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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第二章 ギルドと依頼と
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第34話:九尾の狐

 ――10分後。


「………ふぅ、すっきりしたのぅ」

「ええ、久し振りね、こんな暴れたのは」


 ………そして、地獄の門は閉じられた。

 ギルド内の床には、切り傷や青あざなどでボロボロになったオッサンが2人。先ほど俺につっかかってきた2人だ。

 その他、つられたように笑っていたハンター達は、その光景に青ざめ、沈黙を保っている。

 ………つか、リナリア強ェ………。

 2人の攻撃方法は以下の通りだ。

 ノアはその体躯の小ささを生かした高速機動により相手を翻弄しつつの、爪での攻撃。その軌道はありないほど速く、俺ですら目で追うのがやっとだった。たぶん運動法則を無視してる。慣性?なにそれ美味しいの?状態。しかもなんか爪が異様に伸びてたし。あれ、普通に人殺せるレベルだった。

 リナリアはノアによって翻弄された野郎どもを、全力で殴ってた。殴られた奴は約5メートルぶっ飛び、壁に叩きつけられる。さらにとび蹴りで追い打ち。さらに回し蹴りを2度叩きこみ、胸元をぐわしっと掴むと、そのまま一本背負いをかます。コンボが決まってた。


「………やりすぎじゃね?」

「いいんじゃよ。これくらいしないと馬鹿には伝わらん」

「そうよ、ご主人様。というか、こんな塵相手にご主人様が気を配る必要はないわ」


 ………どこで教育を間違ったんだろう。いや、してないけどね。


「とりあえず、ギルド出るぞ。流石に迷惑がかかる」

「そうだね。すみません、お騒がせしました」


 レイがそう言うと、先陣切って扉を開いた。

 俺もそれに続いて出ると、後ろからノアとリナリアがついて来る気配がしたので、一応安心した。これ以上追撃とかされたらもうどうしていいか分からないところだった。


 扉を開けると、久しぶりの外の空気を感じた。ギルド内はどこかひんやりしていたのだが、外に出ると太陽が眩しく、その熱線を感じた。

 そういえば、この世界はどうやら俺の世界に似ているらしく、丁度春から夏に変わるくらいの空気と温度だ。1年という期間などもあまり変わらないっぽい。

 ………しかし、異世界なんてそうそう簡単にあるものなのかねぇ?


「ま、いいか」

「うん? どうしたんじゃ?」

「んにゃ、なんでもない」


 今は別にいいか。

 そう考え、俺は通りを歩き始めた。


「さて、どっかで飯食うか」

「そだね………、と、あそこにお店があるけど」


 レイが指差す先には、オープンカフェみたいなところがあり、丁度昼時なためか、客がそこそこいる。しかしまだ席は空いてるっぽい。


「おお、いいところに。あそこ行こうぜ」


 俺たちは店に入ることにした。

 店は出店のような体で、店自体は厨房しかないので客席を外に設けている、と言った感じだ。客層は親子づれもいるが、ごついおっさんたちも多い。しかも真昼間からビールみたいなのを呑みまくっている。

 俺たちはなるべくそれらから遠い場所を選んで、席に座った。


「例によって、オーダーは任せた!」

「………わかったよ」


 注文はレイに全力で任せた。丸投げともいう。


「さて、レイが戻るまでリナリアの話でもしてようか」

「え、私?」


 不意に話しかけられ、リナリアはおどおどしていた。


「いや、九尾についてな」

「え、ああ、そのことね」

「そそ。とりあえず、九尾ってなんぞ、ってとこから始めようか」


 そこで俺は話をノアに振る。


「うむ。九尾と言えば、やはり白面金毛九尾の狐が有名じゃの。絶世の美女、玉藻前たまものまえというやつじゃ。しかしこれは野狐の上位になる悪狐というやつじゃから、リナリアとは少し毛色が違うじゃろうのぅ」

「野狐って?」

「ああ、それは、霊狐のなかでも、いわゆる野良の狐のことじゃ。反対に善狐と言うやつもおる」


 なるほど。


「ちなみに悪狐自体を九尾と言うのではなくて、善狐でも尻尾が9本に分かれるほど霊力が増せば、九尾と呼ぶんじゃ。そして善狐が1000年生きると尻尾の数は4本になり、天狐という種類になる。さらに2000年、計3000年生きると今度は尻尾は0本になり、空狐となる。空狐は大神狐と呼ばれ、ほぼ神と同格じゃ」

「なんで尻尾が減るんだ?」

「ああ、それは、神に近付くにつれて狐の姿を保つ意味がなくなったと言われておる」

「なるほど。で、そこまで分かったところで、リナリアは一体何なんだ?」


 俺とノアは同時にリナリアを見やる。今ノアと話していたことが分からなくての疑問の顔と、見られて居心地が悪い、と言った顔をしていた。


「ちなみにユーリ、お主の考えは?」

「善狐が九尾と化して、天狐になる前、かな」

「ふむ、同じ意見じゃ」


 じゃあリナって一体………?


「なぁリナリア。お前って、奴隷になる前はどこにいたんだ?」


 デリカシーに欠ける?

 確かにその点については否定できないが、俺も流石に疑問がありすぎる。


「えっと、私は森の奥で集落のみんなと暮らしてたんだけど、ある日遠くまで行ったときに捕まっちゃったのよ」


 ……………あ、なんだろう。すごく、すごく嫌な予感がする。


「………えっと、リナリアって何年くらい生きてるんだ?」

「え? ええっと………まだ17年くらいよ?」


 あれ? 予想が外れた?


「でも村のみんなは尻尾は1本しかなかったわね………、なんでなのかしら」


 ………ええっと。

 とりあえず、俺はノアの耳に口を寄せる。


「………もしかして、ここじゃ九尾になるのが早いのか?」

「………さぁのぅ。しかし、リナリアがイレギュラーだというのは確かじゃ。九尾になるのに年月は関係ないから、もしかしたらリナはとてつもない魔力を秘めておるやもしれんぞ」


 そう言えばギルドで大の大人を拳でぶっ飛ばしてましたね。もしかしてあれは、体内魔力を無意識のうちに筋力として変換していたんじゃないだろうか?

 そして、リナは本当に“亜人”なのだろうか。九尾であるなら、それは妖怪の域である。その疑問を解消するには………例えば、元の世界からこの世界に来て受肉した、とか………。

 ………どちらにせよ、まだ推測の域は出ないか。これ以上は推測してはいけない領域だ。どんどん先入観が生まれてしまう。


「ま、いいや。とりあえず飯だ」

「じゃの」

「もういいの? 何かあるならなんでも話すから、いつでも言ってね」


 なんかリナリアが従順になりすぎている。どうにかしないと。


「ほい、サンドイッチ一丁」

「おお、さんきゅ、レイ」


 丁度話が終わった頃を見計らったかのように、レイが皿を器用に4枚持ってやってくる。………いや、レイのことだから、ホントに見計らっていたのかもしれない。

 まぁリナのことはひとまず置いておこう。それよりも次はアンネの学園云々について詳しい話を聞かないと。

 ………が、今はそれすら置いておこう。腹が減っては戦は出来ぬ、と言うしな。


「では、いたただきまーす」


 俺は皿に置かれた、形の良いサンドイッチを手に取った。


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