第04話:黒色の猫
「ストップだノア!」
叫ぶと同時、俺の体を押していた感覚は消え失せ、5メートルほど地面を滑りながら停止した。
一瞬後、自分が駆け抜ける勢いで巻き起こした風が後方から押し寄せて来て、巻き起こる砂塵に顔をしかめる。
「お前、速すぎだし押しすぎ」
「む、………すまぬ」
よし、許す。
「で、ここはどこ?」
「おそらくじゃが……、方向的に上空から見た町の近くまで来ておるのではないか?」
……なるほど。
とか納得してる感じにしてみたが、理解出来ないし納得も出来んよこの状況。
まぁとりあえずその町っぽいところに向かうか。
「で、降りろ」
なぜ肩に乗ったままなんだ。
「嫌じゃ。こんなに鬱蒼とした森の中を歩かせるというのか?」
「それが普通だろが。重くはないけど、歩くのに邪魔になる」
ふむ、とノアは頷いた。
「ならばこれでどうじゃ」
不意に肩にしがみつく感覚がなくなったかと思うと、左肩にフワリとなにかが乗った。
振り返ると、黒色の猫と目があった。
「どうじゃ?」
「……ノア?」
「うむ!」
猫になりましたよこの子。もうなんでもありですか。そして首の赤いチョーカーがリアル首輪に変わってるんですけど。
「……まぁいいけどね」
もうここまで色々信じられないことを経験しまくったので、今更この程度では驚かない。というより驚けない。
俺、30分くらい前までは普通に登校中だったんだよな。もうすでに遥か過去のことのように思えてきた。
「とりあえず、そのチョーカーはなんで首輪に変わった?」
「それは人の姿で首輪つけとったら変態じゃろが。別に首輪のままにしておけと言うならそうするが」
「その場合、端からみれば俺変態?」
「そ……、いや、そうでもないかの」
ノアは少し顔を伏せて思案すると、すぐにまた話し始めた。
「この世界の一部の国には奴隷制度がある。虐げられるのはいつも他種族じゃな」
「他種族って?」
「人の国なら獣人やら亜人やらエルフやらかの。逆もまた然りじゃ」
「じゃあエルフの国なんかでは人間が奴隷になってたりするんだ?」
「そういうことじゃな。ほとんどの地域で奴隷は禁止されておるが、闇市が多数存在しておるのもまた事実じゃ」
胸糞悪い話だな。まぁ、平和な国から来た俺だからこその感想かもしれないが。それでも、俺は俺自身の考え方を否定するつもりはない。価値観は人それぞれってやつだ。
「とりあえず、もうすぐ町に着くけど、なんか注意事項あるか?」
「さぁ?」
……なんつったこいつ。
「すまん、もう一度言ってくれ」
「分からんぞ。わらわだってこの世界に来るのは初めてじゃしの」
「……役立たず」
「なにおぅ!?」
はいはい無視無視。
俺は猫形態でガジガジと肩を噛んでくるノアを無視しつつ、村へと足を踏み入れた。