第33話:地獄への門
一夜明けた翌日、俺とノア、レイ、リナリアはギルドへ向かうため、大通りにある石畳を歩いていた。
拠点破壊は確認してもらったが、まだ強奪品奪還は報告してない。それと、それに伴う報奨金の受け取りも。
昨夜は食堂で色々あったのだが、極力忘れようと思う。
「ところで今更なんだけどさ、この世界の流通貨幣はどうなってんの?」
一番詳しそうなレイに訊いてみる。
「えっと、上から白金貨、金貨、銀貨、銅貨があって、それぞれ1000枚で次の位に上がるね」
「てことは、銀貨1000枚は金貨1枚になると」
「そそ。だいたい銀貨10枚あれば、1年くらい暮らせるんじゃない?」
銀貨10で1年か。まだ物価が分からんが、普通食費だけなら1ヶ月1万円もかからんだろう。なら1年で10万円くらいか。
なら銀貨1枚で1万円くらいかね。
てことは、………銅貨1枚で10円? だな。
銀貨1枚で1万円。
金貨1枚で1000万円。
白金貨1枚で………10億か?
「白金貨いるのか? 使えねぇじゃん」
「あはは、あれは流通はしても、持ってるのは物好きの好事家だね。後は何かの大会の優勝者とか、偉大な武勲をあげた兵士とかに渡されるんだよ。ちなみに金貨、あまり出回らないね」
だろうよ。
ここで、黙って聞いていたリナリアが、ぼそりと呟く。
「………“この世界”?」
「あ」
いらんこと口走ってるし俺。
「ご主人様………?」
「あー」
はい、説明します。
◆◇◆◇◆◇◆
「そうなんだ」
「そうなのさ」
「流石私のご主人様ね!」
「割と予想外の反応だなぁ……」
つか、少しは疑問を持ちなさい。
とまぁそんなことをしているうちに、ギルドに到着。
前回と同じように、扉を開く。
ざわ……
入った瞬間、ギルド内にいた人の空気が変わった。しかもめっちゃ注目されてますやん。
その空気にビビりながらも、受付へ向かう。
「こんちは」
「き、今日はドノようなご用件で!?」
声が裏返ってる裏返ってる。
「昨日受けた依頼を達成したんで、お金受け取りに来ました」
「あ、は、はい! ここここちらへ!」
そう言ってカウンターの奥へ行くギルド職員。俺たちはカウンター横からカウンター内へ入り、職員を追って奥へと進んだ。
入ったそこはオフィスのような場所ではなく、いくつかの部屋があった。どうやらここで品の鑑定や回収をするらしい。
「で、では強奪品を………、あれ?」
ああ、そういえばあれは亜空間の中でした。
「えっと、ここで全部出すのは無理なんで、強奪品が何だったか教えていただけます?」
「あ、はい。えーっと………、まず顧客情報の書かれた書類が10枚」
えっと、あ、これか。
俺は空間に手を突っ込み、書類の束を出す。
「それと、商会の契約書類が、53枚」
はいはい、これね。
再び書類を出す。
「あとは金品が数点ですね。印と、金貨7枚、銀貨325枚、銅貨が854枚ですね」
ほいほい、っと。
じゃらじゃら。
「と、こんな感じで―――」
職員さんは、いつの間にか目の前に出てきていた品々に、目を丸くした。
………まぁそりゃそうだろう。
「で、これだけかな?」
「え、っと、少々お待ちください!」
勢いよく部屋を出たかと思えば、すぐに三人ほど連れて帰り、品が正しいものかどうかを検分しはじめた。
10分後。
「………確かに、承りました。これで依頼は達成となります」
「それは良かった」
「それに伴い、ランクをFからDへ格上げさせていただきます」
「………」
そんなにランクって簡単に上がるもんなんだろうか。
「ランクって簡単に上がるもんなんだね」
「………上がりませんよ」
「は?」
「普通は一年に一度ランクが上がるかどうかぐらいなのに、一気にこれだけ上がるというのは、前例がありません。しかし、あの黒牙に対して圧倒的な力を見せつけたあなた方なら、2ランクアップも仕方ないと、上層部が判断しました」
………なるほどねぇ。
まぁいいんだけど。
「それで、報奨金ですが、金貨20枚となります」
「………」
ここでおさらい。
金貨1枚、1000万円くらいです。
「随分と羽振りがいいな」
「いえ、Bランク任務とCランク任務ですから、滅多にないうえに、それを受けるハンターも少ないので、自然とレートは上がるんですよ」
「あー、理解した」
まあ20枚なら数が少なくていいんだけどね。これで銀貨800枚とか言われたらどうやって持って帰ればいいかに悩んでたところだ。
「亜空間があるじゃろが」
「あー」
すぐに忘れるね、俺。若年健忘症?
「えー、ではここにサインしていただいて………、はい、大丈夫です。ではこちらが報奨金の金貨20枚になります」
「うん、ありがとねー」
俺はそれを受け取り、中から10枚取り出してレイに差し出す。
「ほれ、今回の報償」
「え? 半分?」
「そうだけど?」
少しレイは悩んで、7枚ほど取った。
「僕は最後に爆撃しただけだからこんだけでいいよ。というか、これだけあれば十分すぎるし」
「いや別に遠慮することねぇし。あそこから強奪品は全部盗ってきたから金には困らん。というか受け取れ」
俺は無理やりレイに渡す。
なんかちゃんと半分じゃないと、気持ち悪いんだよなぁ。神経質なのかも。
「んー……、まぁそこまで言うならもらっとくよ」
「ああ、そうしとけ」
さて、帰るか。
俺が席を立つと、ほかのみんなも席を立った。
「じゃあ失礼させていただきますね」
「ええ、この度は困難な依頼を受けていただきありがとうございます。これからもギルドをよろしくお願いします」
「おう。なんか無茶な依頼があれば、王城の俺宛て………、ユーリ・ツキシロ宛てに送ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
そうして、俺たちは部屋を出て、カウンターの横をすり抜け………ようとした。
が、無理だった。
なぜかって?
「おいてめぇ………いくら持ってんだ」
変な輩に絡まれたからです。
馬鹿正直に答えるのもあれなので、適当に銀貨5枚言っておく。
「嘘つけ」
バレタ。
「しかし兄貴。こいつが黒牙の拠点を破壊したなんて、デマじゃないんですかね?」
「うるせぇ。それはこいつをひんむいてから決めるんだよ!」
まぁ大きな金を持ってようが持ってなかろうが、少しくらいは持ってると思うだろう。それが多ければ運が良かった、くらいに考えているのだろう、この馬鹿は。
「………しかし、まぁこんなガキが黒牙を潰せるわけないがな。はっはっはっは!!」
「ですよね兄貴! こんなまだ尻の青いガキに出来るわけねぇッスよ! しかも間抜け面でよぉ!!」
「あっはっはっは!! 違ェねぇ!!」
そしてギルド内に広がる爆笑。職員たちは隅に隠れておびえていた。
まぁそれが普通だろう。こちらは戦闘屋ばかりなのだ。間に入ってこられる方がおかしい。
………どちらにせよ、こんな馬鹿どもと付き合っておれん。さっさと行こうぜ、と言おうと、横を見て、………俺は息をのんだ。
「……………」
「……………」
な、なんだこの空気………。黒牙相手にもこんな殺気は感じなかったぞ!
その殺気を出しているのは、俺のパーティであるノア、そしてリナリアだった。
「クックック………。我が主人を貶めるとは………、人の子には過ぎる罪じゃな………」
「うふふふふ………私のご主人様を馬鹿にしたのかな? この屑どもは………」
………怖い。
……………非常に怖い。
「連中には本物の神の怒りというものを知る必要があるのぅ………」
「うふふ………そうですねぇ。私はこんな怒りを感じたのは初めてですよ………」
「ゆくぞ、人ならざる娘よ」
「ええ、相対する神よ」
………ここに、地獄への門は開かれた。