第12話:龍人
「おいユーリ。おい」
ゆさゆさと布団を揺すられる。誰だよ。まだ夜中だろ?
「なんだよ………」
「ユーリ。窓の外に何かいるぞ」
「んぁ?」
俺に話しかけているのはノアだった。俺が寝る前に渡したパジャマを着ている。
「ふぁ………。んん、で、なんだって?」
「何か外にいるのじゃ。おそらく人じゃが、なにやら様子がおかしい」
いいじゃん人がいたって。それくらい好きにさせてやれよ。
と、ここまで考えて、やっと頭が少し回ってきた。
「様子がおかしい? どういう風に?」
「なんと言ったらよいか………、簡単にいえば忍び込もうとしているように見えた」
「あらら。そりゃまた一大事ですな」
ふむ。忍び込む、か。
そう言えばこんな深夜に人が起きて窓の外で何かしてるって、そりゃ怪しいよ。
ちなみにここは二階で、アンネは少し離れた部屋に寝ている。
「………ん? もしかしてアンネ狙い?」
確かにここまで騎士に見守られながら来たし、騎士が何人も護衛してるって、どうみても重要人物が馬車に乗ってるとしか思えないだろう。
そこを狙い、例えば誘拐などすれば身代金がたんまりと貰えるのではないかと踏んだのではないだろうか。
………もしくは、あまり考えたくはないが、王女と分かっていて暗殺をしに来たか。
まぁいい。どちらにせよ、放ってはおけないだろう。
「とりあえず、スィード達に知らせるか」
「うむ。それが良いじゃろう」
ちなみにではあるが、スィード達には、ノアが神様だとは知らせていない。最初アンネが勘違いしたように、精霊を憑かせた猫であると説明している。
「はぁ、なんでこう面倒ごとが連鎖するかねぇ………」
「う………、すまぬ………」
あれ? なんでノアが謝るんだ?
少しきょとんとしてしまったが、そもそも異世界に連れて来たのはノアだったし、それで責任を感じているのだろうか。
………まったく、気にしなくてもいいのに。
「ノア。俺は今、自分の意思でここにいるんだ。ノアが責任を感じるところじゃない」
「じゃが……!」
「はいはい、思いつめないの。もっと気楽に行こう」
そう言って、ノアの頭を撫でる。
「それに、今はそれどころじゃないしな」
「………うむ、そうじゃな。すまぬな、不安定で」
「いいんだよ。それくらい面倒見させろ」
さて、と俺はベッドからそろりと起きだし、ドアへ向かった。
さてさて、どうしようかな。そう思っていると、ドアと反対側にある窓が、ガタリと音をたてた。
なんだろう、と思って何気なしに見ると、………そこには黒づくめのマントで体全体を覆い隠した、人影が。
「………」
「………」
無音の中、両者とも固まり、見つめあう。
「えっと、………どちらさま?」
テンパって、そんなことをのたまった俺の口は、どうやら俺の意思とは無関係に動き出したらしい。
「貴殿は私を覚えているかな」
「え? いやマジでどなた?」
ふむ、と少し考える仕草を見せる。
「ではこれでどうかな」
黒マントが、その顔を現した。
長身痩躯で、エメラルド色の髪の毛。釣り目気味の目は強い意思を感じさせる。
なんだろう。どこかで見たことあるような………。
「………あのぅ、とっても嫌な予感しかしないのですが」
「ふむ、そうか? 私は今とても楽しいが」
ドSかよてめぇ。
「たぶん、だけど、アレだよな。今日会ったばっかの龍人」
「そうだ。よく覚えていたな」
あんなに衝撃的なこと、忘れられる方がすげぇよ。さっきまでは逆に現実逃避しすぎて忘れてたが。
「………それで、何用だ。またアンネを攫いに来たか」
「いや、もう私にその気はない」
俺の疑問に、龍人は意外な答えを出した。
「じゃあ何しに来たんだよ」
「貴殿の目的。そして、貴殿の実力を知るため、かな」
「なんだと?」
俺の目的?
実力?
そんなもの知ってどうするんだよ。意味わかんねぇ。
「ところで、よく俺がここにいるって分かったな」
「あれだけ目立てば探そうとしなくても耳に入るさ」
………やっぱ、馬車とか騎士とか目立つよなぁ。明日あたり、スィードに相談してみよう。
「………しかしあれだな。龍人を見ても恐れぬとは。われらの仲間以外では初めてかもしれないな」
「………ああ、そう」
俺が龍人の恐ろしさを真に理解してないだけだろうが、な。
「ちなみに、貴殿の目的、実力を言わなければ、王女を全力で始末するので、あしからず」
「脅迫じゃんそれ!?」
なかなかに龍人というものは、あくどい手を使ってくるのだと、俺は学んだ。
「あー、まぁそれくらいならいいけど………。いいよな?」
そう言って、ノアに話しかける。
「………まぁ魔族云々は龍人にとっても面白くない話じゃろうし、良いのではないか? ああ、ちなみにではあるが、龍人の魔力値は、昼に説明した数字で言うところの、5000くらいが平均じゃ」
「5000か………。確か人間の王族が10000くらいだから、そうでもないのk………平均?」
「うむ、平均じゃ」
「その辺に住んでる人も合わせて、だよな?」
「もちろんじゃ」
待てよ。それってかなりヤバいのでは?
「………さっきから貴殿は誰と話しているんだ?」
「は? あー」
そうだった。人間形態のノアは見えないんだった。これじゃあまた変人扱いじゃん。
「まぁキニスンナ。それも含めて俺の実力ってことで」
軽く鬱になりつつも適当に誤魔化す。とりあえず疑問は抑えてくれたが、それで疑問が解消されたと思うのは流石に温いか。
いつかまた訊かれた時のために対策練っておかないとなー。
「では明日、町の広場にて待つ。時刻は朝。太陽が真上に来た時点で貴殿が来なければ、その時点で私は王女と騎士どもを殲滅するために動き出す」
「え? ちょって待って、広場で何すんの?」
「実力を見るためには、実戦が一番だろう」
「いやいやいや、やらないから」
「では今から王女を始末しに………」
「待てぃ」
はぁぁぁ~……、と俺は長い溜め息を吐く。
「わぁーったよ。行けばいいんだろ行けば」
「ああ。目的も、その時訊かせてもらおう」
ではな、と言って彼は窓から降りて行った。一応ここ二階なのだが、大丈夫なんだろうか。
「なぁノア」
「なんじゃ」
「今回来たのって、アイツ一人だったのか?」
猫は気配に敏感だというし、神であるノアなら分かるかも知れないと思ったのだ。そしてそれは当たっていた。
「うむ。おそらくじゃが、奴は一人だったぞ」
「それはおかしいな」
あの時、他にも龍人はいたはずだ。なのに、一人で来た。しかもこんな夜中に、人の目を嫌うかのように。
「もしかしたら、仲間には内緒で来たのかもしれないな」
「………そうなのか?」
「ああ」
だとすれば、もしかしたら対応次第で、味方にはならずとも、敵にはならないかもしれない。
「何はともあれ、明日だな」
「うむ。わらわも眠い」
ごそごそと先に布団に入るノア。
なんか無性に寂しくなったのだが、なぜかは分からない。
まぁいいや、と思い、自分も布団に入る。するとなぜかノアは猫形態になっていた。
「んじゃ、おやすみノア」
「うむ……、おやすみ、ユーリ………」
もう寝たのか。
俺は微妙に冴えてしまった目をつむりながら明日のことを少し考えていたのだが、深夜ということもあって、すぐに寝てしまった。
明日、死なないといいけど………。
pv10000突破&ユニーク1000突破ありがとうございます。
こんにちは。芍薬牡丹です。
ちなみに13話は90%くらい出来てるので、明日は投稿できるはずです。というかなんで毎日投稿してんだろ。
そんなこんなでまったりと投稿しますので、よろしくお願いします。




