5−7
夕食を終えた日向は、リビングでくつろいでいた。
出雲は、キッチンで洗い物をしている。
日向も手伝おうとしたところ、「俺は料理できないから、せめて片付けは任せて」と断られていた。
横になりながら、日向はスマホを眺める。
画面には「レンゴクアプリ登録」というボタンがあった。
(これは一体、何だ)
説明らしきものは、何もない。
ネットで調べても、それらしい情報は皆無だった。
(してみるか、登録)
危険だと判断したら、消せばいい。
そう考えて、日向はボタンをタッチした。
すると、彼のスマホが、ひとりでに喋り始めた。
『日向大我が、利用者に登録されました。ようこそ、レンゴクアプリへ』
「うわっ!」
日向が、思わず声を上げた。
視線を向けてくる出雲に対し、何でもない、というジェスチャーを送る。
(びびった……)
日向が、改めて画面を見る。
そこには、彼の住む白竜市と、隣の明神市の地図が表示されていた。
地図上には、いくつか丸い点が置かれている。
「何なんだ、レンゴクアプリって」
そう日向がつぶやくと、
『レンゴクアプリは、死者の情報を閲覧・操作できるソフトウェアです』
と、人工音声による回答が返ってきた。
(死者の情報?)
試しに彼は、地図上の丸い点をタッチした。
すると、誰かのものと思われる名前・年齢・現在地といった情報が表示される。
その中の、最後の1項目に、日向は首をかしげた。
(――消滅予定時刻?)
不穏な言葉が続き、日向は感じ始める。
利用者登録をしたのは、誤りだったのではないか、と。
(ん?)
画面の隅に、「登録リスト」というボタンがあることに、日向は気がついた。
そのボタンをタッチすると、新たな画面が表示される。
フレンド。
秋月彰【オフライン】
ブックマーク。
蟹江敬三、内村綾子、斉藤初音……
「ブックマーク」の一覧には、合わせて十数人の名前が登録されている。
これらのうち、内村綾子以外は、すべてグレーアウト表示となっていた。
(秋月彰……)
「フレンド」欄に名前があるのは、どういう意味か、と日向は考える。
この人物が、自分をアプリに招待した人物だろうか。
(まさか、あの少年?)
先ほどの外出時に、街で見かけた男子。
加賀の死亡現場で出会った少年に、似ているような気がした。
彼が、自分にこのアプリの利用者登録をさせたとして。
その目的は、一体何なのだろうか。
試しに、秋月彰の名前をタッチする。
すると、画面にポップアップが表示された。
『情報を取得できません。オフラインです』
(ダメか)
続けて、内村綾子の名前に触れてみる。
『情報を取得できません。消滅までの残り時間が、48時間を超えています』
それならば、とグレーアウトしている人物も試してみた。
『情報を取得できません。既に解放されています』
日向は、大きく寝返りを打った。
これでは、まるで何もわからないではないか、と。
(……待てよ。死者の情報、消滅、解放?)
「何してるの?」
洗い物を終えた出雲が、隣で画面を覗き込んでくる。
「ん? あぁ、ちょっとな」
日向は、リストにあった名前を、ブラウザで検索し始めた。
「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ぜひブックマークと5つ星評価をよろしくお願いいたします。




