6−7
「容疑者2人のうち、1人は日向大我、21歳。
交通系ICカードに登録されていた郵便番号は、白竜市のものだったっす。
また、移動履歴の内容から、彼は同市の九頭駅周辺に住んでいるものと思われるっす」
生駒は、2人の画像をスマホに映した。
金剛や捜査員たちが、それを回し見る。
「写真の、ネックウォーマーをしている方が、日向っす」
「こいつにマエは?」
金剛が言った。
マエとは、前科のことだ。
「ありませんでした」
と、凛が答えた。
「もう1人の男の情報は?」
生駒は、首を振る。
「彼らは、笠間町の駐車場に車を乗り捨てた後、電車で移動したっす。
お見せしている写真は、その際の笠間駅の防犯カメラ映像が元っす。
ただ、身元の発覚を恐れてか、この時は切符を買って改札を通過したっす」
「それなら、日向の情報はどうやって得た?」
「この後、彼だけが、現場に戻ってきたっす」
捜査員たちが、どよめく。
「目的は不明っすが、車を乗り捨てた駐車場に、日向は一度戻ったっす。
そこで、現場に居合わせた人物と、会話をしてるっす。
それから、再び笠間駅に移動し、電車に乗ったっす。
この時は、気でも緩んだのか、切符でなく交通系ICカードを使った、というわけっす」
「たしか、現場の周辺住民の証言で、18時頃に男2人の話し声がした、ってのがあったなぁ?」
「はい。日向と、そこで会った人物との会話と思われるっす」
「ふん。おまえらに情報提供をした目撃者ってのは、その会話相手か?」
「……はい、そうっす。
会話の内容は『ここで何をしているのか』という短いもので、それが済むと日向は、すぐにその場を立ち去ったようっす」
ふむ、と金剛は腕を組んだ。
「さらに――
実はこの目撃者は、日向ともう1人が車を放置した後、笠間駅へ向かう途中でも、すれ違っているっす。
その際、仲間の男が日向のことを、『ドラゴン』と呼んでいたそうっす」
「ドラゴンだぁ? コードネームか何かか?」
生駒が、うなずく。
「まだあるっす。
この目撃者は、白竜市で先月あった、宝石店強盗事件の現場にも居合わせているっす」
金剛が、勢いよく立ち上がった。
「あそこにもいたってのか! そいつ、マジモンの死神じゃねぇか!」
会議室の空気が、一気に緊張する。
「彼はその時、犯人がネックウォーマーで隠した、首元の肌を垣間見た、と言ってるっす。
そこには、双龍のタトゥーが彫られていた、とのことっす――」
「双龍のタトゥー? ――ネックウォーマー、ドラゴン?」
金剛が、捜査員たちに視線を送る。
もし、日向の首元から、双龍のタトゥーが見つかれば――
新たな情報を得て、瞳に熱意を灯した彼らは、力強くうなずいた。
「なぁ、これ」「ああ……」
2人の捜査員から、不意に話し声がした。
「おい、何だ?」
金剛が、2人に言った。
1人が、生駒のスマホを見ながら答える。
「この、日向の仲間と思われる、メガネの男ですが……
こいつ、おそらく長門優一郎です。
大黒市在住で、窃盗の常習犯です」
「マエがあるのか!」
2人は以前、大黒署で勤務していたことがある、とのことだった。
「管理官、どうしますか?」
凛の問いに、金剛は鼻を鳴らす。
「マエがあるなら、長門の住所はわかるな。
おまえら、記録を調べて、そこに行ってこい。
もしヤサを変えているようなら、役所に照会してみろ」
長門の情報を提供した2人が、うなずく。
「わかりました。
あと、日向についても一応、近隣の市役所に問い合わせてみます」
「ああ、頼む。
残りのメンバーは、九頭駅周辺で、日向の情報を集めろ」
金剛が、他の捜査員たちに向かって言う。
そのセリフをきっかけに、部屋にいた人間が、一斉に退出した。
「管理官、私は?」
凛が、意気揚々と尋ねた。
「おまえは留守番に決まっているだろうが」
彼女が、肩を落とす。
すると、やれやれ、といった様子で金剛が言う。
「……さっきの、『死神少年』とやらのことだが。
一度、きっちり調べた方がいいんじゃねぇのか?
約束したからよ、俺からはこれ以上、突っ込んだりはしねぇが。
叩いてやったら、まだまだ埃が出てくる気がするぜ、その小僧」
凛が、生駒を見て言う。
「彼に、同伴を頼んでも?」
「あぁん? そいつは部外者だろうが……
だがまぁ、おまえらが勝手に2人で動くってのなら、別に俺の知ったことじゃねぇけどな」
そう言って、金剛は不敵な笑みを浮かべた。
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