7−4
(これは、どういうことだ?)
移動中の車内で、日向は固まった。
彼は、後部座席で出雲と並んでおり、運転席には長門が座っている。
『日向大我、21歳。現在地、白竜市九頭町一丁目。消滅予定時刻、本日17時48分』
いつの間にか、レンゴクアプリの表示が変化していた。
出雲の情報が消えた代わりに、自身の名前が画面に映し出されている。
(俺が、死ぬ? 出雲の身代わりか?)
日向が、横目に出雲を見る。
初めての強盗で緊張しているのか、口数も少なく、ただ前だけを見つめている。
(未来が、変わったのかもしれない)
「出雲の死」という未来を変えることは、日向も望むところだった。
しかし、それが「自分の死」に書き換わるのは無論、想定外だった。
(俺が死ぬのは、避けられないのか?
そもそも、どうして未来が変わった?
俺が、今回の強盗に参加したから?
だが、それを決めたのは、もう何時間も前の話だ。
なぜ、今になって? 変化の条件は?)
そこでふと、レンゴクアプリの画面に、別の点が表示されていることに日向は気づく。
『秋月彰【フレンド】、15歳。現在地、白竜市九頭町一丁目。消滅予定時刻、不明』
(こいつ!)
彰を示す点は、自分が住むマンション付近に表示されていた。
なぜ、彼がそんな場所にいるのか。そのことと、未来が変化したことに、関連はあるのか。
「長門さん! すみません、一度引き返してもらうことはできますか?」
「何か、忘れ物ですか?」
「あ、いえ。何と言うか……」
長門が、ルームミラー越しに、怪訝そうな視線を向けてくる。
その迫力から、日向は思わず次の句が継げなくなってしまう。
「申し訳ありませんが、重要でないのでしたら、我慢してください。
仕事が仕事ですから、イレギュラーな動きはなるべく避けたいです」
「……そう、ですよね」
出雲が、心配そうに首を傾げる。
日向は、彼に手のひらを向けた。
(ダメか……。彼と接触できる、またとない機会なんだが)
日向が、改めてスマホの画面を見る。
すると、フレンドリストにある彰の欄に、「新着通知」のマークが表示されていることに気づいた。
日向が、そのマークをタッチすると、
『今日、会えませんか?』
そんな文章が、アプリ上に表示された。
(これは、秋月彰からのメッセージか?)
日向は、「返信」のボタンをタッチし、文字を打ち込む。
『きみは誰だ?』
送信後、すぐに返信があった。
『会った時に、話します』
日向が、運転席に目を向けた。
「長門さん、度々すみません。
今日の仕事って、夜遅くまではかからないですよね?
17時前後には戻りたいんですが、お願いできますか?」
「それは……。急げば大丈夫だと思いますが……」
「悠長なことを言っているのは、わかっています。
でも、決してふざけているわけではなく、大事な用なんです」
鏡越しに、日向と長門の視線が、再び交錯する。
冗談でも遊びでもなく、真剣な事情であると、日向は目で訴えた。
(何しろ、出雲か俺、どっちかの命がかかっているんだからな……)
「――わかりました。約束はできませんが、できる限り間に合うようにします」
「ありがとうございます」
日向は、安堵のため息を吐いた。
それから、待ち合わせの場所や時間について、彰に連絡をしようとする。
「――でも、本当に約束はできません。今日は、何か嫌な予感がします。
実は、お2人に話すかどうか、迷っていたのですが……
ここに来る前に、警察が私の自宅を訪ねてきました」
「「えっ?」」
日向と出雲が、同時に声を上げた。
「以前、お世話になった人が、警察にいまして。
その人が、久しぶりに会いに来たんです。
表向きは、『近くまで来たので、顔を見に』ということでしたが……
ここ数回の強盗事件について、話題に出してきました。
もしかしたら、既に何かを勘付かれて、疑われているのかもしれません」
「尾行されてない? 大丈夫?」
出雲が、後ろを振り返って言った。
「大丈夫だと思います。
一応、自宅付近は張り込まれていることを想定して、窓から出た後、できるだけ裏路地を通ってきました。
背後も、なるべく気にしていましたが、後をつけられている様子はなかったです。
ただ、警戒するに越したことはありません。
そうした事情もありますので、先ほども言った通り、できるだけイレギュラーは避けたいのです」
日向と出雲は、神妙な表情で、ゆっくりとうなずいた。
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