第27話:オーヴァーライト
「せまいよー、こわいよー」
「なぜいきなり閉所恐怖症キャラになっとるんじゃ」
………。
「こちらスネーク。潜入に成功した」
「メタギアなどしたことないじゃろうがお主」
………。
「だってつまんないし」
「オイ」
というのが、洞窟に侵入してはや30分たったころの会話。洞窟内はある程度の光はあるのだが、やはり薄暗い。しかもどうやら黒牙によって掘られて広くなっているらしく、自然の洞窟っぽいのは入り口だけで、中はちゃんと部屋が分けられてたりと、普通に家っぽくなっている。
途中、会議室っぽい場所や寝所、憩いの場っぽいのもあり、なんか宿舎付きの会社を思わされた。
たまにすれ違う団員は偏光迷彩でスルー。さっき言った会議室とか談話室っぽいとこにも十数人いたけど、それももちろんスルー。下卑た笑い声が酷く不愉快だった。
なんにせよ、今回の目的の一つである強奪品の回収さえ済めば、あとはここを上から爆撃でもすりゃ潰れるでしょ。きっと何人も死ぬだろう。しかし、残念ながら俺は死人と言うものは見慣れている。霊体として、ではあるが。
だってあいつら死んだ時点での格好で俺の前に現れることが多いんだもん。流石に慣れるわ。
「………で、ここは何だと思う?」
「………ふむ、鉄の匂いがするの」
いつの間にか、人気のない場所を歩いていた。
そこは、妙に風の通りが悪く、空気が淀んでいた。というか、この先に行きたくないのだけど。
「………ノア、俺この先行きたくない」
「わらわも行きたくないが………依頼をこなすためにはこの先も見ないと行かんのじゃろ?」
「いや、そうなんだけどさ………」
ちょっと弱音を吐いてみたくなっただけだよ。
壁は岩が剥き出しで、他の場所より光源が少なく、足元も薄暗かった。
そして鼻に引っかかる、………異臭。腐ったような、そして鉄のような。
「………ちっ。嫌な予感しかしねェ………」
こうして言葉に出すのも、自分の気持ちを抑えるためだ。何か言っておかないと、どんどんパニックになってしまいそうで怖い。
少し歩くと、岩に直接釘のようなものを打ち込み扉を付けている場所があった。しかし周りが岩だらけなためか、扉の向こう側の空気が漏れ出している。さっきよりも一層酷い臭いがした。
ホントに嫌だ。この先に行きたくない。
体が冷たくなり、足が震えた。
この先、何があるのかが、もううっすら分かってしまっている自分に反吐が出る。
「大丈夫じゃユーリ。わらわがついとる」
「ノア………」
俺は、手の届く範囲の人は守りたいと思っている。もし、予想通りであれば、この先で助けを待っている人がいれば、それは俺の手の届く範囲だと俺は決めてしまうだろう。
少し躊躇うも、俺はその扉に手をかけた。
ギギギ………
扉がゆっくりと動き出す。
それと同時、向こう側の空気が勢いよくこちらへ流れ込んできた。
その悪臭に、吐きそうになった。
卵の腐ったような、ゴミ処理場のような、もしくは汚物のような。
俺のこれまでの人生で感じた悪臭と言う悪臭を混ぜ込んだような臭い。
その先に見たものは………
「なん……だ、これ………!?」
床に夥しく撒き散らされた赤黒いナニカ。………いや、もう誤魔化すのはやめよう。………夥しい血痕。乾いて黒く罅割れたものもあるが、まだ1日2日程度しか経っていないようなものもある。
そして、細長い通路を挟み込むように両側に並び立つは、鉄格子。
ここはどうやら、監獄のような場所。
震える足で進む。
最初に見えた鉄格子の中を覗いた。そこには、すでに白骨化した死体があった。
「うぐ………ッ」
必死に手で口を抑える。
その白骨は、襤褸切れの布しか着ていないようで、ここでの扱いが見てとれる。
「くそどもが………」
次に俺を襲ったのが、黒牙への怒り。
最初はやられ役かと思ったが、なかなか非道じゃないか。俺もこれで容赦する理由がなくなった。
「ユーリ………。今はそれよりも他に誰かいないか探してみようぞ」
「ああ………」
俺は嫌に冷静になった頭で応える。
それからゆっくり鉄格子の部屋を一つ一つ見ていったが、そこのどれもが死に汚染されていた。
虚ろな目が俺を捉えるが、それは幻想。すでにソレは何も見ることが出来ないのだから。俺の治癒魔術は、すでに死んだ者は癒せないのだ。
『………ッ』
その時、俺はどこかで何かが反響した音を聞いたような気がした。
「なぁノア。何か聞こえなかったか?」
「ん、いや、何も聞こえなかったと思うが………」
『………ッ』
「いや、確かに何か聞こえる」
「うむ、今のはわらわにも聞こえたぞ。もう少し先のようじゃな」
ノアの言葉に牢屋の中を一つ一つ確かめながら進む。
「ぐッ………」
と、見ていた牢屋の反対側から若い声が聞こえた。
「お前かッ!」
「ぐぁ………はぁ、はぁ、………つッ、見つかったか………くそッ!」
そこに入っている人は、床に倒れ伏せたままその床を叩いた。ような気がした。全身が布で覆われているため、イマイチ全体像がはっきりとしないのだ。
しかしもう力が入らないのか、なんとか持ちあげた手が、自重で落下したようにしかならなかった。
「お前はまだ生きてるのか………ッ! 良かった! 今治してやる!」
「近付くな! 殺すぞ!!」
俺はその人を無視して鍵を、熱で溶かした。もちろん魔術で。俺の魔術は創造。掌に高温を生み出したのだ。
「大丈夫だよなお前!」
「くそっ、………ぐぁ!!」
俺はその人が被っている布をはぎ取ったところで、息をのんだ。
「お前………その手足………」
その人は、俺と同じくらいの年の、少女だった。髪の毛は血で固まり、少女の横たわる床にも新旧問わず血が付着している。
しかし、それ以上にその体は、異常だった。
まず、右手は肘から先がない。左手は肩からない。左足は膝下あたりから先がない。そして、腹に大きな切傷があった。
普通、これは致命傷だ。しかし、その切断された手足の先は、なぜか肌がツルンと光っていて、酷く爛れていた。
………焼かれたんだ。
焼いて無理矢理止血させられた跡だろう。
「いま、なおす」
俺は動かない口を必死に動かし、それだけ伝える。
暴れる少女の額に手を当て、体内の情報を解析する。
………どうやらこの腹の傷は、ついさっき付けられたものらしい。もう少しほっておいたら死んでいただろう。
俺はいるかいないか分からないこの世界の神様に多少感謝しつつ、解析を続ける。
色んな病気にかかってるな。純潔は守られているみたいだが、エイズにかかってる。あと破傷風にも。ヘルペスもあるし壊血病にもかかってる。それと伝染病か。肺炎にかかってるな。これで良く生きてたもんだ。
「今からお前を治す。大丈夫、安心しろ。俺はお前の味方だ。ここから出るぞ」
俺は一息に言う。そうしないと、口が震えそうだったから。黒牙への怒りで。
「………無理よこんなの。こんな醜い姿で生きていけるわけないわ。貴方が私の味方だというなら、私を殺してちょうだい」
「嫌だね」
俺は即答しつつ、解析を続ける。
「なん、でよ!」
「俺が大丈夫にするからだ」
「………せっかく男のふり、してここまできたのに、ハァ、ハァ、こんなとこで、バレるなんて………グッ!」
ああ、だから処女だったのか。しかしよくバレんかったなマジで。
「………さて、解析終わり。いくぜ」
「さっさと殺して」
「残念。俺はそんなに優しくないんだよ」
さぁ、全てを諦めた少女に、花束を。
「上書き」
少女の体から、光が放たれる。
セラフィムに行った上書きよりも、遥かに高度かつ重労働な魔術だ。
しかし、それはちゃんと結果を残した。
「え………?」
少女の体が一瞬ぶれたかと思うと、次の瞬間には、そこには傷一つなく、横たわる少女がいた。
「え? え?」
戸惑う彼女を見ながら、俺は息を一つ吐いた。
良かった………ちゃんと成功した………。
もちろん自信はあったが、もしかしたら、という気持ちが拭えなかったのだ。
「立てるか?」
俺は彼女に言うと、彼女は立とうとして、崩れ落ちた。
「え、おい大丈夫か!?」
急いでしゃがみこんだ俺に、彼女はなんでもないと言うように首を振った。
「最後に確認するわ………。貴方は、私の味方? 私を、助けてくれるの?」
彼女の言葉に、俺は自信をもって、即答する。
「ああ、もちろんだ。俺の手が届く範囲の人は助けると決めたからな」
彼女はその手をゆっくり持ちあげ、俺の袖を捉えた。と思ったら、そのまま俺へと倒れこみ、胸へ顔をうずめた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。でも今は、今だけは少しだけ、このままで………」
彼女はそれから、声を押し殺して泣いた。
強い子だと思う。異常なほどに。本当なら泣き喚き、手に負えないほど狂うだろう。しかしこの子は………。
そこまで考えて、俺は思考を切り替えた。
この後はもう少しこの牢獄を見て回って、強奪品を回収して、………皆殺しだ。
「はぁ、駄目だな。黒い思考しか浮かばなくなった………」
俺は誰の耳にも聞こえない声で呟く。
でも、とりあえず今だけは。
俺は彼女の肩に腕を回し、抱きしめた。
この子が泣きやむまではこうしていよう。
毎日投稿が厳しくなってきた今日この頃。皆さんいかがお過ごしでしょうか。
ところで、pv10万突破ありがとぉございます! さらにユニークも14000突破と、これまたありがとぉございます!
てか、昼前に日別pvが3000とか越えないで下さい! プレッシャーぱねぇ!
まぁそんなこと気にせずまったりやらせてもらってますが。一話一話も短いしね。
さて、残酷描写について何もなかったので、こんな感じになりました。それと、前回の偏光迷彩kwskって方がおられましたらご一報ください。google先生とwiki先生を頼って、分かりやすく説明させていただきます。
ではまた次回。明日も夜にちらりと見ていただければ、たぶん更新してるのではなかろうかと思われます。
ではッ。