5−3
生駒と凛は、死体が発見された場所に来ていた。
見つかったのが今朝ということもあり、まだ数名の警察官が残っていた。
「なぜ自分は、こんなところに連れてこられてるっすか……」
生駒が、あたりをきょろきょろと見回す。
部外者が紛れ込んでいると知られたら面倒だ。
「誰も私と組んでくれなかったんだ。仕方ないだろう」
(日頃の行いのせいじゃないっすかね)
「捜査会議で、先輩にはどういう指示があったっすか」
「署で電話番をしていろ、と言われた」
(なぜ、現場に来ているっすか……)
「暇だからな。さて、目撃者に話を聞きにいくぞ」
遺体の発見者は、現場の隣地にある、古い平屋の住人だった。
生駒と凛が、その人物を訪ね、家の前で事情を聞く。
高齢の男性で、既に仕事は引退しており、昨日もずっと家にいたとのことだ。
夕方頃から、廃工場の駐車場に車が停められていることに、気がついてはいたらしい。
しかし、そうしたことはこれまでも度々あったため、特に意識していなかったようだ。
「そのあと、暗くなってからですね。
駐車場で、話し声がしたんですよ。
だから、車を取りに来たのか、って思ったんです。
でも、今朝になってもまだ、車が停まってたので。
おかしいな、って思って、中を覗いてみたんです。そうしたら……」
(人が死んでいた、と)
「話し声がしたのは、何時頃ですか?」凛が言った。
「18時くらいだったと思います」
「どんな会話でした? 人数とか、声の特徴とか」
「短い会話でしたよ。
内容はわからないけど、少人数だったと思います。
聞こえたのは、男性の声で……
たぶん、若いんじゃないかな。10代後半とか、20代前半くらい」
「他には、何かありましたか?」
「その1時間後くらいですかね。また話し声がしたんですよ。
そっちは、男女の会話でした。こちらも、若い声でしたね」
(――若い男女?)
「若いって、もしかして、高校生くらいっすか?」
「えっ? …………うーん、まぁそうですね。
それくらいの年齢でも、おかしくないかな」
凛が、質問を続ける。
「2人は、どんな様子でした?」
「そうですね……
仲良く会話するというよりは、少し言い争っている雰囲気でしたね」
「会話の内容で、覚えていることはありますか?」
「そう言われても、ほとんど聞こえなかったから……
ああでも、女の子の方が、こんなことを言ったかな。
――『あんたのやらなきゃいけないこと』って」
生駒と凛が、顔を見合わせた。
現場から笠間駅までの道のりを、2人は歩いていた。
車を乗り捨てた犯人は、電車で移動したと思われるためだ。
「どう思うっすか?」
「まだだ。予断を許すには、早すぎる」
その意見に、生駒も賛成だった。
しかし、凛があえてそう言うのは、既にある想像が浮かんでいる証左でもある、と感じていた。
(――死神少年)
深雪が病院を脱走した日以来、会っておらず、噂を耳にすることもなかった。
しかし、彼は相変わらず、人死にの現場を巡っているのだろうか。
(だとしたら、危ないっすよ)
「このあたりは、人通りが少ないな。目撃者は期待できないかもしれない」
凛の言う通りだった。
以前は活気があったであろう、多くの店舗が立ち並ぶその通りは、今ではほとんどがシャッターを閉め、通行人は皆無だった。
「防犯カメラがあれば、有力な手がかりになったかもしれないっすけどね」
ふむ、と凛が考え込む。
「駅まで行けば、いくつか見つかるかもしれないな。頼んでみよう」
「そんな勝手なことをして、また怒られないっすか?」
生駒の問いに、凛が不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ。今更だろう?」
こうして、2人は笠間駅へ向かった。
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