7−6
現在、17時30分。
日向の消滅予定時刻まで、あと15分と少しだった。
夜の帳が下りた中、九頭町にある大きな公園の園内を、彰と吹雪が歩く。
人気の少ないその場所は、明かりも乏しく、2人の緊張感を増大させた。
しばらく進むと、やや開けた場所に出た。
奥は小さな崖になっており、その下には交通量の多い幹線道路が走っていた。
その場所に、日向はいた。1人だった。
「日向大我さん、ですね?」
「――秋月彰くんか?」
少し距離を置いて、彰は日向と対峙する。
「……やっぱり、きみだったのか。
きみと会うのは、これで3度目だな。
1度目は、笠間町の駐車場。2度目はこの町で、レンゴクアプリに招待された時――」
「実は、4度目です。
最初に会ったのは、先月。
あなたが、宝石店を襲撃した後、女子高生をナイフで刺した時です」
「……きみは、あそこにもいたのか? 見覚えはないが、そうなのか」
日向が、驚いた顔をする。
彰もまた、強盗犯扱いされ否定しない彼を、意外に思った。
(見かけによらず、ずいぶんと穏やかに喋る人だな)
本当に彼が、深雪を刺し、加賀を殺した人物なのか。
何かの間違いではないか、と彰の決心は鈍り始める。
「そっちの女の子も、覚えている。
少し雰囲気は違うが、あの日、俺が刺してしまった子だよな?
あれは、本当に申し訳ないことをした」
と、日向は深々と頭を下げた。
「……いえ。あたしは、双子の妹です」
日向が、勢いよく顔を上げる。
「双子? じゃあ、きみのお姉さんは――」
「死にました」
彰が、抑揚のない声で言った。
「――死んだ? 本当か……?」
日向が、力のない声で言った。
吹雪が、非難めいた視線を彰に送る。
彰は、ため息を1つ吐いて、再び口を開いた。
「死んだというのは、嘘ではありません。
ただ、説明が難しいのですが――
まだ魂は残されていて、最期を迎えずに踏みとどまっている、というような状況です」
「…………どういうことだ?」
「レンゴクアプリを、開いてください。
明神市内に、『森深雪』という子の、表示があるはずです」
日向が、自身のスマホを取り出し、操作する。
「あった。『領域解放予定時刻、明日17時42分』って――」
「彼女の消滅予定時刻は、もうとっくに過ぎているんです。
その領域解放予定時刻までに、消滅予定時刻を迎えた別の人――つまり亡くなった人の器へ、魂を移し替えなければならないんです。
そうすることで、新たに48時間、彼女はこの世に残ったままでいられます」
「48時間? たったそれだけ?」
日向の問いに、彰はうなずく。
「僕はこの1ヶ月、レンゴクアプリの情報を頼りに、死者を探して――
深雪の魂が解放されないよう、ずっと再配置を続けてきたんです」
吹雪が、彰の袖を、力強く掴む。
「あなたのせいだ」
彰が、怒気を込めて日向に言った。
それは、自分にとっても予想外の発言だった。
連続強盗犯を相手に、そうした挑発ともいえる行動をとる危うさを、彰も理解していた。
しかし、深雪を刺した人物をいざ目の前にして、彼は怒りの感情を押さえられずにいた。
日向が、膝から崩れ落ちる。
自分がしたことの大きさに、愕然としている様子だった。
「――そうか。
ひょっとして、加賀さんも彼女の器になったのか?
だからきみは、あえて救急車を呼ばなかったのか?」
「少し、違います。僕が到着した時には、もう手遅れでした。
あの加賀という人、あなたたちのこと、恨んでいましたよ。
『必ず報いを受けさせて』と」
日向が顔を上げ、おそるおそる彰を見る。
「……なるほど。
今日、俺が死ぬのは、きみに殺されるからか?
そうして、今度は俺を、彼女の器にするのか?」
日向が、怯えた表情を彰に向ける。
その視線を、彰はまっすぐに受けて立った。
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