表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/64

7−1

今回より、第7話に突入です。

 潜伏先のマンションで、日向は電話を受けていた。

 スピーカーフォンにしており、傍では出雲が聞き耳を立てている。


 電話の先で、長門が言った。


『今、動くのは危険だと、上には散々申し入れたのですが……

 結局、聞き入れてはもらえませんでした』


 日向が、うなだれる。


「また強盗ですか……

 俺と、出雲と、長門さんの3人で?」


『はい。


 特に日向さんは、警察に捕まるリスクが、最も高いのですが……

 先月の事件で、タトゥーを目撃されている可能性がありますからね。


 ですが、上は汲み取ってくれませんでした。

 何か切迫した事情があるのかもしれません。


 仕事を断った場合、我々に対し、何らかの制裁を課すそうです。

 そちらのマンションも、退去させる、と言われてしまいました』


 日向は、ため息をつく。

 ここを出ていかなければならないのは困る、というのが正直な思いだった。


「俺は、やるよ。金も必要だし。

 そんなに危ない仕事じゃないんでしょ?」


 出雲の問いに、少しの間、日向と長門は沈黙する。


『――ある老人夫婦の、自宅がターゲットです。


 比較的やりやすい相手だとは思いますが……

 先日の、加賀さんの例もありますからね』


 前回の強盗の時も、相手は高齢の男性だった。

 しかし、その相手は武道の経験者だったと思われ、反撃により加賀は命を落としてしまった。


(強盗に、危なくない仕事なんてないぞ……)


 それに加えて、日向は1つ、ある重大な懸念を抱えていた。


『橘出雲、18歳。現在地、白竜市九頭町一丁目。消滅予定時刻、本日19時38分』


 一昨日の夜から、レンゴクアプリに、この表示がされるようになった。

 ちなみに、出雲本人には知らせていない。


(この強盗への参加が原因で、出雲が死ぬ、ということだろうか)


 レンゴクアプリを手に入れて以来、日向はブックマークリストに登録された人物を、ネットで調べていた。

 結果、そのほとんどが、既に亡くなっていることを知る。


 そのため彼は、レンゴクアプリの「死者の情報を閲覧・操作できる」という触れ込みを、にわかに信じ始めていた。


(今日は、出雲に危険が及ばないよう、立ち回るつもりだったが……)


 そこに、今回の強盗の依頼だった。


 日向は、可能なら断るべき、と考えていた。

 この依頼に応じることが、出雲死亡の一因である可能性は高いからだ。


 しかし、出雲はやる気になってしまっている。

 そうでなくとも、住処を取り上げられるとあっては、今の自分たちに拒否するという選択肢は事実上ないともいえた。


『日向さんは、どうされますか?


 正直、降りるのも仕方がないと思っています。

 ただ、上から不評を買うことは避けられず、あまり私も庇うことはできませんが……』


「やります」


 結局、そう答えるしかなかった。





「大我、本当によかったの?」


 長門との電話を切った後。

 出雲が、日向にそう尋ねる。


「何とかなるだろ。ここを追い出されたら困るしな」


 と、日向は笑ってみせた。


 正直、彼に迷いがないわけではない。

 逮捕されるのは可能な限り避けたく、いたずらに罪を重ねることも本意ではなかった。


 しかし、日向は参加を決意した。

 その最大の理由は、出雲のためだ。


(レンゴクアプリが示す未来は、変えられるんだろうか。

 もしできるとすれば、それはこのアプリを持っている人間だけだよな……)


 未来を知るからこそ、未来を変えることができる。

 そう考えて、日向は1つの不安に辿り着く。それは、フレンド登録されている、彰の存在だ。


 この数日間、日向はアプリの話を聞くために、彰と接触する機会を窺っていた。

 しかし、今日まで見ていた限り、彼がオンライン表示になったことはなかった。


 一体、彰は何者なのだろうか。

 自分にレンゴクアプリをインストールさせたのは、彼なのだろうか。


 不意に、出雲が日向に抱きつく。


「ありがとう。

 参加するとは言ったけど、本当はちょっと不安だったんだ。


 大我も来てくれるなら、安心できる」


 日向が、出雲を優しく横に倒す。

 そうして、2人の体が重なり合った。


 今日は、12月16日、土曜日。

 激動の1日は、こうして始まった。

「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ぜひブックマークと5つ星評価をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ