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4−7

 彰と吹雪は、駅から自宅までの道のりを歩いていた。


 2人の口数は、少ない。

 特に吹雪は、彰から真実を聞かされて、大きなショックを受けているようだった。


 加賀の死亡現場を離れたあと、駅までの道中で、彰はこれまでのことを詳細に話した。

 深雪が、死亡したこと。そして、レンゴクアプリのこと。それは、人死にに関する未来がわかるアプリであるということ――


 それは、決して彰が、吹雪に気を許したからではない。

 実は、彼にはある思惑があった。


「……あんた、1人で色々と抱えてたのね」


 少し落ち着いたのか、吹雪がようやく口を開いた。


「同情ならいらないよ。僕は、やりたくてやってるんだ」


「でも、彰……


 さっきの話が本当なら、やっぱりあんたは、誰かが死ぬとわかって、現場に行ってたのよね?

 そして、特に助けることもせず、むしろ予定どおりに人が死ぬよう、動いていたってことでしょ?


 それって、生駒さんが言ってたとおり、犯罪なんじゃ――」


 おそらく、そうなのだろう、と彰は思った。

 特に今日は、加賀の死を待つ間、ずっと罪悪感が押し寄せ続け、彼の神経を大きくすり減らした。


 確かに、彼は加賀に対して、何らの危害も加えていない。

 しかし、瀕死の人物を眼の前にして、助けを求められたにもかかわらず、何もしなかった。


 これは、今までとは次元が異なるケースだと、彰自身も感じていた。

 何もしていないからといって、自分のしたことは許されるのか。甚だ疑問だった。


「わからない。でも、吹雪には関係ないよ。


 きみに話をしたのは、別に手伝ってほしいからじゃない。

 ちゃんと事情を話したのだから、これでもう本当に、僕には関わらないで。


 位置情報アプリも、今日で削除するから」


「……アプリのこと、気づいてたのに、何で黙ってたのよ」


 彰が、位置情報アプリを削除しなかった理由。

 それは、吹雪に真実を暴かれるのは、時間の問題だと思ったからだ。


 彰にとって、吹雪にアプリを仕掛けられたことは、少なからず衝撃を受けた。

 しかし、一本木で凝り性な吹雪は、時折こうした凄まじい行動力を見せることを、幼馴染である彰はよく知っていた。


 そのため、位置情報アプリを削除したところで、何も解決しないと考えた。


「それが使えなくなったら、次は別の手段で、僕を調べたんじゃないかな?

 だったら、むしろ残しておいた方が、きみの動向が読みやすいと思って」


 加えて、実のところ彰自身、ここ最近の活動で、心身ともに疲れ切っていた。

 深雪のためと虚勢を張ってはいるが、誰かに話を聞いてほしいという思いも、頭の片隅に存在していた。


 もしかすると吹雪なら、自分を見つけて、その想いを理解してくれるかもしれない。

 彰本人ですら自覚していない感情が、アプリの削除を思い止まらせていたのだった。


「それじゃ、何で今になって、全てを打ち明けたの?」


「……きみに2つ、頼み事があるからだよ」


 そう言って、彰はスマホを吹雪に向けた。


「吹雪も、レンゴクアプリの利用者になってほしい。どうかな?」


 先ほどのランクアップで解放された、招待機能。

 これで、他人をレンゴクアプリに招待し、利用者を増やすことができるらしかった。


 なぜ、彰は吹雪にそんなことを頼むのか。

 それは、招待機能に関するレンゴクアプリの説明に、重要な一言があったからだ。


『招待機能を使い、3名以上の利用者獲得に成功した場合、招待者には、新たに特典機能が解放されます』


 彰は、レンゴクアプリのランクアップに、大きな可能性を感じていた。

 今はまだ、深雪を元に戻せたとは言い難いが、このままランクを上げ続ければ、いずれ完全復活させることも、夢ではないのではないか。


「わかった。いいわよ」


 吹雪が、うなずいた。


 彰は、レンゴクアプリ画面上の、招待ボタンをタッチする。

 スマホの表示が、カメラ画像に切り替わった。


 画面に表示された枠に合わせて、吹雪の姿を映す。

 すると、彼女のスマホが、ひとりでに喋り始めた。


『レンゴクアプリに招待されました。利用者登録を行ってください』





 吹雪がレンゴクアプリの登録を済ませると、2人は彼女の家に向かった。

 今、彰は「森」の表札の前で1人、佇んでいる。


 吹雪は家の中へ、深雪を呼びにいっていた。

 彰が言った、2つある頼み事のうち、最後の1つを叶えるためだ。


 少し待つと、吹雪が深雪を連れ、外に出てきた。

 彰の顔を見るなり、深雪は眉間にしわを寄せる。


 深雪に向かって、彰が言う。


「先に言っておくけど、僕は、きみを見捨てたわけじゃないからね。

 さっきも伝えたけど、僕が見つけた時にはもう手遅れだったんだ」


 それは、加賀に向けたメッセージだった。

 再配置をした直後は、対象者の生前の記憶が強く残っているためだ。


「……ええ。今なら、あなたが言ったこと、嘘じゃなかったとわかる」


 深雪が、仕方なさそうに言った。


(予想どおり。これなら現場の時と違って、ちゃんと話ができそうだ)


「あんたの頼みどおり、深雪を連れてきたけど。

 それで? わざわざ呼び出して、次は何がしたいのよ?」


 と、吹雪が不機嫌そうに言った。


「深雪。きみに聞きたいことがある」


「何?」


 彰が、声を低くして言う。


「ドラゴンって人のことを、教えてほしい」


 途端に、深雪の表情がいきり立つ。

 憎くて仕方がない、といった顔だ。


「あの人たち、許せない。必ず報いを受けさせて」


 そう言う深雪の瞳を、彰は黙って見つめていた。

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