第25話:ギルド登録
第二章 ギルドと依頼と
あれから一週間。俺は引きこもりと化していた。
その原因はと言うと、この世界の言葉が書けなかったことだ。
読むというのは、最初は読めなかったのだが、ノアの神様的不思議パワーで読めるようにしてもらった。しかし、書くのは不思議パワーでは出来ないらしく、自力で覚えなきゃならんかった。
そのため、俺は一週間もの間、書庫に引きこもっている。
そして、今。
「もう嫌だ!」
断念した!
「ユーリ………もう何度目じゃその言葉」
断念したこと幾星霜。なんで一週間も書庫にカンヅメなんだよ。
「………まぁ一般的な文字は書けるようになったようじゃし、とりあえずここまでにするかの」
「ま、まじっすかノアさん………」
「うむ。一週間よく頑張ったの」
え、まじ?
解放?
俺、喜んじゃうよ?
いいね?
いいよね?
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
「喜びすぎ喜びすぎ」
これが喜ばずにいられるか!
ラルムさんたちと会った次の日から書庫に行って、そこで文字が書けないことに気付いてからは1日中書庫に籠もったままで、俺の癒やしは猫形態のノアを撫でくり回すことと、たまに様子を見にやってくる三姉妹くらいだ。特に一番下のルチアは、あの無邪気さが俺の荒んだ心をグングン癒してくれた。
「さて、こんな辛気くさい場所、さっさと出ようぜ」
「うむ。………さて、これからどうする? まだまだ日は高いぞ?」
書庫を出て窓の外を見ると、まだ昼頃のようだ。そういえば昼飯食べてないな。
「ちょっと街にでて昼飯食うか」
「ほぉ、なかなか名案じゃの。しかして、金銭はあるのかえ?」
………ハッ!
俺そういえば無一文じゃね!?
「………手軽に稼ぐ方法は?」
「やはりギルドではないか? 以前そんなものがあると言っておったろ」
おお!
そういえばあったねそんなの。
「んじゃ行きますか」
「うむ」
◆◇◆◇◆◇◆
「ここがギルドかぁ」
「そのようじゃな」
外観は石造りで、結構しっかりしている。もっとボロっちいのを想像してたんだが。
「とりあえず入るか」
「うむ」
木製の扉を開くと、真正面にカウンターがあり、向かって右側におそらく依頼のリストが貼ってあるっぽい。で、逆の左側にはテーブルと椅子が幾つか置いてあり、厳つい男どもがこちらを睨み付けている。つかなんでそんな重そうな装備してたんだよ。動きづらくないのかねぇ。
入ってすぐの場所にギルドの案内板があったので見てみると、どうやら二階に食事する場所があり、三階には武具屋があるらしい。結構デカい。
「さて、まずは登録かねぇ」
俺は適当なカウンターへ向かって行った。
「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルド登録したいんだけど、ここで大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ではこちらの契約書を精読し、同意したら署名して下さい」
ひらりと出された紙にはつらつらと、死んでも知らんって感じのことが書いてあった。
俺はそれに名前を書く(もちろんこちらの文字で)と、受付へ返した。
「はい。ではギルドについてご説明させていただきます」
端折ります。
簡単に言えばギルドの中の案内と、依頼の受付と換金くらい。とりあえずカウンターにいけばいいらしい。
それとハンターランク。ギルドに登録した者をハンターと呼び、強さ順にランクをつけるらしい。最低がF。初心者がEくらい。Dで中堅レベル。Cで中堅でも上位。Bはもう上級ハンター。Aは世界的にも最強レベル。Sは過去に2名しかいないらしく、その力は災害級だとのこと。
依頼もSからFまで分かれるのだが、自分のランクより1つ下より高いランクしか受けられない。つまり例えば自分がCランクなら、1つ下のDランクと、それ以上のC、B、A、Sランクを受けることが出来るわけだ。まぁ死んでも知らんという契約書はあるので問題はない。ただ、依頼の中にランクに合うものがない。つまり自分がAランクで、依頼にC以下しかない場合にのみ、依頼の中で一番高いランクを受けることが出来る。
「ここまで大丈夫ですか?」
「ああ」
「では最後にこれを」
渡されたのは、銀色の指輪。幅が広く、表面に幾何学的模様が入っている。
「これがハンター証明になります。こちらの装置に近付けていただければ、今の自分のランクが分かりますし、他国へも比較的自由に出入りできるようになります」
「なるほどね」
「これにて説明を終わります。何か質問は御座いますか?」
「いや、ないよ。ありがと」
「分かりました。ではあちらで依頼をお受け下さい」
受付嬢はリストが貼ってある場所を指差した。
「あ、それと、ランクはFからの開始ですので、お間違えなきようお願いします」
「ん、わざわざありがとね」
それだけ声を掛け、リストへ向かう。
「これかぁ………」
俺は壁に貼られたリストを見ていく。今俺はランク最低だから、全てのランクを受けることが出来る。
しっかし、ほんと多種多様な依頼だな。田畑の手伝いや薬草摘み。はたまた盗賊団の壊滅や、魔物退治。書類整理から、果ては殺人依頼まである。なんという便利屋。でもお金は払ってんだよな。
「どうするノア?」
「なんでもいいと思うが、1つ気になる依頼があるの」
「どれ?」
「これじゃ」
猫ノアの小さな前足が、1つの紙を指す。それはこんな依頼だった。
【Cランク・盗賊団《黒牙》より強奪品の取り返し依頼】
………これ、黒牙(笑)じゃん。しかもCランクて地味に高いし。
「ユーリ、もう1つ面白いの見つけたぞ」
再びノアの指し示す先を覗き込む。
【Bランク・盗賊団《黒牙》の拠点破壊依頼】
Bランクわろた。そんなに手強いか?
いや、俺が出会ったやつらが下っ端だった可能性もある。魔法使いもいるだろう。これは手強いかもしれない。
………でもなぁ………なんかやられ役っぽい匂いがするんだよなぁこいつら………。
「この2つにすっか」
「うむ。わらわもいるのじゃ、負けることは万が一にもないぞ」
「ははっ、頼りにしてるぜ相棒」
俺は再びカウンターへ向かい、その2つを受けると言った。
次が、受付嬢の反応だ。
「………マジですか?」
「………マジですけど」
酷く驚かれた。
「さっき登録したユーリ・ツキシロ様ですよね?」
「ええ」
「………マジで受けるんですか?」
「………まぁそのつもりですけど」
非常に驚かれた。
「黒牙を知らないんですか?」
「や、割と結構知ってる」
一度やりあいましたから。
「最近イーストエンドの街で団の一部が壊滅的被害を受けたらしいですが、それまでは負けなしの最強盗賊団だったんですよ?」
「ん? イーストエンド?」
「あれ、知りませんか? イーストエンドの噂。黒牙に襲われた街を、2人の光の騎士が空から舞い降り、街を救い出したっていうやつ」
………まさかねぇ。
「1人は薄緑色の髪とこの世のものとは思えないほど顔が整っているらしいです。もう1人は黒髪黒目の少年で、こちらも顔が整っているらしいのですが、材質の分からない不思議な服を着ているんですって」
……………いやいや、まさかねぇ。
「そして光の騎士の由来ですが、緑髪の方は両手に光の剣を、黒髪の方は光の槍を使ったらしいんです」
…………………あはは。
「私的には黒髪の方の服が少し気になりますね。………そうそう、ちょうどあなたの服みたいに材質が………え?」
待て待て。実際ほぼ確定しとるが、今気付くな。
「黒髪黒目の少年………」
こっち見んな。
「もしかしてあなた………」
ガチャン――
背後で、ドアが開いた。誰かがギルドへ来たのだろう。………が、俺の不幸体質がその威力を発揮した瞬間だった。
「あ、ユーリ。こんなとこにいたんだ」
俺はゆっくり振り返り、口を開く。
「レイ………、タイミング悪いぜおい」
「え、ご、ごめん………?」
レイは意味が分からず、俺の威圧に負けて謝ってた。なんかごめん。
「緑髪………」
受付嬢もなんか言い出したし。
先手を打っとくか。
「おい受付嬢」
「は、はいッ!」
「絶対に口外するなよ?」
「………え?」
もう面倒くせぇ。
「俺とレイが、黒牙を潰したのは確かだ。というか、今の噂はたぶん俺とレイのことだろう。だが、目立つことが嫌いなんだ。黙っててくれないか?」
受付嬢はポカンとしていたが、急に首をブンブンと上下しだした。たぶん了解の意だろう。
「ん、ありがと。レイもギルド登録したら?」
「ユーリはしたの?」
「ああ」
「じゃあしようかな」
その後、挙動不審な受付嬢の手で、レイの登録も終わった。ギルド証明の指輪は、2人とも右手の人差し指に填めている。
「じゃあ俺とレイでこの2つの依頼受諾、頼める?」
「ひゃいッ!!」
ちくしょう可愛いじゃねぇか。
「………ノア、痛い」
「気のせいじゃ」
「肩にめっちゃ爪が食い込んでるのだけど?」
「気のせいじゃ」
「………嫉妬でsブフッ!」
まさかの猫パンチをくらった。
「ユーリ、何してんの? 行くよ?」
「お、おう」
レイに急かされ、ギルドを出る。まだまだ日は高いようだ。町の喧噪が心地いい。
「んじゃ行くかー」
「そうだね。でもユーリ、拠点破壊ってどうやって成功証明するの?」
「………あ」
そして再びギルドに入る俺たちを、町行く人は不思議そうに見ていた。