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5−2

 潜伏するマンションのキッチンで、日向は料理をしていた。

 食材はつい先ほど、出雲に頼んで買ってきてもらっていた。


 日向が、リビングをちらりと見る。

 出雲は、テレビを消すこともせず、ひたすらスマホを触っていた。


(やっぱり、女にしか見えない……)


 決して、女性らしい格好をしているわけではない。

 しかし、あどけなさの残る、丸みを帯びた顔立ちは、年頃の少女と見間違えてもおかしくない、愛らしさを纏っていた。


 突然一緒に住めと言われても、どうすればいいのか。

 日向は、出雲にどう接するべきなのか、悩んでいた。


 作った料理を、日向がテーブルに運ぶ。


「まぁ、あれだ。とにかく、食べようぜ。

 朝飯なのか昼飯なのか、よくわからない時間だけどな」


 少し声が上擦りながら、日向は出雲に食事を促す。

 出雲は無言で箸を持つと、料理に口をつけ始めた。


「……おいしい」


 その一言で、日向の緊張は、わずかに和らいだ。


「なぁ、クロウ」


「出雲でいいよ。そっちは、日向さんでいい?」


「ああ、それでいい……。

 おまえ、この仕事は初めてか? それとも、もう何度かやってるのか?」


「簡単な運び物なら、何回か。強盗は、まだしたことない」


「悪いことは言わん。やめた方がいい」


「それ、どの口が言ってるの?」


「後悔しているからだよ、俺も。おまえ、若いだろ。いくつだ?」


「18。大して変わらないでしょ」


「その年齢と見た目なら、真っ当な働き口はいくらでもあるだろ。

 何でよりにもよって、この仕事なんだ?」


 出雲が、箸を置いた。


「……普通のところじゃ、働けないんだ。


 俺、こんな見た目と性格だから、ずっと虐められてて、学校にも行ってなかった。

 今でも、大勢の人を目の前にすると、呼吸が苦しくなるんだ。普通の仕事は無理」


「家族はどうしたんだよ」


「両親は、俺が小学生の時に死んだよ。


 それからしばらく、親戚の家に居候してたけど、勘当された。

 医療脱毛やホルモン注射で、勝手に借金を作っちゃったから」


 出雲が、自分を蔑むような笑みを見せた。

 その姿を前にして、日向はやるせない気持ちになる。


「行くところがないのなら、仕方ないけどよ……。

 でも、一線は越えるなよ。殺しとか、薬物とか」


「ふぅん。優しいんだ。見た目は怖いのに」


 出雲が、今度は悪戯っぽく笑う。

 日向は、思わず視線を逸らした。


「……しかしおまえ、本当に女にしか見えないな」


「そう?」


 出雲が、日向の手を取り、


「確かめてみる?」


 と、自らの股間に押し当てた。


 驚きのあまり、日向は最初、事態を飲み込めずにいた。

 しかし、次第に手のひらに、温かな感触を捉え始める。


(……なるほど、確かに「ついてる」な)


「ふん。小さいな」


「そ、そう?」


 出雲が、慌てて自身の股に目をやる。

 それから、ゆっくり日向に視線を戻すと、照れ笑いを浮かべた。


 その姿を、日向は、可愛いと思ってしまった。


 彼は、出雲という存在に、困惑していた。

 見た目は、美少女と言って差し支えない。にもかかわらず、その下半身は、紛れもない男性のそれだった。


 日向は、異性愛者を自認している。

 しかし、こうして出雲と見つめ合っていると、そうした認識の境界が、曖昧になっていく。


 背徳感を抱きつつも、なぜだか無性に、情欲を掻き立てられた。


(たしかに、ここしばらく、ご無沙汰ではあったけども……)


 出雲が、うっとりとした表情で言う。


「……直に、触ってほしい」


(いや、男のイチモツを、握らされてもな……)


 出雲が、自身のジーンズの中に、そっと日向の手を入れた。


「……んっ」


 出雲が、艶っぽい声を出す。

 そのまま、日向の唇を見つめると、ゆっくり顔を近づける。


(まぁ、いいか……)


 眼前に迫った出雲の口元に、日向は唇を重ねた。

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