第13話:超電磁砲
次の日、俺は早朝から起き出して、ノアと作戦会議をすることにした。
アンネと騎士にも事情を説明しようとアンネの部屋に行くと、運のいいことにアンネの部屋の前を警備しているのは騎士隊長のスィードだった。
「おはよ、スィード」
「あ、ユーリ殿。おはようございます。どうかなさいましたか?」
昨日と比べ少し柔らかくなったが、もっと砕けた方がいいんだけどなぁ………。
いや、まぁ今は置いとこう。
「出発っていつくらいになる?」
「えっと、そうですね………、アンネルベル様の御用意が済みましたらすぐ出発するつもりです」
「そうか。んー、済まないんだけど、昼頃にしてもらってもいい?」
「ええ、それは構いませんが………何か用事でも?」
どうしよう。どこまで言えばいいの?
「昨晩窓から不法侵入した龍人に決闘申し込まれた」
面倒くさいので全部言ってみた。
「…………」
スィードがポカンとしている。まぁこの世界の人にとっては有り得ないことなんだろうね。たぶんだけど。
「ということで、出発は昼頃まで待っててくれなー」
そう言って、俺は朝焼けの町に出て行った。
ちなみにスィード。俺が出て行ってから五分くらいで我に返ったらしい。
◆◇◆◇◆◇◆
町外れの空き地。
俺は龍人に会う前に、自分の能力を整理しようと、この空き地にやって来た。
「うし。んじゃ行くぜ、ノア」
「うむ」
俺の能力は“概念”と“解析”。そして“創造”。
とりあえず俺は、電気的なものを想像し、前方に打ち出した。
自分の体の流れから一部が手に集まり、そこから放たれる感覚。少しやみつきになりそうだ。
ダンッ!!
そんな音とともに、前方50メートルくらいの距離にある木に命中。木は焼け焦げ、その余波で周りの木が二本ほど燃え上がった。
「ふむ。威力は問題ないが、変換効率が悪いのぅ」
「つまり魔力から電気への変換か?」
「うむ。やはり想像だけではなかなか難しいか………」
だよなぁ。さすがに想像だけでは限度がある。威力も安定しないだろう。なんとかならんものか………。
「そうじゃ! 名前を付けてみてはどうじゃ?」
ポンっと手を打ち、ノアがそんな事を閃いた。
ふむ、名前か。確かに想像を固定させるためには、最も有効かもしれない。
「名前か、………よし。ならばレールガンだよなやっぱり」
超電磁砲。
確か金属を電気によって超高速でぶっ飛ばすアレ。
「えーっと、金属ってあったっけ」
「創造魔術で創れるじゃろ?」
………なんて便利なんだ創造魔術。
俺はとりあえず百円玉を創り出した。
「んじゃいきまーす。………レールガン!」
ドガァンッ!!
先ほどよりも大きい音を立てて、光の槍は木に当たり、そこから更に50メートルほど突き進んで消えた。
アレー? これって50メートルくらい進めば金属自体が溶けて消えるんじゃなかったっけ?
「ほぅ……。先ほどよりかなり威力は上がっても、消費魔力はほぼ変わらず。変換効率はほぼ完璧、か。素晴らしいの」
「あのさ。レールガンって金属自体が燃え尽きて終わるはずだったんだけど」
「ユーリは何を想像したのじゃ?」
「そりゃレールガンだけど」
「ならば、先ほどのはユーリの知っているレールガンとは、少し違うやもしれぬ」
「は?」
ええっと………どういうことだ?
「つまりユーリは“レールガン”自体を放ったのじゃ。確かレールガンとは、金属を電気で飛ばすものじゃろう。ならば、ユーリは電気のみを放ち、その力で金属を飛ばせば本来のレールガンが放たれたわけじゃな」
つまり俺は“レールガン”という概念自体を放ったわけ?
ということは、ぶっちゃけ金属いらんやん。
俺はとりあえず、軽い投球フォームをとって、投げるようにレールガンを放ってみた。
ドッゴゥンッ!!
再び轟音をたてて、先ほどの二倍くらい飛んでいった。
「あー、なるほどね。これはチートなのでは………」
「ある意味チートじゃけどな」
と、ここで俺は気が付いた。もしかして、これはやたら凄いことが出来るかもしれない!
「ノア、銃になってもらってもいいか?」
「ん? 良いぞ?」
瞬間、ノアの姿は消え、俺の手に漆黒の銃が現れた。
ニヤリと笑い、“レールガンの銃弾”という概念を銃に込める。
銃自体のノアもそれが分かるらしく、ほぉ、という呟きが漏れた。
「んじゃ行くぜぃ。………レールガン!」
適当に狙いを定め、トリガーを引く。
ガゥン!!
銃身が光り、レールガンが発射された。
やっべぇ!! すーげぇカッコイイ!!!
「何これ楽しい……ッ!」
ガゥン!ガゥン!ガゥン!
立て続けにレールガンを発射する。一応地形に配慮して、空に放つ。
幾重にも空に向かう光の槍は、とても美しかった。
「なぁノア………」
「なんじゃ?」
「異世界って……楽しいな!!」
「へっ? あ、ああ。そうじゃな……?」
ノアは戸惑っていたが、俺はテンションがヤバいくらいに上がっていた。
最高にハイってやつだ。
「じゃあ次は幻想殺しか?」
異能の力ならば容赦なく全て無力化すると言われる能力。
これが出来たら怖いもんなしなんだが。
「いや、それは無理じゃ」
ですよねー。
「結局は“魔法”なのじゃから、それを打ち消すような魔術は存在せんよ」
あ、そうか。魔術無効化を魔術で出そうとしてたのか。そりゃ矛盾してるな。
「なるほど、分かった。今はこれ以上他の技を思い出せないから、レールガンだけでいいや。龍人のトコ行こうぜ」
「ああ、そうじゃな。まぁ上手くやれば負けることはないじゃろ。というかわらわの主なのじゃから、負けることまかり通らんぞ」
………重いっつの。
まぁ負けるつもりもありませんがね。
ノアは猫形態に戻り、俺の肩に乗る。その頭を軽く撫でると、俺は町へ歩き出した。
とりあえず龍人とやりあったら飯を食いに行こう。
そんなことをつらつら考えている俺の目の前に、予想外の人物が現れた。
「ユーリさん! 行かないで下さい!」
俺の目の前に両手を広げ立ちふさがるは、後ろにスィードを伴った、アンネルベルその人だった。