第14話:レイネスティア
「アンネ?」
「ユーリさん……」
どうしたんだろう。やたら必死にとおせんぼしてるけど………。
「ユーリさん、今から龍人と決闘するって本当ですか?」
スィードから聞いたのだろうか。
決闘、とは少し違うけど、大まかにはあってる………よな?
「あー、だいたいそんな感じのことするつもりだけど」
「お願いします。やめて下さい」
間髪入れずにアンネが切り返す。
そこまで心配されると、逆に悲しくなりますね………。
「まぁ大丈夫だよ。死にゃあしない」
「ダメです! なんでユーリさんはそんなに龍人の怖さを知らないんですか!?」
おぉっと。随分と核心に触れてきたな。
話す気はないが。
「まぁまぁ落ち着け。本当に大丈夫だって。昨日だって逃げ切れたんだし」
今回に限っては、アンネの命がかかっているので逃げられないし、逃げる気もない。
そこで、アンネが目を見開いているのに気が付いた。
「昨日だって……? ユーリさん………貴方まさか………」
「おおっと、今はそれ以上考えるなよ」
昨日龍人が関係していることと言ったら、アンネ誘拐事件しかないだろう。短い付き合いだが、アンネが頭のいい子だというのは知っている。
あれ? そういえば………
「なぁ、アンネって何歳?」
「え、は、えっと、14ですけど………」
うん、年下だよな。
「んじゃ行ってくるわ。終わったら飯食いに行こうぜ」
なんて軽く死亡フラグ立てて、その場を走り去る。
一応風とかで速度上げているので、追い付けるスピードではない。
さぁて、いっちょやりますかね。
「ユーリ、随分と好戦的になっとるの」
「慣れない旅やら寝床やらで、案外ストレスたまってんのかもなー。無性に暴れたい」
さて、まぁ死なない程度に頑張ろう。
◆アンネルベル◆
「………アンネルベル様」
斜め後ろに立っているスィードが、控え目に声をかける。
「………、追いかけましょう」
「ハッ!」
“近衛”隊長であるスィードは、小気味良い返事を返した。
◆ユーリ◆
さて、町の中心部にある広場に来たわけだが、龍人はどこにいるんだろう。
「ユーリ。最近現実逃避がやたら多いぞ」
「うっせ。まだ異世界に慣れてねーんだよ」
まぁなんだ。目の前にはやたら人だかりが出来てるんだよ。
ちょwてめーらどこから集まったしwテラワロスwww
ってくらいに集まってる。
「はぁ、行くか」
「うむー。わらわは猫のままで良いのか?」
「あー……、んじゃ俺の武器ってことで、やっぱり銃になっててくれるか?」
「承知した」
一瞬後、右手に重みを感じる。俺はガンホルダーを適当に創造して、その銃を腰に付けた。
さて、と呟き、群集に突撃する。
厚みはあるが密度は低いので、わりとすぐに中心部に辿り着いた。そこにいたのは、数人の男に怒鳴られ、タジタジな龍人だった。
「何やってんだアイツ………」
思わず出た言葉に、龍人は勢い良く振り返った。
「す、すまない。今から彼と予定があるんだ」
「はぁ? お前何言ってんだよ。俺らはテメェに用があんだよ!」
何があったんだよ………。それと、なんだろう。龍人になぜか凄い親近感が湧くのだけど。
「じゃ、さよなら」
「ま、待ってくれ!」
そう言って俺の服を掴む。女性に縋られるのはいいけど、男に縋られてもねぇ………。
と思っていると、龍人がこっそりと俺に耳打ちした。
(すまない。人の町に行くなど久方ぶりで、いまいち彼らが何を言っているのか理解できないんだ。助けてくれ)
(なんで俺が………)
(この通りだ。頼む!)
はぁ………。まぁアンネのこととか決闘のこととかあるから無視は出来ねーよなぁ………。
(わかったよ。適当にやるわ)
(すまない、助かる)
「で、お前ら何か用なの?」
「あぁん? 貴様、こいつの仲間なのか?」
「一時的にな」
俺はやれやれ、といった風に首を竦める。
「こいつはなぁ……俺様にぶつかっておいて謝りもしねぇ!! だから俺らがしつけてやろうってんだよぉ!」
あー、おk。チンピラですね分かります。
「おい」
「なんだ?」
俺は龍人に話しかける。
「死なない程度にぶっ飛ばせ」
「………いいのか?」
「問題無い」
少し龍人は考えていたが、踏ん切りがついたのか手に魔力を集中させた。
「光刃・二閃」
龍人の言葉に応じて、両手の掌の延長線上に、2メートル程の光の剣が現れた。
「な、貴様ッ!」
チンピラ'sが慌てた声を出すが、既に遅い。
龍人は一足で懐に潜り込むと、交差していた双剣を、体を開くように薙いだ。
ズバンッ!
「………ッ!」
チンピラたちは声をあげることも出来ず、10メートル程ぶっ飛んでいった。
「おー、派手に飛ぶねぇ」
と言ってる間に、ギリギリで光の剣を避けた奴が俺に襲いかかってきた。
逃げりゃいいのに。
俺はガンホルダーから流れるように銃を取り出し、チンピラに向ける。
「銃弾装填。超電磁砲発射ぁ」
ニッコリと笑いながら、もちろん威力を落として、レールガンを発射する。
ガゥン!
放たれた光の槍はチンピラの腹部を捉え、空高く飛んでいった。
たーまやー。………汚ェ花火だ。
「つーかさぁ。お前わざと1人見逃したろ」
「あぁ、分かるのか?」
「なんとなくな」
「まぁ実力を見るという話だったしな。その件に関しては、今は先ほどのでいいことにしよう」
「あっそ。そりゃ良かった………つかお前の名前は?」
「そういえば自己紹介がまだだったか。私はレイネスティア。レイネスティア・ドラゴニスだ」
「俺はユーリ・ツキシロ。一応共闘した仲だ。よろしくな、レイ」
「レイ?」
「愛称だけど……気に入らん?」
「………いや、よろしく、ユーリ」
さて、なんだかんだで終わっちまったし、飯でも行くか。
と、そこでなぜか周囲から大歓声があがった。
『わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』
「うおっ! なんぞ!?」
言ったそばから周囲にいた人々が歓声を浴びせながら迫ってくる!
正直すげぇ怖い!!
「なんなんだあんたら!」
「あの盗賊団『黒牙』のアタマを軽く倒しちまうなんて!」
黒牙ワロタw
つか厨二病乙www
………すまん、取り乱した。
「とりま逃げるか」
「………そうだね」
既に疲れ始めているレイを連れて走り出す俺。
最近逃げてばっかだな。
この後平和が戻った町は、ユーリとレイが『光の双騎士』として語り継がれる伝説の、始まりの町として世に伝わることになるのだが………もちろん未だ誰も知ることはない。