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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

身から出た錆〜ハナは咲いて落ちる〜

作者: 八神シュウ

久しぶりの投稿になります。ゆるっと(?)ファンタジー世界です。

 ミンディ・グリーン侯爵令嬢は、メルローズ・ガーランド侯爵令嬢を信奉している。


 幼い頃、王宮に第一王子ダミアンの婚約者候補として、年の近い高位貴族の令嬢たちが集められた。


 当時、ミンディの右のこめかみには、青いアザがあった。そのせいで、引っ込み思案だったミンディは、令嬢たちの輪に入れず、会場の隅で一人で俯いていた。早く帰りたいと泣きそうになっていると、鮮やかな赤がミンディの目に飛び込んできた。


「ねぇ。あっちのテーブルで、一緒にお茶を飲まない?私は、メルローズ・ガーランドよ」


 波打つ艶やかな赤毛に、星のように輝く金色の瞳を持つメルローズが、笑顔でミンディに手を差し出していた。輝くような美しさに、メルローズは明星の妖精だと、ミンディは一瞬息を呑んだ。


「私のこと、気持ち悪くない?」


 思わずミンディはメルローズに訊ねる。メルローズはパチパチと目を瞬かせた後、小首を傾げた。


「どこが気持ち悪いの?」


 メルローズが心底分からないと言った顔で訊ねると、ミンディは驚いて目を丸くする。


「このアザが気持ち悪くないの?」


 勢いよく、ミンディは自分の顔を指差しながらメルローズに訊いた。


 メルローズが声をかけるより前に、何人かミンディに声をかけてくれた令嬢はいた。しかし、ミンディの顔のアザを見て、皆、言葉を濁して去ってしまったからだ。


 ミンディの勢いに、メルローズは目を再びパチパチ瞬かせると、ニッコリと笑った。


「全然!」


 あっけらかんと答えるメルローズに、ミンディは泣きそうになる。家族と屋敷の使用人以外で、こんな対応をしてくれたのはメルローズが初めてだった。ミンディはメルローズの手を取った。メルローズは笑いながら、ミンディの手を引っ張って、テーブルに向かって走り出す。


 その日から、ミンディは明星の妖精メルローズの信奉者となった。





「私、婚約の解消を受け入れようと思うの」


 十七歳になったメルローズは、左隣に座る親友のミンディを真っ直ぐに見つめて告げる。ミンディの右のこめかみのアザは薄くなり、今は殆ど分からない。ミンディは、翡翠色の瞳を丸くしてメルローズを見つめた。





 メルローズは第一王子ダミアンの婚約者となった。癖のない濡羽色の髪に、鮮やかなエメラルド色の瞳を持つダミアンの隣にメルローズが並ぶと、一級品の絵画のような美しさとなり、感嘆の溜め息が必ず聞こえてくる。二人の仲は睦まじく、未来の王と王妃に相応しいと誰しもが考えていた。


 フォーサイス王国では、十五から十九歳まで王侯貴族の子息子女は学園に通うことが義務付けられている。


 メルローズとダミアン、ミンディは王都にある王立カンパニュラ学園に入学した。第二学年に上がると、癒し手を持つ平民の少女が編入してきた。


 フォーサイス王国では、怪我や病は『癒し手』と呼ばれる、神からの祝福を与えられた人々が治療に当たる。勿論、万能な力ではないが、国民は癒し手を尊んでいた。


 癒し手を持つ少女の名はアルマ。


 アルマはホワイトブロンドに、淡いすみれ色の瞳を持つ、可憐な印象を受ける少女だ。貴族としての最低限のマナーは、後見人となったチャーチル伯爵が教育したようで、どうにか及第点に達していた。


 メルローズやダミアンとその側近たちは、アルマが周囲に馴染めるように、周りに働きかけた。その甲斐あってか、アルマは元平民と虐げられたり見くびられたりすることは無かった。月の穏やかな光のように、人々に寄り添うアルマ。その容姿も相まって、いつの間にかアルマは『聖女』と呼ばれ、生徒たちの支持を集めていた。


 しかし思わぬ事態が起こる。 


 第三学年の夏である今、ダミアンとアルマが想い合っているという噂が流れ始めた。 


 噂を耳にしたミンディは驚き、メルローズの気分転換になればと、グリーン侯爵家のタウンハウスの一角にある温室で二人きりのお茶会を開いたのだった。





「メルローズ!本気なの?!」 


 思わずミンディが大きな声を出しながら立ち上がると、カチャンとテーブルの上のカップが音を立てる。そんなミンディに、メルローズは肩を竦めて困ったように笑う。


「えぇ。本気よ」


 メルローズそう答えると、視線をカップに落とした。今にも泣き出しそうなメルローズを見て、ミンディはグッと唇を噛んで腰を下ろす。


 メルローズは、ダミアンと婚約を結ぶ前から、彼のことを好いていることを、ミンディだけに打ち明けていた。頬を赤く染めて、潤んだ瞳でダミアンのことを話すメルローズに、恋とは素敵なものなんだわと、恋心を抱いたことのない幼いミンディは思った。


 だからこそ、アルマが許せない。


 ミンディが膝の上で、ギュッと手を強く握り締め、アルマをどう料理してやろうかと考えていると、メルローズは静かな声で話し始めた。


「ミンディ。レイナ殿下のお付きのソフィア様をご存知?」


 レイナはキノロン帝国の第二王女で、半年前からフォーサイス王国へ留学している。レイナには侍女と女性の護衛とは別にソフィアという女性が側に付いていた。レイナの侍医と聞いている。


「えぇ。確か、レイナ殿下の侍医だと……」


 ミンディがそう答えると、メルローズは頷く。メルローズとミンディ、レイナの三人でお茶を飲む機会があり、レイナからキノロン帝国では、怪我や病は癒し手と医者と呼ばれる人々が治療に当たっていると教わった。癒し手は、精神病、性病、先天異常、栄養失調などを癒やすことが出来ない。そういった分野を医者が担っているそうだ。現にレイナは生まれ持っての病があり、医者であるソフィアが毎日投薬を行っていると聞いた。


「そうよ。私、レイナ殿下のお話を聞いてから、医学に興味を持ったの」


 メルローズは顔を上げて笑った。その笑顔は、ダミアンのことを話していたときと同じ。頬を赤く染め、潤んだ目で声を弾ませていた。


「ソフィアさんは、医学書を何冊か貸してくださったの」


 興奮した様子のメルローズは、紅茶を一口飲む。よっぽど医学に興味があるのねと、ミンディは微笑みながら、メルローズを見つめた。


「その中に……性病の章があって……」


 段々とメルローズの声が小さく、歯切れ悪いものになっていく。


「……ダミアン様と、同じ症状があったの……」


 メルローズの言葉に、ミンディは目を大きく見開く。メルローズは小さな声で話を続ける。


「春に魔物の討伐に行かれたでしょう?その一ヶ月後に、ダミアン様の唇にできものがあったの」


 俯いて、青い顔をしてメルローズは二の腕を擦った。ダミアンが魔物討伐から無事に帰ってくるように、メルローズは毎日、神殿に祈りを捧げに行っていたことを、ミンディは知っている。ダミアンの無事を祈る、メルローズは女神のように美しかった。そんなことを思い出しつつ、ミンディはゴクリと渇いた喉に唾を流し込む。ダミアンのことを好いているからこそ、彼の小さな変化にもメルローズは気づいたんだわと、ミンディが考えているとメルローズが言葉を発した。


「お疲れが出たのかしらと思ったわ。その三ヶ月後……一週間前のことなのだけれど……」


 ドクドクとミンディの心臓は早鐘を打つ。メルローズは、意を決したように顔を上げた。


「暑いのに、ダミアン様が薄手の長袖シャツと手袋を身につけていたの。どうしたのかしらと思って訊ねたら、手袋を取ってくださったわ。小さな花の蕾のような発疹が広がっていたの」


 温室内は寒くないはずなのに、小さく震えるメルローズ。ミンディの頭の中に、心臓の音が大きく響いていた。


「側近たちと狩りに行ったから、その時にかぶれたみたいだって、ダミアン様は笑ったわ。でも、私、その発疹は医学書で見た症状と同じで……そこに、その湿疹はかゆみは無いって書いてあったから……」


 顔色をさらに悪くして、メルローズは二の腕を擦る。ミンディは、ただその姿を見つめることしか出来なかった。


「訊いたの、ダミアン様に。痒みはありますかって……凄く広範囲に、発疹あるんだもの……」


 か細く震える声で、メルローズは言った。


「ダミアン様は、不思議と痒くないんだよって……おっしゃったわ」


 幽霊でも見たような顔で、メルローズはミンディを見た。ミンディは言葉を失う。痒みのない、広範囲の発疹など聞いたことがなかった。


「私、信じられなくて……ソフィア様に医学書を返す約束を取り付けて、昨日会いに行ったの」


 青い顔のメルローズは、震える声で話し続ける。


「領民に、この医学書に載っている性病と同じ症状の者がいるけど、この性病に罹っている可能性があるのかって」


 少し興奮した様子で早口で話すメルローズを、ミンディは息を呑んで見つめた。


「痒みのない、小さな花のような発疹が広範囲に見られるのは、この病の特徴だから間違いって……」


 ポロリとメルローズの目から涙が溢れる。そのまま顔を両手で覆って、メルローズは泣きながら話し続けた。


「この性病は……柘榴瘡というんだけど……進行すると、皮膚や骨や筋肉に……ゴムのような、こぶが出来るの……」


 小さくしゃくりあげながら、メルローズはダミアンの身を蝕んでいるであろう病の説明する。ミンディはメルローズの肩を優しく抱き寄せて、ハンカチを差し出した。


「メルローズ」


 ミンディが優しく声を掛けると、メルローズは顔を上げる。ミンディはメルローズの涙を、ハンカチで優しく吸い取った。


「ありがとう、ミンディ。……そのこぶは、特に鼻の周辺に出来やすくて……」


 少し落ちつきを取り戻したメルローズは、ミンディを見つめる。涙に濡れた美しい金色の瞳を、ミンディは真っ直ぐ見つめ返した。メルローズは小さく頷いて、視線を落とす。


「最終的に……こぶと一緒に鼻は落ちてしまうんですって……」


 ギュッとメルローズは自分の身を抱きしめた。そんなメルローズの鼻に、ミンディの視線は吸い寄せられる。高くて、ツンとしている形の良いメルローズの鼻が腫れて、落ちるなんて許されないと、ミンディはメルローズを抱き寄せた。


「私、そんな病にかかりたくない……」


 王族の子を産むことも、伴侶となった妃の役割の一つとされている。このままダミアンと一緒になれば、メルローズに彼と身体を重ねないという選択は許されない。性病がメルローズの身を蝕む可能性は高かった。


「うん。私もメルローズにそんな病に罹って欲しくないわ」


 ミンディの言葉に、メルローズは目に涙を溜める。


「ありがとう、ミンディ……」


 ポロポロと真珠のような涙をこぼしながら、メルローズはミンディに抱きつく。ミンディは、メルローズが落ち着くまで、優しくその背を撫で続けた。





「ごめんね、ミンディ。取り乱してしまって」


 落ち着いたメルローズは小さく鼻をすすった。そんな姿さえ、ミンディの目には美しい絵画のように見える。ミンディは左右に首を振った。ハーフアップにしている、ミンディの蜂蜜色の髪がサラサラと鳴る。


「メルローズ。私たち、親友でしょう?」


 フフッとミンディが笑うと、つられてメルローズも笑った。花がほころぶとは正にこのことよと、ミンディはメルローズを見つめる。メルローズには、涙ではなく笑顔が一番似合うのよと、ミンディは思った。


「ありがとう、ミンディ。その……」


 メルローズは一瞬、視線を落としたが、直ぐにミンディと視線を合わせた。


「私、見たの。一昨日のことよ。……ダミアン様とアルマ様が……人気の無い、北の庭園のフォリーで談笑しているところを……」


 メルローズは苦しげに笑う。その姿は、今にも消えてしまいそうな、儚げで美しいものだった。


「ダミアン様は、見たこともないような……熱を帯びた目でアルマ様を見ていたわ。アルマ様も、同じ目をしていたの……」


 グッと何かを堪えるように俯いたメルローズは、膝の上で拳を握る。想い合っている二人を目の当たりにしたメルローズの悲しみを、ミンディは正確に理解することはできないけどと考えながら、メルローズの手を優しく包んだ。


「そして、二人は口付けたわ。……性病とは言ったけど、柘榴瘡は口付けだけでも感染する可能性が高いんですって」


 眉間に皺を寄せて、メルローズは目を閉じた。苦しそうな、悲しそうなその表情にミンディの胸は締め付けられる。ミンディは、メルローズの手を包む、自分の手に少し力を込めた。


「……アルマ様からなのか……討伐の際に同行した、キャンプ・フォロワーの女性からうつされたのか分からないけど……」


 メルローズはゆっくりと目を開けて、揺れる紅茶の水面を見つめる。


「……今のダミアン様には不快感と不信感しか抱けない。……あんなに、大好きだったのに……」


 紅茶の水面に映る自分の姿を見つめながら、メルローズはぽつりと呟いた。決定的な浮気現場と、更にそれを証明するような病を罹っているであろうダミアン。百年の恋も冷めるのは当然だとミンディは思った。すうとメルローズは気持ちを落ち着けるように大きく息を吸い込んで吐き出すと、視線をミンディに移す。


「私ね、婚約を解消して、キノロン帝国で医学を勉強しようと思うの」


 そう言ったメルローズの金色の瞳は、キラキラと輝いていた。ミンディは、吸い込まれそうな錯覚に陥りながら、メルローズを見つめる。


「レイナ殿下から、双子の弟である第二王子のラシャド殿下の婚約者にならないかって、ご提案があったの」


「そうだったの」


 最近、メルローズはレイナに呼ばれることが多かったので、何事だろうと心配していたミンディは、悪い話ではなかったのかと、ホッと胸を撫で下ろした。


「ラシャド殿下は、幼い頃に罹った病の後遺症で、左手の親指に麻痺があるそうなの。でも、日常生活に大きな支障はないと伺っているわ」


 何故、私たちと同い年のラシャド殿下に、婚約者がいないのかというミンディの疑問を見透かすように、メルローズは話した。


「レイナ殿下のご提案を、両親にも相談したわ。今、我が国に未婚の女性王族はいないから、キノロン帝国との縁を強固にするいい機会だって、賛成してくれたの」


 フォーサイス王国は、ダミアンを含め未婚の王子が三人いる。他国から王女を迎える予定は現在なく、今回、レイナが留学してきたので、ダミアンの三つ下の第二王子ブライアンとの婚約が期待されていたが、上手くいかなかったのだろうとミンディは考える。


「ダミアン様のことは、アルマ様と想い合っているようだから、身を引くって。……酷いわよね、私」


 フフッとメルローズは自虐的に笑った。


「両親に……ダミアン様の病のこと、話さなかったの」


 瞳を潤ませ、苦しげな声で罪を告白したメルローズに、ミンディは直ぐに言葉を発する。


「それでいいと思うわ」


「え……?」


 驚いて固まるメルローズに、ミンディはにっこりと微笑んだ。


「ダミアン殿下とアルマ様の不貞は、メルローズがその目で見たのだから、私は事実だと信じる」


 ミンディは、メルローズの潤んだ金色の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「でも、ダミアン殿下の病のほうは……私は、メルローズの言い分を信じるけど、周りは多分、違うと思うの」


 ふうとミンディは一息ついて、話を続けた。


「医者という職業が、フォーサイス国では認められていないし、ダミアン殿下は王族、アルマ様は癒し手。不敬罪に問われてしまうわ」


 ミンディの発言に、メルローズは何か言いたげに口を動かしたが、キュッと口を一文字に結んだ。


 ダミアンとアルマとの仲をやっかんで、メルローズがダミアンが性病に罹っていると言っているのだと、周囲は考える可能性は高い。それ程、ダミアンは清廉潔白なイメージが強いのだ。そして、もし本当にダミアンが性病に罹っているとしたら、その原因はアルマだと皆、考えるだろう。王族と癒し手への侮辱。不敬罪は免れない。


 ダミアンの病を、癒し手が治せないから性病だと決めつけることは危ういし、性病だと証明する為に、ソフィアが診察をする機会を与えられたとしても、彼女はキノロン帝国の侍医。医者という存在がいないフォーサイス王国で、本当に正しい診断か疑問に持つ者は少なくないだろう。キノロン帝国が、フォーサイス王国を混乱させる為に虚偽の診断をしたと反発し、国家間の問題に発展してしまう可能性もある。


「メルローズ。折角のチャンスを、不敬罪で棒に振ることはないわよ。ね?」


 ミンディにそう言われたメルローズは、視線を下に落とし、ややあってコクリと頷いた。ミンディはメルローズを説得出来たことに、心の中で安堵する。


「私、ダミアン様に……教えなくても……いいのよね?」


 メルローズの漏らした心の声に、ミンディは大きく頷いた。


「えぇ。メルローズの思い過ごしかもしれないし……辛いなら、私がその罪を半分背うわ」


 罪悪感に押しつぶされそうなメルローズの瞳を、ミンディは真正面から見つめる。明星のような、光り輝く金色の瞳。星は輝きを失ってはいけないと、ミンディは微笑んだ。


「ありがとう、ミンディ。本当に、ありがとう……」


 小さな声でミンディに感謝を述べつつ、メルローズは顔を覆って啜り泣いた。





 笑顔で手を振るメルローズが乗った馬車を見送り、ミンディが屋敷の中に入ると、四つ上の兄ヒュバートが立っていた。ミンディと同じ蜂蜜色の髪に、翡翠色の瞳を持つヒュバートは口を開く。


「ミンディ。愛しの明星の妖精さんは帰られたのかな?」


 優しい声でヒュバートに訊ねられ、ミンディは満面の笑みを浮かべてコクリと頷いた。


「えぇ。メルローズはアレとは婚約を解消するそうですわ」


 晴れ晴れと笑ってそう言ったミンディに、ヒュバートも同じような笑顔を浮かべる。


「あぁ、それは幸いだ。アレには高潔なメルローズ嬢は似合わない。犬に聖物を与えるようなものだ」


 ヒュバートが肩を竦めると、ミンディは口元を手で隠してクスクスと笑った。


「ふふ。犬のほうが聖物を大切にすると思いますわよ」


 二人は笑い合いながら、居間に向かって歩いて行く。途中で出会ったメイドに、ヒュバートは居間に茶を持ってくるように伝えた。メイドは一礼すると、調理場へ向かって歩いていく。


 二人は居間に着くと、テーブルを挟んで対面に座った。ヒュバートが口を開く。


「アルマ嬢が婚約者に内定したら、レディ・コンパニオンとしてオードリナ嬢が選ばれるそうだ」


 ヒュバートは、第二王子ブライアンに剣術を教えている。王宮でその話を耳にしたのだろう。ヒュバートの言葉に、ミンディは片眉を上げた。いつもメルローズに突っかかってくるオードリナ・リンチ侯爵令嬢。メルローズよりも自分のほうがダミアンに相応しいと、オードリナが取り巻きの令嬢たちに言い放っていた下品な姿を、ミンディは思い出す。


「メルローズに全く相手にされなかったあの子が?」


 清らかなメルローズに、オードリナのマウントは全く響くことはなかった。メルローズは、突っかかってくるオードリナに対して、情緒が不安定で心配だと、ミンディに相談してきたことを思い出す。


「あぁ、金髪が好きだからね。アレは」


 ハハッとヒュバートは肩をすくめて笑った。ミンディは成る程と苦々しい顔になる。


 ダミアンは、メルローズの見ていない所で、ミンディの肩に手を回してきたり、腰に触れてきたりすることが多々あった。婚約者候補として集められた際、ダミアンはミンディの右こめかみの青アザを見て、顔を顰めたので、ミンディは彼のことを好きではない。度を越したダミアンの馴れ馴れしさに、その横っ面を引っ叩いてやろうかと何度も思ったが、メルローズのためにグッと堪えた。


 何故、婚約者の親友に手を出そうとするのか、ミンディにはさっぱり分からなかった。ミンディがメルローズの信奉者で彼女を傷付けないように、黙っているはずとダミアンが高を括っているからかと思っていたが、好みのタイプが金髪というのもあったのかと、ミンディの中でダミアンへの嫌悪感が増す。


 ミンディはハニーブロンド、アルマはホワイトブロンド、オードリナはバターブロンドだ。


「一応、メルローズ嬢のことも好いていたよ?美しい星の瞳を持っているからね」


「当然ですわ。あんな美しい明星の瞳は、他に見たことがないもの。あの波打つ艶やかな赤毛も美しい……。それに、大陸のどこを探しても、メルローズより心が清らかで美しい人はいませんわ」


 ミンディがメルローズを褒め称えていると、ドアがノックされる。ヒュバートが入室の許可を出すと、メイドが茶を運んできた。テーブルに茶器と軽食を並べると、メイドは一礼して居間から退室する。


 二人は一口、紅茶を飲む。クセのないさっぱりとした味に、ミンディの気持ちが少し落ち着いた。ヒュバートはサンドイッチを口に運び、咀嚼すると口を開く。


「それで、メルローズ嬢はどうするって?ブライアン殿下と婚約を新たに結ぶのか?」


「キノロン帝国のラシャド殿下と婚約を結ぶそうです」


 ミンディはフフッと笑いながら、ヒュバートに答える。ヒュバートは目を丸くして、ミンディを見つめた。


「おいおい。本当か?!」


 ヒュバートは思わず身を乗り出す。ミンディは涼しい顔で、紅茶を口に運んだ。


「えぇ。ラシャド殿下の婚約者となって、キノロン帝国で医学を学ぶと意気込んでましたわよ」


「ミンディ、本当にそれでいいのか?」


 得意気なミンディに、ヒュバートは訊ねる。ミンディがメルローズの信奉者だということは、家族だけでなく周知の事実だ。


 グリーン侯爵家と、ミンディと婚約を結んでいるヘイワード辺境伯家は王族派であるが、厳密には第二王子派といえる。一族や第二王子派の貴族の中には、第一王子派の筆頭であるガーランド侯爵家の令嬢であるメルローズとミンディが仲良くしていることを良しとしない者もいたので、メルローズがダミアンと婚約を解消し、キノロン帝国へ嫁ぐことは、グリーン侯爵家としても喜ばしいことだった。


 ガーランド侯爵家は第一王子派の筆頭ではなくなくだろうが、娘は婚約を解消したとしてもキノロン帝国の未来の第二王子妃となる為、地位は落ちないだろう。ミンディもキノロン帝国の未来の第二王子妃の親友という肩書を得る為、第二王子派の中からうるさく言ってくる者もいなくなると考えられる。


 しかし、ミンディの婚約者が、ヘイワード辺境伯家の嫡男であるバーナードに決まった際、メルローズと離れたくないと荒れに荒れたことをヒュバートは思い出す。再びミンディが荒れるのではないかと、ヒュバートは内心ヒヤヒヤしていた。


「勿論です。アレとメルローズの縁が続くより、よっぽどマシですわ」


 ブライアンに対して悪い印象はないが、ダミアンとメルローズの縁が続くのはいただけないと、ミンディは思う。それに、メルローズがダミアンとアルマ夫婦を近くで見続けるのも、彼女の心に良くないし、オードリナという面倒くさい女付きだ。周囲もメルローズに対してどう出てくるか。ミンディにとって、メルローズの心の平穏が最優先だ。


「メルローズの心の平穏が一番ですもの。侍女のニナもついて行くから大丈夫でしょう」


 メルローズの侍女ニナは、ミンディと同じメルローズ信奉者で、文通をする仲だ。ダミアンのことで、ミンディと同じくらい腸が煮えくり返っていることは想像に容易い。キノロン帝国に行っても、メルローズの心身の健康を守ってくれるだろうと、ミンディは考える。


「それにヘイワード辺境伯領は、キノロン帝国に隣接してるから、いざとなったら会いに行きますわ」


 ヘイワード辺境伯領は、フォーサイス王国の王都よりも、キノロン帝国の帝都のほうが近い。ヒュバートは苦笑いを浮かべた。


「キノロン帝国が攻めてきたら、真っ先に寝返りそうだな」


「そうですわね。お兄様もぜひ、メルローズのために寝返ってくださいな」


 フフッとミンディは妖艶に笑う。


 バーナードは、婚約が結ばれて三回目のお茶会で、ミンディのことが好きだと、メルローズがダミアンのことを好きだと語った時と同じ目で告白してきた。ミンディはそんなバーナードに、何よりも自分はメルローズを優先するわよと伝えたが、メルローズを大切に思う君が好きだよと、キラキラと榛色の瞳を輝かせバーナードは答えた。そんなバーナードを嫌いになれるはずがなく、ミンディはいつの間にか、メルローズを思う気持ちとは違う好意を彼に抱き始めた。


「バーナード様も大賛成してくださいました」


 メルローズは、笑顔で両手をぽんと合わせる。


「あぁ〜、バーナード……」


 ヒュバートは頭を抱えた。バーナードはミンディにベタ惚れだ。ミンディが国に反旗を翻せと言えば、躊躇いなくバーナードは従うだろうなと、ヒュバートは眉間に皺を寄せる。


「それに、ラシャド殿下は良い方ですわよ」


 ミンディはサラリとそう言って、紅茶を口に運んだ。ヒュバートは片眉を上げて、ミンディを見つめる。


「何故分かるんだ?」


「お兄様は、ジュードとエレナのこと、覚えてらっしゃいますよね?」


 エレナとジュードは、ヒュバートが学園に入学するまで、ヘイワード辺境伯領に遊びに行った際に交流のあった、ミンディと同い年の金髪碧眼の男女の双子だ。バーナードに紹介されたエレナもジュードも、ミンディと同い年とは思えぬ程、貴族としての気品に満ちており、年下ながら品行方正な二人から学ぶことは多くあったことを、ヒュバートは思い出す。二人とも持病があり、療養目的でヘイワード辺境伯領に来ているとバーナードから説明を受けていた。


 ヒュバートが学園に入学してから、エレナとジュードも領地に帰ったと聞いていた。ヒュバートはミンディを見た。


「まさか、あの双子……」


「えぇ。髪色を変えたラシャド殿下とレイナ殿下です」


 ヘイワード辺境伯家は、よっぽどダミアンが嫌いなのかとヒュバートは遠い目をする。いや、王族派といっておきながら、王族が嫌いなのか?とこめかみを押さえているヒュバートに、ミンディは声をかけた。


「安心してお兄様。お二人がヘイワード辺境伯家で療養することは、王家同士でお決めになられていたことですから」


「そうか」


 ミンディの言葉に、ヒュバートはホッと胸を撫で下ろす。


「私がお二人にメルローズの素晴らしさを説いた縁だと、レイナ殿下がおっしゃったの」


 フフフとミンディは口元を手で隠して笑った。


 ヒュバートは、双子にメルローズの素晴らしさを説くミンディの姿を思い出す。その頃にはミンディの顔のアザは薄くなっていたが、偏見を持たないメルローズの高潔さを熱弁していた。若干、二人は引いてきた気もするがと、ヒュバートは顎を撫でる。


「やはり、メルローズの素晴らしさは国をも簡単に越えてしまいますわね!」


 ホホホと高笑いするミンディを、ヒュバートはいつものことだと受け流した。


「まあ。ミンディがいいなら、いいんだ。それに、メルローズ嬢は見た目で人を判断しないのは知っているし。麻痺があるからとジュード……ラシャド殿下を嫌ったりしないだろうしな。……ところで、アレは柘榴瘡にかかっているのか?」 


 ヒュバートの疑問に、ミンディは頷いた。


「ソフィアさんに確認しましたが、可能性はかなり高いと」


 レイナと王宮に滞在している侍医のソフィアは、ダミアンに会う機会も多い。ソフィアの見たてでは、柘榴瘡の可能性はかなり高いとミンディは教えてもらっていた。日常的な接触で感染することはないが、大事を取ってレイナをダミアンに近付かないようにしていることも。


 メルローズに、ダミアンが柘榴瘡にかかっている可能性がある話しを、どう切り出すかミンディは迷っていたが、まさか気付いていたとは流石だわと、ミンディの中でメルローズの株は更に上がっていた。しかし、そんな変化に気づくほど、メルローズはダミアンのことを愛していたのだ。失恋の傷は大きいだろう。キノロン帝国に行くまで、全身全霊でメルローズを癒やすわとミンディは決意する。


「そうか。……ところで、今回の討伐で亡くなったキャンプ・フォロワーの中に、『金髪』の元娼婦がいたらしい」


 ヒュバートがそう言ったので、ミンディはふうんと唇に人差し指を当てた。魔物討伐に同行するキャンプ・フォロワーは、部隊の後方で調理や洗濯を担う非戦闘員。魔物に襲われる可能性はゼロではないが、稀だった。


「その元娼婦が、原因でしょうか?」


 ミンディは小首を傾げる。


「断言は出来ないが、柘榴瘡の症状が出ると、娼館を追い出されることが多いらしいからな」


 ヒュバートは視線をテーブルに落として話した。ミンディは、もしかしたら、その金髪の元娼婦は、ダミアンに口封じのために殺されたのかもしれないと思ったが、胸の内に留める。


「そうなんですね。フフッ」


 ミンディが笑ったので、ヒュバートは怪訝な表情で彼女を見た。


「十年後、裏切り者たちの鼻が落ちるのか……楽しみですわ」


 メルローズを裏切った者たちに罰が下る姿を見届けるのは私の役目よと、ミンディは笑う。優しいメルローズは、裏切り者たちに救いの手を差し伸べようとするだろうけど、彼奴等に慈悲など必要ないわとミンディは紅茶を口に運んだ。そんな妹に、ヒュバートは肩を竦めて、同じく紅茶を口に運んだ。





 メルローズがキノロン帝国に渡って十年が経った。


 その間に、メルローズはラシャドと三年の婚約期間を経て結婚し、一児の母になっていた。朝から落ち着かない様子のメルローズを、ラシャドと息子のイライジャ、侍女のニナが笑顔で見守っている。窓から第二王子宮に馬車が到着するのを見たメルローズは、門に向かって走っていった。


「ミンディ!」


 メルローズは、バーナードにエスコートされて、馬車から下りてきたミンディの名を呼ぶ。ミンディは満面の笑みで顔を上げだ。


「久しぶりね、メルローズ!」


 ミンディはメルローズと抱き合った。一年ぶりの再会。少女の頃に戻ったように、ミンディはメルローズを抱きしめる。バーナードと、息子のウィルフレッドは、そんな二人を笑顔で見守る。メルローズの後ろから、ラシャドとイライジャ、侍女のニナが現れた。


「ようこそ、ヘイワード辺境伯」


「お招きいただきありがとうございます。ラシャド殿下」


 ラシャドが、笑顔で風になびく銀髪を左手で押さえながら右手を差し出すと、バーナードは、胸に手を当てて一礼してから、その手を握り返す。イライジャとウィルフレッドも父親の真似をして挨拶し合っていた。


「さぁ、メルローズ。長旅で疲れているだろうから、皆で中には入ろう」


 ラシャドが優しく声を掛けると、メルローズはパッとメンディから体を離す。


「ごめんなさいね、ミンディ!私ったら嬉しくて……」


 頬を赤く染めるメルローズに、ミンディは左右に首を振った。


「全然!私もメルローズに会えて嬉しいわ!」


 優しくメルローズの両手を包んで、ミンディは明るく笑う。つられるようにメルローズは笑うと、ミンディの手を引いて第二王子宮に向かって歩き出した。談笑しながら二人の後を続く男性陣の後ろにニナが続き、皆が第二王子宮に向かって歩き出した。





 イライジャとウィルフレッドを別室で遊ばせ、大人たちは応接室で茶を飲みながら談笑していた。


「それにしても、ダミアン殿下が流行り病で儚くなられるなんて……」


 落ち込むメルローズの肩を、ラシャドは優しく抱き寄せる。


 風邪に似た症状だが、風邪よりも経過が早く、高熱の出る病がフォーサイス王国の王都周辺で流行していた。


「フォーサイス王国では、多くの民が犠牲になったと聞く。謹んでお悔やみ申し上げる」


 悲痛な表情を浮かべるラシャドに、バーナードとミンディは頭を深く下げる。


「お気遣いいただき、ありがとうございます」


 バーナードが頭を上げてそう言うと、ラシャドは頷いた。


「ミンディ。良かったら、この薬を持って帰って。私が調合した風邪薬なの」


 メルローズはキノロン帝国で医学を学んだが、医者ではなく、薬を調合する薬舗主となっていた。レイナの持病の薬も、ソフィアの指示の元、メルローズが調合している。


 ミンディはメルローズが差し出した瓶に入った薬を、恭しく受け取った。


「ありがとう、メルローズ。大切に使わせてもらうわ」


 ミンディが微笑むと、メルローズは花がほころぶように笑って頷く。


 コンコンと応接室の扉がノックされ、ラシャドが返事をすると、ソフィアが扉を開けて、一歩室内に入ってきた。


「ご歓談中、失礼いたします。メルローズ殿下、薬の調合をお願いできますか?」


 申し訳なさそうに、ソフィアはメルローズに薬の調合を依頼する。メルローズは口角を上げて頷くと、スッと立ち上がった。


「ごめんなさいね、ミンディ。後でいっぱいお話ししましょう」


「えぇ。待ってるわね」


 メルローズにミンディは笑顔で返事をする。ソフィアが扉を開くと、メルローズとその後ろをニナが続いて応接室を出て行った。扉を押さえていたソフィアは、室内に残るミンディたちに意味深に笑って一礼する。そして、ゆっくりと扉を閉めた。


「……アレの鼻が落ちたのは、二年前だったか?」


 少しの沈黙の後、ラシャドはミンディとバーナードに訊ねる。アレとは、ダミアンのことだ。二人はコクリと頷き、バーナードが口を開いた。


「はい。ここ数年は、記憶や判断力が低下し、生活に支障をきたしていたそうです」


 ハハッとラシャドは乾いた笑い声を上げた。そして、クツクツと笑いながら、ラシャドは言葉を発する。


「あぁ、いい気味だな。長年の婚約者だった、メルローズを裏切った罰だ」


 ラシャドの言葉に、バーナードは特に反応をしなかったが、ミンディは深く頷く。


 ダミアンの鼻が落ち、その後、認知症の症状が出始めたとヒュバートから聞いた時に、メルローズを傷付け、みだらな行いの報いだと、ラシャドのようにミンディは笑った。


 ラシャドはひとしきり笑うと、小さく息を吐いて口元に弧を描く。


「アレ以外の者はどうなった?」


 サファイアの瞳をギラギラと輝かせて、ラシャドは二人に問いかけた。


「はい。アルマ殿下は鼻が落ちた後……現在は記憶や判断力が低下し、ほぼ寝たきりに。オードリナ嬢は、顔周りに出来た出来物にショックを受けたようで……回りに攻撃的なため、軟禁されている状況です。リンチ侯爵家は権力を失いました」

 

 アルマの後見人だったチャーチル伯爵は、ダミアンとメルローズの婚約が解消されるという噂を耳にし、その原因が、アルマとダミアンの不貞行為だと分かり、後見人を辞任した。チャーチル伯爵は、敬虔なことで有名だったので、不貞行為が許せなかったのだ。


 新たにアルマの後見人となったのは、オードリナの実家であるリンチ侯爵家だった。リンチ侯爵は、これで強大な権力を手に入れたと我が物顔だったが、今は鳴りを潜めている。


「そうか」


 バーナードの返答にラシャドは満足そうに頷き、首を傾け、こめかみに人差し指を当てて口を開いた。


「王都で流行っている病は……アレが蒔いたものだろう?」


 ダミアンが手を出した者たちを、流行り病で死んだことにすることで、王族のスキャンダルを上手く隠すつもりだなとラシャドは考えていた。バーナードとミンディの無言の肯定に、ラシャドは満足そうに目を細める。


「……ブライアン殿下は信頼に値する器かな?」


「勿論でございます」


 バーナードは即答した。


 ブライアンは、国内の伯爵家の令嬢と結婚し、一児の父となっている。夫婦揃って品行方正で、幼い娘に甘い点を除き、今のところ欠点は見当たらない。


 ミンディも頷いたので、ラシャドはふむと顎を撫でた。


「分かった。兄上には、ブライアン殿下とは親しく付き合って差し支えないと伝えよう」


 ラシャドがそう言ったので、バーナードはホッと胸を撫でおろす。ミンディは、ホッとしたバーナードを見て、笑みを浮かべた。そんな二人を、ラシャドが楽しそうに眺めていると、応接室のドアがノックされた。


「只今戻りました」


 扉が開き、メルローズがニナを伴って応接室に入ってくる。ミンディの表情がパッと明るくなった。


「お帰り、メルローズ」


 笑顔で出迎えたラシャドに、メルローズは微笑む。甘い雰囲気に、バーナードは視線を落とし、ミンディは笑みを深くした。


「そうだ。良かったら、皆で温室に行きませんか?」


 メルローズの提案に、ミンディは頷いた。


「行きたいわ!また珍しい植物を手に入れたのかしら?」


 少女のように笑って、椅子から立ち上がったミンディをエスコートするために、バーナードも立ち上がる。ラシャドも立ち上がって、メルローズの隣に立った。四人とニナは応接室を出て、温室に向かって歩き出す。柔らかな風が、廊下の窓から吹き抜けていった。



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