第19話:ルドラ
「アンネ!」
「なんですか?」
………。
あれ、普通だ。
「とりあえずストップだ」
「あ、分かりました。………やめ!」
アンネがそう言うと、風が止まり雨がやみ、久しぶりに太陽が顔を覗かせた。
実際には久しぶりでもないのだが、この時の俺にはとても久しぶりのように思えた。
「ところでアンネ、なんでお前ルドラ召喚できんの?」
「え? 召喚?」
くてり、と首を傾げる。
もしかして、知らないのか?
俺はルベルを見やる、………と、何故かルドラはひざまづいていた。
――なぁノア。なんでルドラがひざまづいていてんだ?
――後で説明する。
――了解。
………とにかく、ルドラに訊くだけ訊いてみよう。
「ふむ。………お前がルドラか。話せる?」
『アンネルベルには聞こえないでしょうが、ユーリ様となら話せます』
「そっか。ノアがそうだからそうじゃないかと思ったよ。んで、アンネとはどんな関係?」
『私が個人的に気に入って、召喚に応じているだけです。本来は私、ルドラを召喚したという体で行使する魔術なので、威力も今ほど高くはありません』
なるほどねぇ。結構神様って適当なのね。
「あ、あの……ユーリさん?」
「ん? なに?」
アンネが若干怯えた様子で話しかける。
その怯えた目。ぞくぞくするぜ………って何考えてんだ俺。
「ユーリさんはどなたと話されているんですか………? ノアさんじゃないっぽいんですが………」
やっぱり見えないのか。ふむ、ならこれならどうだ?
「ノア、ルドラが俺の体使って話すことって出来る?」
「………お主、それ秘術指定される神降ろしの術じゃぞ」
「……………」
秘術を軽々しく使おうとした俺ってどうよ。
「本来神降ろしは神棚作りに始まり、邪気払い、守護霊の断定などしてから、神にお伺いを立て、その託宣を守護霊が降ろした人の体を借りて、まわりに伝えるというものじゃ。しかし今はほとんど必要ないから、以外と簡単かもしれんの」
「………と、言いますと?」
「まず神棚は神が機嫌良く降りてもらうものじゃ。今ならそこにいるしの。邪気払いはわらわがここにいる時点で払われてるし、守護霊はわらわじゃ」
「守護霊ってお前かよ」
「ふふん、我を崇めよ!」
「はいはい」
「凄いおざなり!?」
「で、出来るんよな」
「改めて考えてみたが、簡単じゃ」
「そか。アンネ」
と、ここでアンネに呼びかける。
アンネは話についていけず、固まったままだった。
「え、はい?」
「簡単に言えば、お前は実際にルドラ召喚してます。で、今からルドラを俺に降ろすから」
「な、なんでですか?」
「いや、面白そうだったから」
「そんな理由で!?」
「んじゃいきまーす」
そう言ってルドラを見やる。すでにルドラは了承しているらしく、スッと俺に近付き、体が重なった。
俺はアンネを真正面から見据える。
「初めてまして、アンネルベル」
そんな言葉を紡ぐ声は、俺の知らない女性的な声だった。
そして俺は、ここで一旦意識が途絶える。
◆◇◆◇◆◇◆
ガタッ
俺は背中に感じた衝撃によって目を覚ました。
重力的に、どうやら仰向けに寝ているようだ。
「………俺思うんだけどさ。馬車っつーと、やっぱドラクエ的な荷馬車を想像するんよ。少なくとも、ベッドのある馬車なんか想像できん」
「………寝起き初っ端から何を言っておるんじゃお主は」
ノアに呆れられてしまった。
「これ馬車だよな?」
「うむ。流石に神降ろしは体に負担があったんじゃろ。あれから気を失ったユーリを馬車に乗せ、急いで出発したのじゃ」
「なんで急いだの?」
「町人からの凄い熱気があっての………。完全に英雄扱いじゃ」
「そうか………」
俺は体を起こす。
そこは、見慣れた馬車の中だった。
いくつか馬車があるのだが、アンネは1人で馬車を1台使っている。俺も1台なのだが、ノアという同乗者がいる。騎士たちには猫にしか見えないので、問題ない。
ちなみに俺が寝ている場所の反対側にはレイが座って本を読んでいた。
「レイ、おはー」
「やぁ。調子はどう?」
「ん、快調快調。………ところで、黒牙はどうなった?」
「ああ、町から連れ出して、その辺に放ってきた」
「………あそ」
まぁいいんだけどね。
「なぁ、俺思うんだけどよ。龍になったレイの背中に乗せてもらえば王国まで早く着くんじゃね?」
「僕は構わないけど………」
「一応レイはアンネを攫った張本人じゃからの。王国的にもそうやすやすと龍人に手を貸してもらうわけにはいかんじゃろ」
………確かに。
だがしかし、ずっと馬車ってのはしんどい。
常識に捕らわれていてはいけないのです!
「ちょっとアンネとスィードに相談してくる」
俺は馬車の窓から身を乗り出す。
俺の前には豪奢な馬車が走っていた。こういうことすると高貴な人がいるって分かるからやめた方がいいのだが、スィードに相談する暇がなかった。
俺は馬を操る騎士に言い、アンネの馬車に近付けてもらう。
それに気付いたスィードが操っていたアンネの馬車を減速してくれた。
「どうかしましたかユーリ殿」
「アンネにちょいと相談があるんだけど、いいか?」
「ちょっと待って下さい。………ええ、アンネルベル様から許可が下りました。減速しますね」
「んにゃ、それには及ばん」
俺は窓から抜け出ると、アンネの馬車へ跳び、窓から入る。
入った瞬間アンネが激しくビックリしていたのが、とても面白かった。
「………危険ですし心臓に悪いのでやめて下さい」
「誉めんなよ。照れるじゃねぇか」
「欠片も誉めてませんよ」
とりあえず、成☆功。
「そういやさ、ルドラと話してどうだった?」
「あ、とてもいい人でしたよ。ユーリさんによろしく、って言ってました」
「そか。良かった良かった」
って、違う違う。相談に来たんだった。
「で、だ。アンネに相談があるんだけど、」
そして俺は説明した。とは言ってもレイの背中でひとっ飛びじゃね?って感じだが。
「うーん……」
で、やっぱり難色を示すノア。
「対外問題になるんよな?」
「………ですね。おそらく龍人に攫われたというのは分かっているはずですから、私を連れて王国に着いたとたんに攻撃される、ということも考えられます」
「なるほどなぁ………」
くっそ。外交問題とか面倒すぎだろ。
と、そこで軽く閃いた。少しあくどいが、問題はないだろう。向こうの勘違いで終わるはずだし。
「………たとえば、アンネを連れずに王国に行ったらどうなる?」
「………そうですね………、身の代金要求に来た、と思うでしょうね」
ここで俺はスィードに話しかける。
「スィード、王国にはアンネが見つかった旨、伝えているのか?」
「伝令は出しています。が、最速でも4日ははかかる距離ですね」
ふむ、なら今はまだ分からん状態なわけだ。
「おーけー。たとえばさ、こんな策はどうだ?」
俺は意地の悪い笑みを浮かべ、アンネに自分の策を話し始めた。
喉が半泣きになるくらい痛い。誰か和らげるいい方法教えて下さい。
あと、もしリア友がこの小説を見つけても、そっとしておいて下さい。もしこの話題を出したら大阪湾に沈めます。