4−8
翌朝。潜伏先のマンションで、日向はテレビを観ていた。
テーブルを挟んだ向かい側には、様子を見に来ていた長門が座っている。
ニュース番組では、自分たちが行った強盗事件のことで持ち切りだった。
その中では、襲撃犯のうちの1名が店主の反撃にあい、腹部を刺されたことも報じられていた。
また、今朝になり、現場から離れた廃工場の駐車場にて、身元不明の男性が遺体で発見された、とも触れられていた。
死因は腹部の刺し傷による失血死とみられることから、警察は強盗事件との関連を調べている、と――
「加賀さん、死んじゃったんですか……?」
日向が、絞り出すような声で言った。
一命を取り留めていた可能性に、淡い期待を抱いていた彼にとって、このニュースは衝撃だった。
「残念ですが、仕方ありません。
病院に連れて行くなどすれば、私たちは警察に捕まっていたでしょうからね。
あの状況では、どうすることもできませんでした」
長門が、無感情な声で言った。
(本当にそうなんだろうか。
加賀さんの命が、俺や長門さんの保身よりも、軽いなんて……
それにしても、なぜ彼の死体は、今朝になるまで発見されなかったのか。
昨日、ワゴン車を乗り捨てた駐車場で、出くわした男子。
学生服を着ていたことから、中学生か高校生なのだろう。
彼は、救急車を呼んだと言っていた。
なのに、加賀さんが病院に運ばれず、あの現場で死亡していたというのは、一体どういうことだろう?
あの少年の言ったことは、嘘だった?
どうして、俺にそんな嘘をつくのか。
俺を怪しんだため、これから人が来ることを匂わせたかった?
しかし、それでは救急隊を「呼ばなかった」理由にはならない。
まさか、加賀さんに死んでほしかった?
あの少年にとって、その方が都合が良かった、とか?)
日向は加賀を助けようと、一度は現場に戻った。
しかし、居合わせた少年の一言で、救助は既に呼ばれているものと誤認してしまった。
それにより、彼は何もせず引き返してしまい……
結果、翌朝になって、加賀は遺体で発見された。
ついに一線を超えてしまった、と日向は感じていた。
しかも、自分が意図しない、不意打ちのような形で。
(……覚えてろよ、少年)
そう、日向は歯ぎしりをした。
「上からの指示も、『何もするな』とのことでした。
特にドラゴン、あなたは以前の仕事で、タトゥーを目撃されている可能性がありますから、『しばらく身を隠していろ』とのことです。
なので、日向さんは当分の間、仕事から外れ、外出もしないでください。
昨日は、あれからまっすぐ帰られましたね?」
長門の問いに、日向はうなずく。
現場に戻ったことは黙っていた。
「でも、外出するなと言われても、完全には難しいですよ。
最低限、飯とか日用品の買い出しはさせてもらわないと。
加賀さんがいなくなって、今この部屋は俺1人ですから」
「ああ、まだ伝えていませんでしたね。その点はひとまず、心配ありません」
日向が、首をかしげる。
すると、タイミングを見計らったかのように、部屋のインターホンが鳴った。
「ちょうど来ましたね」
長門が、玄関に赴く。
戻ってくると、背後に1人、見知らぬ人物を連れていた。
(女?)
自分より、少し年下か、と日向は思った。
黒髪のボブに、黒いパーカー、黒いジーンズ。
「加賀さんが抜けてしまった穴埋めに、メンバーが補充されました。
いきなりですが、今日から一緒に、この部屋に住んでもらいます。
……言っておきますが、この子は男性ですからね?
買い出しや何かは、しばらく彼にお願いしてください」
驚きのあまり、日向は何も返せずにいた。
すると、黒髪の彼が、遠慮がちに口を開く。
「橘出雲。コードネームは、クロウ。よろしく」
今回で、第4話は終了です。
次回より、第5話「不作為」を開始します。
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