から貰った能力だから、普通の人には破られないはず、なのだが。
ま、心配しても仕方ない。それに、何か起こってブレスレットに反応があれば、俺に連絡が来るのだから。
さぁて、アンネに渡しに行きますか。
さっきと同じように、人をかき分けてアンネの元へ行く。
「おっすアンネ………って、なんだこの山は」
「あ、ユーリさん………」
やっぱり憔悴してるのね、アンネさん。
というか箱の山は一体………?
「ああ、これですか? なんか贈り物らしいです」
「そうやってお前に取り入ろうとしてるのな」
「ですね。正直いらないものばかりです」
小声ではあるが、はぁ、と溜め息を漏らすアンネ。プレゼントが多くて疲れてんのか。
しかし俺はその空気を読まない!(意図的です)
「そんなアンネに俺からプレゼントです」
「え? なんですか?」
あれ? 少し回復した?
「ん。このブレスレット3点セットをあげよう」
「え、いいんですか? ありがとうございます!」
そう言うと、アンネはいそいそと銀のリングを3つとも左腕にはめた。
「へぇ……綺麗ですね」
「ああ。しかもただのブレスレットじゃない。一応、アンネを守るための機能を付与したから、とりあえず肌身離さず持っといて」
「はい、分かりました」
そう言って嬉しそうに腕を見るアンネ。そんなに嬉しそうにしてくれるとあげた甲斐があるってもんだ。
周囲から妬みの視線を感じるが、気のせいだろう。
「さぁて、俺はまた壁の花に戻りますか」
「あら、私を守ってくれないんですか?」
元の場所へ戻ろうとする俺に、ニッコリと笑いかけるアンネ。
その笑顔に俺は苦笑で返し、応える。
「仰せのままに、お姫様」
これで俺の予定は埋まった。とりあえずアンネに着いていくだけだ。
………が、ここで空気を全力で読まない奴が現れた。
「おーっほっほっほ! お久しぶりですわね、アンネルベルさん!!」
「……………」
「……………」
「………知り合い?」
「………知りません。赤の他人です。行きましょう、ユーリさん」
「ちょ、お待ちなさい!!」
まだまだ夜は長いようだ。