第02話:巨大飛びトカゲ
「いやっほううぅぅぅぅぅううう!!」
こんにちは太陽。また会ったね空。
お前誰だと問われれば、月城優璃だと俺は答える。お前何してんだと問われれば……まぁそれは置いておこう。
ついさっき自称猫神様に拉致されて、激しい乗り物酔いみたいな状態でした。
ちなみに猫神様のゲロリンは紙一重で躱しました。
さて、簡単に状況を説明しましょう。
「ここはどこだぁ!」
「空?」
正解です。
酔ってる間にずっとあった浮遊感は、数秒後に落下の浮遊感に変わった。まぁ落下してるので浮遊してないが。
妙な酔いからいきなり解放されたと思ったら、凄く寒くなり、刹那、落下した。
「わーい。町が小さーい」
遥か下には森が広がり、遠方に小さく町が見えた。
高度何メートルかは知らないが、気温が下がるほどに高い。そして息がしにくい。………あ、雲が間近に。
つまり………俺は今、パラシュートなしのスカイダイビングを経験しているわけだ! 滅多に無いぜこんな機会! ……別に望んでないから一生無くても構いませんわよ?
つかこのままじゃ死ぬんじゃね?
「おいコラ猫神!」
「ノアじゃ」
「あ?」
「わらわの名はノアという。そう呼べ」
ノア?
うちで飼ってる黒猫と同じ名前じゃん。
「ちなみに現在のあるじは月城優璃という」
「お前うちの猫かよ!」
俺の家で飼ってる猫だった。
飼ってる猫が神様だった。
ねーよ。
「何度かアピールしたんじゃがのぅ」
「アピールぅ? 何したんだよ」
「ペットボトルの蓋開けたり、開けた扉を閉めたり」
「前者はただすげぇなーと思ってただけだ。後者に関しては気付きもせんかったぞ。つかそれは神様じゃなくて妖怪だ」
たしか猫又って妖怪が、開けた扉を閉めるってやつ。
「そうこうしてる間にまもなく地上じゃのぉ」
「忘れてたぁぁぁあああ!!」
忘れてたのではなく、この場合は現実逃避という。
「おいノア!」
「なんじゃユーリ」
「なんかトカゲの群れみたいなんがいるけど、あれなんだ!」
ちょうど落下の通過点に、翼の生えたトカゲが十数匹飛んでいた。しかも、凄く……大きいです……。
「あれはドラゴンじゃの」
「聞かなかったことにしよう」
とりあえず巨大飛びトカゲに直撃なので、なんとかしないと当たった瞬間衝突の衝撃で死亡は確実だ。
「なんとかなんないのか!?」
「わらわには無理じゃ。わらわはこちらの世界に直接影響を与えることは出来んからの」
「……死んだな」
「阿呆。直接的にはじゃ。間接的になら問題あるまい」
「短い人生だったな……」
「話を聞け!」
「で、間接的にって何すんだよ」
「聞いてたのか!?」
漫才してる場合ではないが、どうやら俺の頭のネジは数本飛び散ってしまっているようだ。
「で、具体的には?」
「ごほん……、わらわがユーリの力の枷を外してやるから、ユーリは力をイメージで顕現して………、まぁあとは適当に」
「適当に!?」
「うむ」
「うむってお前、結局人任せかよ!」
「間接的にと言ったじゃろ。この戯けが」
……そういえばそうでしたね。
「つか俺の力の枷を外すってなんだよ」
「ふむ……、ま、今は気にせんでよい。とりあえず魔法みたいなものを想像するのじゃ」
「よ、よし分かった。なら風を起こしてトカゲを散らして、ついでに着陸しよう」
つまり竜巻みたいなのを起こしてトカゲの群れに穴を開け、そこをくぐって、さらに地面に風を当て、その上昇気流で着陸しようという、……まぁ無茶な話だ。
でもやらないと死ぬしね。
「よし、ではゆくぞ」
「ん、分か……ってちょっと待て! 人乗ってないかあれ!?」
「まぁ乗れんこともないからのぅ」
10数匹のトカゲ(断じてドラゴンではないと信じる)の背には、最前列3匹に1人ずつ。最後列2匹に1人ずつの計5人の搭乗者がいる。
竜巻で落ちやしないだろうな……。
「ん……? ユーリ、もう1人いるようじゃぞ」
「え、どこ?」
「真下のドラゴンの足に掴まれとる。奇特な乗り方じゃの」
明らかに捕らえられてんじゃねぇか。
「ではゆくぞー」
言うが早いか、背中に抱きついてきた。瞬間、焦る間もなく体に得体の知れないものが流れ込んで来た。
「ぐぉ……ッ! なんだよ……これ……ッ!」
「いいから早くイメージを!」
猛る頭を制御し、風をイメージする。
風とはつまり、気圧の差に流れ込む空気である。ならばわざと気圧の差をイメージし、さらに回転させることが出来れば竜巻の完成なのだが……。
「難しいことはいいから、起きた現象だけイメージすればよいぞ?」
あ、そう?
んじゃグルグル竜巻がドカンとトカゲを蹴散らし、上昇気流で地面に着陸ってか?
刹那、無意識に翳していた両手から、竜巻が出た。
「マジで!?」
「マジマジ」
その竜巻は真下のトカゲに当たった。計画通りトカゲはバランスを崩し、地上への道が出来たのだが、トカゲに掴まれていた人物が、空中に放り投げられた。
「くそッ! ノア! あれキャッチするからそのまましっかり背中にしがみついとけよ!」
「うむ、了解した!」
放り投げられた人物は、そのまま地上へ落ちていった。特に動きがみられないため、意識はないみたいだ。
俺は体を伸ばし、出来るだけ空気抵抗をなくすように落ちていった。スピードはぐんぐん上がり、すぐにその人物に追い付いた。
多少もたつきながらも両手でしっかり抱き締め、地上を見る。
もうすぐそこだった。
「いくぞノア!」
「いつでも!」
再び起こす暴風。今度は自分の体に向けて。
徐々に速度は落ちるが、地上に着く方が早い。
しかも運が悪いことに下は木が生えておらず、直径百メートル程の草原地帯が広がっていた。つまり、何もクッションとなるものが、無い。
「くそッ!」
再三に渡るイメージ。今度は大きな木をイメージした。青々と生い茂る大木。
それはなんとか現実にちゃんと顕現し、地面から一瞬で大木が生えた。
それと同時に俺たちは木に突っ込み、生い茂る木の枝をクッションに地上に降りていったが、それでも速度は零にならず、最終的には、
ズダンッ!
両足で着地した。
「……ッ! ぐおおぉぉぉぉぉ……」
「だ、大丈夫か?」
ノアが背中から降りて心配してくれるが、今はそれどころではない。地面を掴んだ足はもちろんのこと、勢いを抑えるために創った木によって背中やらケツやらを全力で打ったので、結果的に全身が痛くて、むしろどこが痛いのか分からなくなっている。
さらに人1人抱えたまま、背中に1人背負い、さすがに重量オーバーだ。
ゆっくりと抱えていた人物を横たえ、腰を下ろした。
「はぁ~……。なんとか着陸できたな……」
「うむ……。しかしよく3度も使えたのぅ」
「何が?」
「魔術じゃよ。あれだけの魔術を行使するのは歴代の魔術師でも2~3人しかいなかったぞ。しかもまだ余力はあるようじゃし、これは前代未聞じゃの」
……聞かなかったことにしよう。
横たわり眠る人物は、よく見るとまだ少女だ。柔らかい金髪で、白いドレスを着ていて、高そうな指輪もしている。
「さて、これからどーするべ」
「ふむ……とりあえず、」
不意に辺りに影が差した。
バサバサッ
不吉な音に引かれ上を見ると、
「とりあえず、我らに仇為す者共を掃除せんとな」
飛びトカゲの群れが周囲を旋回していた。