第30話:光の雨
「うお、まぶし!」
「うわッ、びっくりしたー……」
俺が眩しいと言ったのは、夕日が赤く燃えていたからだ。そして転移の目印にされたレイは、酷く驚いていた。無理ないけど。
「おっすレイ。ただいまー」
「うん、おかえり、はいいんだけど、そっちの子は?」
レイが顔を向ける先には、リナリアがいた。
「ああ、こちらはリナリア。捕まってたんで解放した」
「そか」
詳しくは訊かないレイが、ありがたかった。
「で、リナ。こいつがレイネスティア。仲間だな」
「よろしく、リナリア」
レイが手を出し握手を求めるも、リナリアは困ったように俺の後ろに隠れていた。
どうし……あ、そか。
「すまん、レイ」
「あはは、いいよ別に。少しずつ慣れていこう」
レイは柔らかな笑みを浮かべた。
こいつのいいところは、言わなくても分かってくれるところだ。
リナリアは、長い奴隷生活と深く根付いた恐怖心で、おそらく人と触れ合うことが苦手なのだろう。だが、レイの言った通り、少しずつ慣れていけばいい。
「でも亜人かー。あまり見かけないね」
「あー、そう言えば耳と尻尾隠してないな」
レイがそう言うと、リナリアはそれらを隠してしまった。
「ご主人様、これ隠しとくね」
「そっか、残念だな。綺麗なのに」
やはり九尾だからか、その尾の美しさは筆舌に尽くしがたい。髪は短めでぼさぼさなのだが、明るい場所で見ると、その顔もすごく綺麗だった。
「じゃあ出しとく!」
一度隠れたそれが再び、もさぁ、と出て来た。早く風呂に入れて、ふわふわの尻尾に包まれたい欲求に駆られる。
「レイ。拠点破壊開始だ」
俺は戦う。ふわふわ尻尾のために!
「強奪品はどうしたの?」
「問題ない」
「そう? じゃあ僕は上から爆撃するねー」
そう言って、レイは頭上へ手をかざす。
「そういえば、ユーリ」
「ん? どした?」
「ユーリは僕のことレイって呼ぶよね?」
「ああ、そうだな。それがどうかした?」
「実はね、レイって名前の魔術があるんだ」
………ほう。それは興味深い。
「これがそうだよ。光の雨」
唱えると、空から一条の光が墜ち、丘に半径5メートルほどのクレーターを作った。
「とりあえず、逃げようか?」
にっこり笑うレイの顔とクレーターを見合わせ、頭上を見た。
そこに空はなく、
無数の光の点が見えた。
「やばっ! 逃げるぞ!!」
戸惑い気味のリナリアの手を取り、ダッシュする。もちろん風の加護をつけて。
ヒュッ!
ドガァン!!!!
背後で何かがぶつかり、破壊される音を聞いた。
ヒュヒュン!!
ズドドドドドドドドドド………!!!
連続で何かが墜ちる音を聞いた。
走りながら背後を見ると、空から無数の光の線が降ってきた。
それまるで、光の雨だった。
「なるほどねぇ………!」
俺は走りながら得心がいったと頷く。
だけど、
「だけど、やりすぎだろぉがちくしょう!!」
俺は迫りくる破壊の音に、逃げることしかできなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、久しぶりだったから、気持ちよかったよ」
「うん、半径100メートル近くをクレーターだらけにしたら、そりゃ気持ちいいだろうよ」
あれからレイが光の雨を降らせて1分、丘がボコンとへこんだ。おそらく下の拠点が崩れ落ちたのだろう。
それから更に9分間、光の雨は降り続いた。なんというオーバーキル。
「さて、ギルドの人を呼び出すか」
太陽も沈みかけ、目視出来るのは今がギリギリの時間だ。
「えーっと、この魔法陣と同じ陣を書けばいいんだよな」
「そうじゃな」
俺はその辺の棒で陣を書く。丸やら四角やら文字やらをゴチャゴチャ書いたそれは、なんだかよく分からないものになった。
「………なんぞこれ」
「魔法陣のはずだったもの、かの」
ノアが的確過ぎる表現をした。
「まぁいいか。………転移」
適当に魔力を陣に注ぎ、転移を発動させる。
魔法陣はピカーっと光り、周囲が光で満たされる。
次の瞬間、
ボゥン!
ギルド職員が現れた。というか、普通に実体で転移してきた。
「え、え? あれ?」
「あー、ギルドの方?」
「あ、は、はい」
「黒牙拠点破壊証明で喚びました。アレです」
そう言ってクレーター地獄を指差す。
ギルド職員は冷や汗をかきながら、頷いた。これでよし。
「さて、帰るか」
「そうじゃの」
「帰ったらギルドに寄らなきゃね」
「ご主人様の家に行くのね!」
「まさか完全な転移をするなんて………」
上から俺、ノア(猫形態)、レイ、リナリア、ギルドの人だ。
無関係なギルドの人、ごめんなさい。俺のパーティーは俺を含め普通の人はいません。
「じゃあ向こうまで転移でひとっ飛びするか」
「転移ですか!?」
驚くギルドの人。
が、俺はそれをスルーする!
「目印は………、アンネくらいしか出来ないなぁ」
「………そうじゃの」
すまんアンネ。クレスミスト王国の城下町じゃ、アンネの魔力が一番辿りやすいんだ。
確実に驚かしてしまうが、許せ!
などと思いながら、大きな円を書く。
全員がそこに入ったのを確認し、魔術を起動させる。
………アンネ発見。
「転移ッ!」
シュンッ!
刹那、その荒れ果てた荒野には人一人いなくなった。