5−6
日向と出雲は、最寄り駅である九頭駅に来ていた。
そこは、白竜市の中でも一際大きな乗り換え駅だ。
駅前のショッピングモールで、2人は買い物に精を出す。
「……さすがに買い過ぎじゃないか、これ」
「いいでしょ。あって困るものじゃないし」
出雲が、拗ねたような表情で言った。
その顔を見て、日向は笑みをこぼす。
商品でいっぱいになったカートを押しながら、2人はレジに並んだ。
「レジ袋はどうなされますか?」
そう店員に問いかけられると、出雲は日向を盾にした。
「大きいのを多めに、お願いします」
と、日向は答える。
本人の言うとおり、出雲は人前に出るのが苦手なようだった。
人の多い場所へ行くたびに、こうして日向の影に隠れていた。
(この状態で、さっきはよく、1人で買い出しに行ってくれたものだ)
彼の胸が、少しだけ痛んだ。
日向の背中に隠れる時、彼の服の裾を、出雲は決まって掴んだ。
その感触に、日向は悪い気はしていなかった。
店を出ると、日はすっかり落ち、あたりは暗かった。
2人の両手は、それぞれ大きな荷物で塞がっている。
「帰るか」
「うん」
駅前の大通りを、潜伏先のマンションへ向かって歩く。
周囲は、帰宅途中であろう社会人や学生で溢れていた。
途中、赤信号で立ち止まっていると。
ふと、日向は前方から視線を感じた。
横断歩道の向かい側。
それを渡ろうと、自分たちと同じように、信号待ちをしようとしている一団。
その輪から、ほんの少し離れた位置で、学生服を着た少年がこちらを見ていた。
(あの子、まさか昨日の?)
加賀を置き去りにした場所で、出くわした少年。
日向は、人の顔を覚えるのが得意だった。
しかし、やや距離があるのと、夜の薄暗さもあり、確信を持つまでには至らなかった。
(似ているだけか……?)
少年が、日向にスマホを向けた。
(何をする気だ?)
不意に、日向のポケットから、人工的な音声が聞こえてくる。
『レンゴクアプリに招待されました。利用者登録を行ってください』
(何だ?)
「大我、ケータイ喋ってない?」
日向は、スマホの画面を見た。
隣の出雲も、覗き込んでくる。
(……レンゴクアプリ?)
日向が、前方に視線を戻す。
少年は、信号が変わらぬ間に、青信号だった横方向の横断歩道を歩いていた。
そのすぐ後ろを、同じ学生服を着た少女が、ついて行くのが見えた。
地味な印象の少年とは対照的に、彼女の髪色は明るく、スカートの丈が短い。
異色のカップルだな、と思っていた直後……
少女の振り返った顔を見て、日向は絶句した。
(あの子は、あの顔は――!)
それは、先月の宝石店強盗の折……
日向が、ナイフで刺してしまった、女子高生の姿だった。
(髪色や、雰囲気は少し違うが、間違いない!)
事件から、既に1月ほど経過していた。
彼女が快復し、こうして普通に出歩いていることは、日向にとっても救いだった。
しかし、そう思ったのも束の間。
彼は、別の疑念に囚われる。
(なぜ、ここに?)
強盗をした場所は、白竜市の戸隠町だ。
そこで出くわしたことで、日向は彼女を、地元の子だと思い込んでいた。
しかし、その限りでないことは、少し考えればわかることだった。
少女の住まいは、このあたりだったのだろうか。
あの日は、たまたま戸隠町へ来ていただけだったのだろうか。
少年との関係も気になる。
彼らは元々、知り合いだったのだろうか。
自分と因縁のある2人が、一緒になって、目の前に現れた。
はたしてこれを、偶然と呼べるのか。
(どうする、追うか?)
いつの間にか信号が変わり、立ち止まっていた通行人が、一斉に歩き出した。
それにより、少年たちへの視線が途切れる。
「大我、どうしたの? 早く行こうよ」
と、出雲が顔を覗き込んできた。
「あ、いや……」
出雲に急かされ、日向が歩き始める。
横断歩道を渡り終えた時には、少年たちの姿は見えなくなっていた。
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