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4−2

 教室に、チャイムが響き渡る。

 退屈だった授業が終わり、吹雪は大きく伸びをした。


(次は、移動教室か)


 面倒だな、と彼女は思った。


「このあとって、科学室だよね? みんな、遅れないでね」


 吹雪の席から、少し離れた場所。

 クラスの人気者たちが集う一画で、深雪が周りに声をかける。


 その声をきっかけに、大勢の生徒が、ぞろぞろと教室を出ていった。


 深雪の退院から、数日が過ぎていた。

 毎日ではないが、意識がはっきりしていて、体調がいい日は登校するようになっていた。


 今でも時々、記憶が曖昧になり、意味不明なことを口走ることはあった。


 しかし、そうした深雪の状態について、既に周囲には一定の理解が広まっていた。

 友人たちのサポートもあって、彼女は今日まで大きな問題もなく、過ごすことができていた。


 元々、深雪は友人が多かった。

 学級委員でもある彼女は、周囲からの人望が厚く、いつもクラスの中心にいた。


(本当に、あたしとは大違いよね。双子なのに)


 吹雪が、自虐的な笑みを浮かべる。


 彼女は、決して嫌われ者ではない。

 しかし、深雪がいる今のクラスにおいては、親しいと言える友人がいなかった。


 以前から、特に中学時代からは深雪と少し距離ができ、互いに異なる友人関係を築くことが多くなった。

 しかし、誰とでもすぐに距離を縮める深雪に比べ、吹雪は人と打ち解けるのに少し時間がかかる方だった。


 そのため、吹雪が今のクラスに、やっと馴染んできた頃。

 深雪は、クラスメイトの大半と、親しげに話すようになっていた。


 吹雪にとって、深雪と同じクラスであるという現状は、苦痛でしかなかった。


 友人を作る機会を奪われ、教室から自分の居場所がなくなっていく感覚。

 双子という事実から、常に深雪と比較され続ける、周囲からの好奇の目。


(早く2年に上がって、クラス替えがしたいわ)


 とはいえ、自分はまだマシなのかもしれない。

 そう思いながら、吹雪は窓際の席に目をやる。


 今日もまた、授業のほとんどを寝て過ごし、いまだ机に突っ伏したままの男子。


「彰、起きなさい。次の授業は科学室よ」


 彼が、ゆっくりと体を起こす。

 声をかけてきたのが吹雪だと知ると、不機嫌そうに顔を背けた。


 いつものことだ、と吹雪は気にしないよう努める。


 深雪が学校に来るようになってからも、彰との関係は相変わらずだった。

 彼は依然として吹雪を毛嫌いしていて、同じクラスにいながら、2人が会話をすることはほとんどなかった。


 吹雪が入れた位置情報アプリは、彰のスマホから削除されず、残ったままだった。


 深雪が病院から失踪した日以来、吹雪は彰の尾行をしていない。

 しかし、アプリの表示から、彼が今も人死にの現場を回っていることに、気づいてはいた。


 そのことに、吹雪は困惑していた。

 彼のそうした行動は、深雪のためであると、心のどこかで信じていたからだ。


(そうだとしても、こいつのやっていることは、わけわかんないけど)


 一体、彰は何をしているのか。


 吹雪は、生駒の言葉を思い出す。人が死ぬと知っていて、その場所に行くことは、知らずに法を犯している可能性がある、と。

 そうしたリスクがあるにもかかわらず、ただの酔狂や物好きというだけで、わざわざ現場に足を運ぶのだろうか。


 生駒の話を聞いて以来、吹雪は他人の死に関わることが怖くなった。

 そのつもりがなくとも、自分が犯罪者になってしまうかもしれない。そう考えると、今も死体を求めて歩き回る彰に、軽々しくついていこうとは思えなくなった。


 彰が立ち上がり、出口へ向かう。

 足取りはふらつき、見るからに疲労困憊の様子だった。


「……ねぇ。あんた、今日もどこかに出かけるの?」


 思わず、吹雪は尋ねてしまった。


「吹雪には、関係ないよ」


 背を向けたまま、彰が冷たく返す。


「そうは言ってもあんた、クタクタじゃない……

 そんなふうになってまで、一体何がしたいのよ」


「うるさい。僕には関わらないでって、何度も言ってるでしょ」


「また、人が死ぬところへ行くの?

 警察の人も言ってたじゃない。やめろって」


「……やらなきゃいけないことがあるんだ。

 言っても、きみは理解しないよ。絶対に」


 そう言って、彰は教室を出ていった。


(やらなきゃいけないこと?)


 彰の背中を見送りながら、その言葉の意味を、吹雪はしばらく考えていた。

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