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1−5

 翌朝。

 学校までの道のりを、彰はとぼとぼと歩いていた。


 昨夜、彼は早めに就寝した。

 とはいえ、連日の寝不足がたたり、体は今も倦怠感に包まれていた。


 また、この日は普段より1時間ほど早く家を出て、寄り道をしてきたことも、疲労の原因の1つだった。


「レンゴクアプリ、登録者の情報を教えて」


 イヤホンマイクから、いつもの無感情な声がする。


『内村綾子、36歳。現在地、明神市竹駒町五丁目。消滅予定時刻、本日17時29分』


 この女性の動きを、彰は昨日から、ずっと見張っていた。

 今日に至るまで、短時間の移動がわずかにあったものの、大きな動きはほとんどなかった。


 そのため、今いる場所は自宅なのだろう、と考えていた。

 仕事をしていないか、テレワークが主なのだろうと、あたりをつけていた。


 それを確かめるため、先ほどこの場所まで行ってきた、というわけだった。


 結果として、自宅という読みは正解のように思えた。

 そこは、よくある鉄筋コンクリートのマンションだった。共用部分の出入りは自由で、誰でもドアの前まで行くことができる。


 彼女がいると思われる部屋は、2階の角部屋だった。ポストからはみ出した郵便物の宛名に、「内村綾子」と書いてあったからだ。

 建物の大きさからして、独り暮らしなのではないかと考えられた。


(昨日からずっと、家にいるのだから。今日も、きっとそうだろう)


 それは、根拠の乏しい推測だった。


 しかし、下見ができて安心したせいか、彰は少し楽観的になっていた。

 加えて、竹駒町は帰り道とは反対方向であるものの、さほど遠くない距離であることが、彼の気を余計に緩ませていた。


『対象者の情報が更新されました。森深雪、領域解放までの時間、18時間0分』


 レンゴクアプリについて、彰が知っていることは少ない。

 それでも彼は、アプリとの会話や様々な試行錯誤から、いくつか理解したことがあった。


 1つ目、地図機能。

 現在地周辺の地図と、今から48時間以内に死亡する人間の位置情報が表示される。人間は、生存中は赤色の点で表示され、死亡すると灰色になる。点をタッチすると、その人間の氏名・年齢・死亡時刻が確認でき、ブックマーク登録することもできる。


 2つ目、会話機能。

 音声で会話できるほか、チャットウィンドウを開くことで文字によるやりとりも可能だ。また、ブックマークした人間の最新情報について、適時アナウンスしてくれる。


 3つ目、領域取得機能。

 死亡した人間には、解放までさらに48時間の猶予が与えられる。その間、死亡者の姿をスマホカメラで捉えることで、その人間の領域を取得できる。取得した領域は予定どおり48時間後に解放されるが、それまでは別の人間の情報を再配置することができる。


(領域? 取得? 再配置?)


 彰にとって、意味不明な用語も数多くあった。

 説明の細部までを、彼は理解しているわけではなかった。


 なぜ、こんなアプリが、自分のスマホに入っているのか。

 どんな経緯でインストールされ、そのことに、何の意味があるのか。


 こうした諸々の疑問について、いくら尋ねても、アプリは答えてくれなかった。


『情報を開示するには、ランクが不足しています。利用者、秋月彰は現在、ブロンズランクです』


 ここで、ランクアップという概念があることを、彰は知る。

 しかし、その条件についてもまた、何も教えてはくれなかった。


(ランクを上げて、より多くの情報が知れたら……

 僕の日常は、もう少し楽になるんだろうか?)


 しかし、別にこのままでいい、とも彰は思っていた。


 重要なのは、このアプリのおかげで、今も深雪のそばにいられるということ。

 そうした日常が続けられるのであれば、自分はどれだけ苦労しても構わない。


(これはきっと、深雪を死なせてしまった、僕への罰なんだ)


 今日の再配置の、メドは立っている。

 とはいえ、不安がないわけではない。


 死亡場所が自宅の場合、どうやって中に入るかが問題となる。


 先ほど確認した限り、ドアは施錠されていた。

 一昨日の老人のように、鍵が開いているなんてケースは珍しい。


 幸い、角部屋のため、壁をつたって侵入することはできそうだ。

 しかし、それはあくまで最後の手段だ。


(悲鳴が聞こえたと嘘をついて、警察に通報するのがいいかもしれない)


 登校する生徒たちの流れに乗って、彰が校門を通り過ぎる。

 この日、彼に大きな試練が訪れることを、今はまだ誰も知らなかった。

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