表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/64

1−4

 夕日が差し込む病室に、彰はいた。

 ベッドの上には、深雪が横たわっている。


「深雪、調子はどう?」


 そう、彰が尋ねる。

 すると、彼女は虚ろな目で、首を傾げた。


「……あ、そっか。深雪って、私か」


 と、彼女が急に、表情を和らげた。


「あなたは、昨日の夜に会った子よね?」


 彰は、首を振る。


「何を言ってるの。僕だよ、彰だよ」


「……彰? あ、彰だ!」


 深雪が、勢いよく体を起こした。


「昨日、アパートまで会いに来てくれたよね?

 私、すっごい苦しかったから、嬉しかった」


 彼女の反応に、彰は声を詰まらせてしまう。

 できるだけ明るく接しようと、奮い立たせた彼の気持ちが、一気に沈みかける。


(深雪には、悟られないようにしないと……)


 彰は、懸命に口角を上げた。


 彼女が話しているのは、昨晩の老人の記憶だ。

 レンゴクアプリで再配置をした直後は、こうして意識の混濁が顕著になる。


「そんなことより、もうすぐ深雪の誕生日だよ」


 それを聞いて、深雪が目を細める。


「……そっか。もうそんな時期なのね。

 懐かしいな。お婆さんが生きていた頃は、小さいケーキを分けて食べたりもしたけど」


 「お婆さん」とは、老人の奥さんのことだろう、と彰は思った。

 部屋の様子を見る限り、独り暮らしのようだったため、既に亡くなっているのだろう。


「今年は2人でお祝いしようって、約束したの覚えてる?」


「そう、だっけ?」


「忘れちゃった?」


 深雪が、申し訳なさそうにうなずいた。

 それから、記憶を絞り出そうとするかのように、指でこめかみを押さえる。


「……ねぇ、彰。今の私たちって、どういう関係なんだっけ?

 そんな、2人だけでお誕生日をお祝いするような仲だった?」


「……うん。でも今は、無理に思い出さなくてもいいよ」


 彰の言葉に、深雪が苦笑する。

 その顔を見て、彼は胸が張り裂けそうになった。


 彰にとってこの1年は、深雪との距離を縮めた、大事な時間だった。

 それが、今の彼女にとっては、なかったことになってしまっている。


 仕方のないことだ、と彰は理解していた。

 あの日、死んでしまった彼女と、こうして話ができるだけでも、奇跡なのだから。


(でも……

 勇気を振り絞って、交わしたあの約束を、簡単には諦めたくない)


 2人の想いが、やっと通じ合った時間を、彰は失いたくなかった。


「また来るよ。約束、覚えておいてね」


 彼が、やっとの思いで口を開く。

 泣き顔を見られまいと、素早く立ち上がり、急ぎ足で病室を出た。





 病院を出る彰の目は、少し赤くなっていた。


 スマホを取り出し、画面を見る。

 レンゴクアプリの地図上には、深雪がいるであろう位置に、灰色の点が表示されていた。


 彰は、その点をタッチする。


『森深雪、15歳。領域解放までの時間、33時間24分』


 そうしたテキストが、画面上に浮かび上がった。

 まだ猶予が1日以上あることに、彰は安堵する。


 それは、わかりきっていたことだった。

 彼はその表示を、今日だけで何度も確認していたからだ。


 しかし、彰にとってはこれだけが寄りどころ、唯一の支えだった。


(今日はもう、帰って休もう)


 幸い、次の死者については、すでに目星がついている。

 明日の夕方から動き出せば、それで十分なはずだった。


 目もとを擦っていると、背後から声をかけられた。


「彰」


 びくっ、と体を震わせる。

 振り返ると、見慣れた女子高校生の姿があった。


「吹雪……」


 彰は、不機嫌そうに視線を逸らした。

 それを見て、吹雪が気まずそうに話しかける。


「あ、深雪のお見舞いよね。いつもありがとう」


「別に。きみにお礼を言われることじゃないよ」


 なぜ、吹雪がここにいるのか。

 普段は滅多に寄り付かないのに、と彰は内心、悪態をつく。


 彰から見ても、深雪と吹雪の仲は、良好とは言えなかった。

 しかし、昔からそうではない。彼女たちの距離が離れ始めたのは、やはり小学6年生の夏からだろう。


 その日を境に、彰の吹雪に対する感情も、親愛から嫌悪に変わったのだった。


 深雪とのやりとりで受けたショックや、寝不足のせいもある。

 気持ちがささくれ立っていた彰は、大きく舌打ちをし、吹雪のそばを通り過ぎた。


「……ね、ねぇ。最近、ちゃんと休めてる?

 深雪に会いに来るのもいいけど、もう少し自分のことも気遣いなさいよ。ね?」


 吹雪が、彰の背中に声をかける。

 彰は、振り返らずにこう言った。


「僕にはもう、二度と関わらないで」


 彼女の心配が、今の彰にはただただ煩わしく思えた。


(休め? 自分のことも気遣え? 何もわかっていない。

 僕が放り出してしまったら、深雪は本当に死ぬんだよ……)


 苛立ちを押さえながら、彰は足早にその場を立ち去った。

「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ぜひブックマークと5つ星評価をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ