7−2
明神署の小さな会議室に、生駒と凛はいた。
凛は吹雪と通話をしており、生駒は隣で聞き耳を立てている。
「秋月くんが、学校に来ていない?」
凛が、自身のスマホに向かって言った。
『はい。あたしも心配で連絡してみたんですが、反応がなくて』
彰からの情報提供を受け、捜査本部はにわかに活気づいていた。
進展状況について、話せる範囲で共有するのと、追加情報がないか探る目的で、生駒たちは彰に連絡をとろうとしていた。
しかし、彼からは何の反応もなく、不安に思った2人は、吹雪に事情を伺ってみた、というわけだった。
『――そうなんですか。ドラゴンの仲間には、前科があったんですね』
凛からは、日向と長門の身元が判明したこと、長門に窃盗の逮捕歴があることを伝えていた。
もっとも、2人の氏名や居所については、伏せてある。
「秋月くんには、引き続き私たちも連絡をとってみるが……
もし彼から何か応答があれば、私たちに教えてほしい」
『わかりました』
そこで、生駒が凛のスマホを奪う。
「森さん。秋月くんは、また何か危ないことをしようとしているんじゃないっすか?」
電話の先の吹雪が、少しの間、押し黙る。
『……危ないことって、何ですか?』
「ドラゴンは、森さんのお姉さんを、ナイフで刺した男かもしれないっす。
秋月くんはそれを恨んで、自分の手で犯人をどうにかしようと、企んではいないっすかね?」
凛が、生駒に非難の目を向ける。
そんな話を、未成年の吹雪にするべきではない。生駒も重々、わかってはいた。
しかし、彼の不安は消えない。
ここ数日のやりとりで、彰の持つ危うさを、生駒は切実に感じていた。
『……わかりません。少なくとも、あたしには何も言っていませんでした』
「もし、彼から連絡があったら、絶対に危ないことはするなと――
ドラゴンについては、くれぐれも警察に任せるよう、きみからも言い聞かせてほしいっす」
吹雪が、スマホの終話ボタンを押す。
学校の屋上にいた彼女は、次の授業に間に合うよう、教室へと急いだ。
(彰、本当にどうしているんだろう……)
昨日の話では、彰は登校前に、消滅予定者の下見をするとのことだった。
その後、教室で合流し、2人で領域取得に向かうという約束をしていた。
しかし現在、彰は学校に来ておらず、連絡もつかない状況だった。
(何か、トラブルがあった? それとも……)
生駒の言葉が、吹雪の脳裏をよぎる。
彰が、日向を恨んでいるのではないか、という話だ。
実のところ、吹雪にもその不安はあった。
なぜ彰は、タトゥーの情報を、今まで隠していたのか。それは、復讐を考えていたからではないのか。
(彰ならやりかねない、か)
彰に尾行されていたことを知り、深雪は昨夜、そう言った。
彼女といい、生駒といい、皆が口を揃えて、彰の危うさを指摘している。
その上で、吹雪は1つ、ある懸念を抱いていた。
(今日の消滅予定者――橘出雲の居場所って、九頭町よね)
それは先日、日向に会うために、彰と向かった場所だった。
これは、はたして偶然なのだろうか。
今日、彰が学校に来ていないことと、何か関係はあるのだろうか。
その時、吹雪のスマホが振動した。
画面を見ると、彰からのメッセージを受信していた。
『学校が終わったら、九頭町に来てほしい』
今日は土曜日であり、学校は半日授業だ。
あと1つ授業を終えれば、放課後となる。
(もし彰が、何か無茶をしようとしているなら、あたしが止めないと)
たしかに、彰の深雪に対する想いは、度を越していると感じる面もある。
しかし、皆は知らない。深雪が今も無事でいられるのは、誰のおかげか。そのために、彰がどれほどの苦労をしているのか。
(彰は、あたしが守る)
そう決意し、吹雪は教室に入った。
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