7−1
今回より、第7話に突入です。
潜伏先のマンションで、日向は電話を受けていた。
スピーカーフォンにしており、傍では出雲が聞き耳を立てている。
電話の先で、長門が言った。
『今、動くのは危険だと、上には散々申し入れたのですが……
結局、聞き入れてはもらえませんでした』
日向が、うなだれる。
「また強盗ですか……
俺と、出雲と、長門さんの3人で?」
『はい。
特に日向さんは、警察に捕まるリスクが、最も高いのですが……
先月の事件で、タトゥーを目撃されている可能性がありますからね。
ですが、上は汲み取ってくれませんでした。
何か切迫した事情があるのかもしれません。
仕事を断った場合、我々に対し、何らかの制裁を課すそうです。
そちらのマンションも、退去させる、と言われてしまいました』
日向は、ため息をつく。
ここを出ていかなければならないのは困る、というのが正直な思いだった。
「俺は、やるよ。金も必要だし。
そんなに危ない仕事じゃないんでしょ?」
出雲の問いに、少しの間、日向と長門は沈黙する。
『――ある老人夫婦の、自宅がターゲットです。
比較的やりやすい相手だとは思いますが……
先日の、加賀さんの例もありますからね』
前回の強盗の時も、相手は高齢の男性だった。
しかし、その相手は武道の経験者だったと思われ、反撃により加賀は命を落としてしまった。
(強盗に、危なくない仕事なんてないぞ……)
それに加えて、日向は1つ、ある重大な懸念を抱えていた。
『橘出雲、18歳。現在地、白竜市九頭町一丁目。消滅予定時刻、本日19時38分』
一昨日の夜から、レンゴクアプリに、この表示がされるようになった。
ちなみに、出雲本人には知らせていない。
(この強盗への参加が原因で、出雲が死ぬ、ということだろうか)
レンゴクアプリを手に入れて以来、日向はブックマークリストに登録された人物を、ネットで調べていた。
結果、そのほとんどが、既に亡くなっていることを知る。
そのため彼は、レンゴクアプリの「死者の情報を閲覧・操作できる」という触れ込みを、にわかに信じ始めていた。
(今日は、出雲に危険が及ばないよう、立ち回るつもりだったが……)
そこに、今回の強盗の依頼だった。
日向は、可能なら断るべき、と考えていた。
この依頼に応じることが、出雲死亡の一因である可能性は高いからだ。
しかし、出雲はやる気になってしまっている。
そうでなくとも、住処を取り上げられるとあっては、今の自分たちに拒否するという選択肢は事実上ないともいえた。
『日向さんは、どうされますか?
正直、降りるのも仕方がないと思っています。
ただ、上から不評を買うことは避けられず、あまり私も庇うことはできませんが……』
「やります」
結局、そう答えるしかなかった。
「大我、本当によかったの?」
長門との電話を切った後。
出雲が、日向にそう尋ねる。
「何とかなるだろ。ここを追い出されたら困るしな」
と、日向は笑ってみせた。
正直、彼に迷いがないわけではない。
逮捕されるのは可能な限り避けたく、いたずらに罪を重ねることも本意ではなかった。
しかし、日向は参加を決意した。
その最大の理由は、出雲のためだ。
(レンゴクアプリが示す未来は、変えられるんだろうか。
もしできるとすれば、それはこのアプリを持っている人間だけだよな……)
未来を知るからこそ、未来を変えることができる。
そう考えて、日向は1つの不安に辿り着く。それは、フレンド登録されている、彰の存在だ。
この数日間、日向はアプリの話を聞くために、彰と接触する機会を窺っていた。
しかし、今日まで見ていた限り、彼がオンライン表示になったことはなかった。
一体、彰は何者なのだろうか。
自分にレンゴクアプリをインストールさせたのは、彼なのだろうか。
不意に、出雲が日向に抱きつく。
「ありがとう。
参加するとは言ったけど、本当はちょっと不安だったんだ。
大我も来てくれるなら、安心できる」
日向が、出雲を優しく横に倒す。
そうして、2人の体が重なり合った。
今日は、12月16日、土曜日。
激動の1日は、こうして始まった。
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