第20話:クレスミスト城
◆クレスミスト王国◆
「な………なんだと……ッ!」
クレスミスト王国は、今、蜂の巣をつついたように混乱していた。
クレスミスト城にある広い修練場には、騎士団が所狭しと動き回っている。
それもそのはず。今彼らの頭上には、世界最強種である龍族が、その翼をはためかせているからだ。
バサッ!バサッ!
龍が広場の中心に降り立つ。その上には、黒髪黒目で、見たことのないデザインの服を着た青年が乗っていた。
「な、なんなんだアイツら………ッ!」
「龍族はアンネルベル様を攫ったやつらだろ………ッ!」
その様子を一番高い塔の上から見下ろす影があった。
クレスミスト王国国王、ラルム・クレスミストである。
「クソ……龍族め……ッ!」
ラルムは、攻撃出来ないことに唇を噛んだ。
おそらくあの龍族は、アンネルベルを攫ったやつらの仲間。つまり、アンネルベルの行方を知っているのもあの龍だけなのだ。なんとしてもアンネルベルを助け出さねば………。そのためには、龍を攻撃して機嫌を損ねてしまうのはマズい。
「………あなた」
指が折れそうなくらいに窓枠を掴むラルムの肩に、優しく手が置かれた。
ラルムの妻にして、クレスミスト王国王妃、フィーネリア・クレスミストである。
「………フィーネ」
「今は我慢の時です。なるべく、冷静になりましょう」
「………ああ。分かってはいるんだが………ッ!」
ダンッ!
ラルムは窓枠を叩く。まるでそこに仇がいるかのように。
「あなた………」
「………すまん。気を使ってくれたのにな」
「いえ、気持ちは分かりますもの。本当は私だって………」
フィーネの顔が歪む。それは激怒しているようにも憎しみを感じているようにも、泣きそうにも見えた。
ラルムは思う。自分は元々一貴族でしかなかったフィーネリアを自分の妻にし、側室などはとらなかった。国王に恋愛結婚など御法度なのだが、愛し合っていた2人は周囲の反対を押し切り、結婚した。
このことに一番反対したのが公爵貴族だった。クレスミスト王国の公爵は、国王に娘を嫁がせて権力を得ている側面があった。つまり、国王の血を継ぐ者が公爵となっていたのだ。
それが、どこの誰とも知らぬ辺境貴族であるフィーネリアが正妻として入城するというのだから、公爵家は慌てた。
フィーネリアにも、色々な嫌がらせがあり、鬱病になりかけた時期もある。
それを支えたのがラルムであり、結果的に2人の絆を強くする結果となったのだが。
しかし、とラルムは思う。もしかしたら、自分がフィーネリアを妻にしなければ、フィーネリアも公爵家と争わずに済んだのではないか。
考えても仕方のないことなのだが、もしかしたら、と考えずにはいられない。
「………今は、それどころではないか」
ラルムは呟き、幾ばくか落ち着いて龍と青年を見ることが出来た。
青年の方は辺りをキョロキョロすると、いきなり顔を上げ、私と目があった。
距離は相当離れているはずなのに、私と目があった。その事実に驚愕していると、さらに驚くことになった。
龍の周りに風が渦巻くと、その風がやんだ時には龍はおらず、人間がそこにいた。
これの意味するところは1つ。
「龍人か……ッ!」
龍族の上位種、龍人であることだ。
「………フィーネ。どう見る?」
「普通に考えれば、アンネと引き換えに何かを渡せ、というところですか?」
「そうだろうな。………すまない、フィーネ。私はアンネの為に、宝物庫の鍵すら開けるやもしれぬ」
宝物庫にはクレスミスト王国歴代の宝が所狭しと置かれている。その価値は、莫大な、という言葉でも足りないくらいに、価値のあるものだ。そのため、幾つもの魔術的物理的な封印が施されており、頑丈かつ不動の金庫となっている。
これを失えば、国王としての権威は地に落ちる。どころか、国中から蔑まれ、反乱が起きるかもしれない。そうすれば、このクレスミスト王国はおしまいだ。
しかし、ラルムの娘に対する愛情はその程度で到底諦められるものではない。
「………ええ。躊躇いでもしたら、私があなたを叩いているところですよ」
フィーネリアがぎこちない笑みを見せる。無理をしているのだろう。
ラルムは笑みを返し、目を閉じる。
ダンダンッ!
突如、ドアが勢いよく叩かれた。
「入れ」
「ハッ!」
入ってきた騎士は、ドアを開けると部屋には入らず、廊下で跪いた。
「報告します! 先ほど龍人及び見知らぬ青年が城内に侵入したしました!」
「ああ。窓から見ていた」
「それで………、」
騎士が言い澱む。それにラルムとフィーネリアは嫌な予感を感じつつ、先を促した。
「見知らぬ青年の方が……その……、国王様と面会を望んでいるようなのですが………」
やはりか………。
ラルムは目を瞑り、すぐに開いた。
「………第二執務室へ案内せよ。私たちも今からそちらへ向かう」
「………、ハッ!」
騎士は少しの躊躇いを見せたが、すぐに返事をし、廊下を駆けていった。
おそらく彼らに報告するためだろう。
「あなた」
「ああ、行こう」
ラルムとフィーネリアは揃って、王の執務室を出た。
◆ユーリ◆
「おおッ! はえー!!」
「これは快適じゃのぅ」
俺は今、レイの背中に乗り、クレスミスト王国の城を目指している。ここにいるのは俺とレイとノアだけだ。
「喜んでもらえたなら良かったけど、本当に大丈夫なの?」
レイが心配しているのは、攻撃されないか、ということだろう。
「それについては大丈夫だと思うぜ。国王もみすみす自ら娘の手掛かりを捨てはしないだろ」
アンネには近くの町で休息をとってもらっている。というか、アンネがいたら攻撃される危険があるのだ。
手を出さずに大人しく話を聞く可能性も高いのだが、一応確実な方を選んだ。
「ユーリ、城が見えてきたよ」
「おぉ………早いなぁ」
出発して3時間程度だろうか。彼方に大きな街と、その中心にモン・サン=ミシェルみたいな城がある。
「おー、だいぶ近付いたな」
街の上を通り過ぎ、城の近くまで行く。
城の周囲は石畳の広場のようになっていて、その一角に四角で囲まれた運動場のような場所があった。
「レイ、あそこに降りよう」
「了解」
レイは周囲に砂埃を上げながら、その中心に降り立った。
「ありがとな、レイ」
「いや、礼には及ばないよ」
俺はレイの背から降りる。
俺たちが降りた運動場のようなところは、どうらや騎士の練習場みたいなところらしい。いたるところに甲冑を被った人がいるが、その誰もが腰が引けている。
やはり、龍人というのは畏れられているのだろう。
「き、きさまら……何用だ!」
「あー、ここってクレスミスト城だよな?」
とりあえず確認。
「そうだ! ここはクレスミスト王国国王のおられるクレスミスト城だ!」
だよな。
「済まないけど、国王に取り次いでもらえない? アンネ……ルベル様について話があるんだけど」
「………ッ! アンネルベル様……だと……」
そこで、その騎士の後ろからガタイのいい人が出てきた。将軍、と言われれば納得出来るくらいの威厳を放っている。
「我が王に何用だ」
「アンネルベル様についてちょっとね」
「………待っておれ。今聞きに行く。………誰か!」
将軍っぽい人が叫ぶと、騎士が1人跪いた。
「国王に伝令を」
「ハッ!」
そう言って、騎士は城に走っていった。おそらく王様に伝えに行ったのだろう。
王様といえば高いところにいるってのが定石だけど、どこにいんだろ。
俺は城を眺め、一番高い塔を見上げた。逆光で、しかも遠いので分からないが、人がいるのは分かる。もしかしてあれかねぇ?
「ユーリ、ヒトガタになるよ?」
「ん、ああ。いいぜ」
レイの周囲が渦巻き、次の瞬間にはいつもの見慣れたレイがいた。
その姿に騎士がざわめいた。
俺はそれを横目で掠め、ポケットに手を突っ込んだ。
①記念すべき第20話に、少しだけ文章量を多くする。
②普通に2話分出来る。
③書店で緋弾のアリアⅥを偶然発見する。
④明日の分を書く暇がなさそう(今日中に読んでしまうので)。
⑤2分割。
そんなことをするために、家のパソからの投稿です。ケータイだとコピペが出来ないからね。
明日は確実に投稿できますのでよければ一読下さい。
では。
⑨バカ