第36話:練習場
さて、と執務室に来たラルムさんは呟いた。
「すまぬな、堅苦しくて」
「いえ、国王としてであれば、まだ柔らかい方だったと思いますよ」
たぶんだけど、大事な式の最中に大臣が意見を言うなど、許さない王も多々いるだろう。
その点ラルムさんは一応は大臣の言葉を聞き、答えている。
「ははは、そうかもしれんな。………さてユーリ殿。アンネの警護のことじゃが、本当に良いのか?」
「ええ、大丈夫ですけど………どうかしたんですか?」
「いや、儂はユーリ殿の実力を見たことがないからな。いや、ギルドでの手柄は聞いておる。しかしアンネが狙われるとしたら、本職の暗殺者であろうし………」
ああ、もしかして心配してくれてるのか。
「えーっと、ではその内何かでお見せしますよ」
「………そうじゃな、そうしてくれるとありがたい」
「まぁ確かに実力不明であれば心配にもなりますしね」
あ、そういえば1つ気になることが。
「あの、ラルムさん。確かにアンネやセラを助けはしましたが、……自分で言うのもなんですが、得体の知れない旅人風情を近衛騎士にしたり第一王女の護衛にしたり、大丈夫なんですか?」
ラルムさんはそれを聞いて、微笑した。
「それが、ここにユーリ殿を呼んだ理由なんじゃ」
「は?」
「あ、そこからは私が説明します」
後ろについて来ていたアンネが声をあげた。
つか、やっぱりついて来てたんだ。気配がなかったのだが。
「ユーリさんは、父様が会って数日のユーリさんをなぜ信じれたか、が気になるんですよね?」
「ああ」
もしかしたら他国のスパイかもしれないとか、内部破壊を狙った工作員だとか、考えればキリがないはずだ。
なのにラルムさんは信じた。
確かに人を見る目はあるのだろう。しかしそれだけが頼りというのは、些か疑問が残る。
「それはですね、父様はユーリさんが異世界から来たということを知っているからですよ」
………は?
「今なんつった?」
「ごめんなさい。バラしました」
……………ああ、どんどん秘密が秘密じゃなくなっていく………。
まぁそうでもしないと信用されないわな。
「………まぁいいや。それをラルムさんは聞いたんですね」
「ああ。聞けば、魔物の発生源を破壊するために来たと言うじゃないか。色々考えた結果、ユーリ殿を信じることにしたんじゃ」
なるほどね。それなら筋は通る……か?
いかん。頭が回らなくなってきた。知恵熱出そう。
「まぁいいや。そんなわけで、今後ともよろしく………」
と言いかけたところで、激しく執務室の扉が叩かれた。
「国王様! 御在室でしょうか!!」
「何事だ、入れ!」
「ハッ!」
やはり勢いよく開かれた扉の向こうに、兵士が跪いていた。
「ユーリ殿の連れであるリナリア殿、そして近衛騎士隊副隊長サンローズが、練習場で戦っております!」
「………なんだと?」
ラルムさんが眉を顰める。
しかし俺は、リナリアがそんな大胆な事をするような子ではないと知っているし、目立ちたがり屋でもないとも思っている。むしろ逆だ。
何か理由があったと見て、まず間違いないだろう。
「サンローズってどんなやつですか?」
俺が訊ねると、ラルムさんは少し苦い顔をした。
「サンローズは、いわゆる成り上がり貴族というやつで、性格を簡単に言えば、頑固で分からず屋。自信家で唯我独尊、といったところか」
「なんでそんなのが副隊長に?」
「女にしては剣術はかなりのものじゃし、魔術も悪くない。何より、サンローズの家から賄賂を貰ったであろう貴族どもがサンローズを推薦したんじゃ。それもかなりの数が」
「結局金かよ。うぜぇ」
俺はそれだけ言うと、部屋を走り出た。
「ユーリさん! どこへ行くんですか!?」
「練習場に決まってるだろ!」
アンネの言葉に、片手間で答えた。
凄く嫌な予感がする。
戦っている、だと?
副隊長とリナリアが?
無理だ。勝てるわけないだろ。
ならばリナリアは無理矢理に戦わされたか、………もしくは同意の上だったか。
どちらにしても、リナリアは勝てない。
俺は最近覚えた“念話”でノアと連絡を取る。ちなみに念話は扱いが難しく、一番長く一緒にいるノアとしか出来ない。
【ノア、聞こえるか?】
【ああ、よく聞こえるぞ。どうしたんじゃ?】
確かノアは、昼寝するとか言ってから行方不明だったな。
【今すぐ兵士たちの練習場に向かってくれ。場所は分かるか?】
【ああ分かる。1分以内に着くようにする】
俺の言葉に何一つ疑問を挟まず、向かうと言ってくれた。これほど嬉しいことはない。
【じゃあまた】
【うむ】
そして、念話は切れた。
俺は、走る。
走る。
走る。
風の力を借り、誰にも着いてこれない速度で走る。
曲がり角に大きな窓が見え、俺は迷わず窓を開け、飛び降りた。
まだ結構な高さがあったが、体を浮かせ、下の屋根に飛び乗る。
さらに屋根の上をいくつか走り抜け、端に辿り着くと勢い良く飛び降りる。すると下に丸い石で出来た、闘技場を思わせる舞台があり、中央には女性が2人。舞台の周囲には何百人という兵士がいた。
俺は飛び降りる位置を調整し、ちょうどど真ん中に、とてつもない轟音とともに“着弾”した。
周囲にクレーターが出来、闘技場に蜘蛛の巣状のひび割れが起きた。
そこで俺が見たのは、着弾する寸前に剣を振り下ろし、剣と手と頬に紅いナニカが飛び散りながらも薄笑いを浮かべる知らない女性と、その剣に肩口を切られ、紅いナニカを散らせながら、蒼白な表情でこちらを見る、
………リナリアだった。
総合20万pvありがとうございます!
もうホントこんな小説を読んでいただき、恐縮です。そろそろ本気出します(?)
そういえば、活動報告で意味不明な短編っぽいナニカを書いてるので、よろしければ御一読下さい。随分と曖昧な表現もありますが、自分なりの解釈でいいと思っています。
ただし、昔の活動報告やもう1つの小説は読まないで下さい。意味が分かりませんので。
フリなどではなく、ガチで読まないで下さい。お兄さんとの約束ですよ?
ではこの辺で。
また明日~(たぶん)。