第21話:転移
「初めまして。クレスミスト王国国王のラルム・クレスミストだ」
「これはご丁寧にありがとうございます。俺はユーリ・ツキシロといいます」
あれからすぐに談話室みたいなところに呼ばれ、王様との対談に持ってこれた。
この場にいるのは俺とレイとラルムさんだけである。
「難しいことは嫌いですので、すっぱり本題から入りますね」
俺がそう切り出すと、ラルムさんは静かに眉根を寄せた。
「………そうじゃな。私もその方が話が早くて助かる」
「ではとりあえず、アンネルベルは無事ですよ」
「ッ!!」
あれ、ミスった?
ラルムさんから敵意と殺気が漏れ出てんだけど………。
「何が……何が望みだ……」
「は?」
「この通りだ、頼む! アンネを返してくれ!!」
ラルムさんが急に土下座しだした!?
え、ちょ、予想以上すぎて対策が………。
「えっと………」
「頼む! 望むものなら出来る限り用意してみせる! だから……だからアンネだけは……ッ!」
「え、だから、おまっ」
え、これどうすればいいの?
ふと肩に重さを感じると、ノアが肩に乗りながらこちらを見ていた。
「………とりあえず、誤解を解くところから始めてはどうじゃ?」
「そ、そうだな。えっと、ラルムさん?」
ラルムさんが土下座の体勢から少し頭を上げる。
「俺たちはアンネを保護してるってだけで、ここまで安全に連れてくるってことを伝えに来ただけなんです。なので土下座はやめて下さい」
「そ、そうなのか………?」
ラルムさんはまだ疑わしげな目でこちらを見ていた。
「それで、本当はアンネも連れてここまで来る予定だったんですが、レイ……龍人と一緒に来たら攻撃される可能性がありましたので」
そう言って俺は苦笑した。
実際はそんなことにはならないだろう。しかし、機を急ぎ、強行する可能性もないわけではない。
「だから、とりあえず俺とレイが来て、誤解を解いてからにしようかと思いまして」
「ほ、本当なのか……?」
「ええ、安心して下さい。いっそ今から呼びましょうか」
そう言うと俺は立ち上がり、談話室の窓に近付く。
その窓を開くと、そこから身を投げた。
別に説明とか説得とかが面倒臭くなったわけじゃないデスヨ?
「な……ッ!」
窓の向こうでラルムさんの驚きの声が微かに聞こえた気がした。
「ノア、最初のアレな」
「了解じゃ」
俺は落下しながら手に魔力を集め、風を起こす。
そして、一番初めに空から落下した時のように、体に風を受け、スピードを調整し、スタッ、と着地した。
「ふぅ、成功だな。しかし、これもなんかまだ想像がはっきりしないから、そのうちはっきりしたイメージ作らないとな」
「うむ。慣れてきてゃおるのじゃから、それくらいなら簡単じゃろう。今でも、それだけ出来たら立派なもんじゃ」
「ありがとよ」
さて、と言いながら上を見る。遙か上で窓から吃驚しながら顔を覗かせるラルムさんが、少し面白かった。少し心臓に悪いことをしたかもしれない。あとで謝っとこう。
「ところで、魔法陣とか必要?」
「んー……、そうじゃの。ここに魔力を込めながら、円を描いてくれ。それだけで事足りるじゃろ」
俺はノアが指し示した場所を、かかとを使って土にガリガリと半径1メートルほどの円を描いた。
こんなもんだろうか。
というか、空から落ちて円を描いている俺の周囲に兵士が集まりだしている。事情を知らない兵士からすれば、俺は完全に敵なのだろう。さっきから殺気がゾクゾクする。別に俺がドMってわけではないので勘違いしないでほしい。
「さて、行きますよー」
「うむ」
俺は円の中へ入り、集中するために体の前で手を合わせる。
そして感じる反応。そこへ向かって飛び出す感覚。
「転移ッ!」
シュッ!
そんな音を残し、俺はその場から消え失せた。
ちなみに、レイは最初から談話室で優雅に紅茶を飲んでいたそうだ。
◆◇◆◇◆◇◆
シュッ!
「あ、ユーリさん」
転移先はどこかの宿で、すぐさま後ろから話しかけられた。
振り返ると、丸い円が書かれた紙を持ったアンネがそこにいた。俺はそこに込められた魔力を目標に跳んだのだ。
「んじゃ、城に行きましょうか」
「説得は済んだんですか?」
「……………」
「済んでないんですね………」
スィードはどこだろう。騎士たち集めて欲しいんだけどなー。
「無視ですか………。えっと、騎士たち呼んできますから、準備しといて下さい」
そう言って部屋を出て行くアンネ。王女自ら雑用って、いいのかな……。
「ユーリ、騎士全員が入る程度の円を描け」
「んー」
俺は部屋を出て、宿も出る。近くにいた騎士に広い場所はないかと聞くと、町外れまでいかねばないらしいので、騎士が全員揃えば町外れまで来てくれるように言っておいた。
「で、今俺たちは町外れまで来てんだけど」
「誰に言っておるんじゃ?」
「そこはホレ、様式美というやつだ」
意味が分からなかった。
それは置いといて、俺は大きい円を描くために木の棒を探し、再び魔力を込めながらガリガリとデカい円を描いた。というのも、馬車も一緒に転移するからだ。
「てかさ、転移とかよく出来たな、俺」
「転移先に目標がないと無理じゃから、あまり使い勝手は良くないがの」
それでも破格の魔術だろう。
それから10分後。
「ユーリさん、準備出来ました」
「ん。それじゃあ始めるぜ?」
俺は再び手を合わせ、集中する。
……………見つけた。
「……行くぞ。転移ッ!」
ヴンッ!
先ほどより大きい音とともに、円の中にいたモノが消え失せた。
◆◇◆◇◆◇◆
ヴンッ!
「んー、転移かんりょ……う?」
………何があった。
あたりには兵士たちが死屍累々と倒れていた。そして、レイがその中で唯一悠然と立ち尽くしていた。しかもなぜか無駄にかっこいい。固有結界を発動させたアーチャー並にかっこいい。
アンネもスィードも、その光景に動けずにいた。
「レイ……何してんだよ」
「あ、ユーリ。おかえり」
レイはいつも通りだった。
「で、何があった?」
「ユーリが転移した後、兵士たちが魔法円を消そうとしたから妨害したんだけど、それがどうやら攻撃と勘違いされたらしくてね。気付いたらこんな感じに」
そう言って首を竦めるレイ。とにかく、レイ1人でも、兵士集めただけなら相手にもならんわけか。さすが龍人、といったところか。
「アンネ………ッ!」
ふと聞こえた声に、アンネが振り向く。
「父様! 母様!」
走り出すアンネを、誰も止めることはなかった。
泣きそうな顔のラルムさんと、嬉しそうなアンネ。抱き合う3人を見て、本当に良かったと思った。
「………さて、兵士を全滅させてしまった件。どうするのじゃ?」
「せっかく感動の場面なんだから少しくらい現実逃避させてくれよ………」
ノアは、良くも悪くも、俺のパートナーであった。
もしかしたら今日中にこの話を少しだけ編集するかもしれません。
2010/04/22 17:45
編集完了