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3−7

 彰たちを病院へ送り届けた後。

 生駒と凛は、一度署に戻った。


 案の定、生駒の上司は、激怒していた。

 前日のサボタージュの罰として、内勤を命じられたはずが、それすらも放り出し、他課の調査に同行していたからだ。


 自分1人では、到底なだめられそうになかった。

 しかし、凛の口添えのおかげで、大事には至らずに済んだ。


「私が生駒くんに同行をお願いしました。非は私にあります」


 何の言い訳にもなっていないが、それで相手を黙らせるのが、いつもの凛だった。

 トラブルメーカーであるのは間違いないが、一応、周囲からは一目置かれている。


「誰が、トラブルメーカーだ」


 凛が、ビールをごくごくと飲み干した。


(まぁ、天城先輩とは関わりたくない、というのが課長の本音だろうっすけど……)


「失礼な。そちらの課長とは、仲良くさせてもらっている。先日も、別の事件でご協力いただいたばかりだ」


「あれは、巻き込んだと言うっす。その時期の課長、胃薬をがぶ飲みしてたっすよ」


 と、生駒は追加のビールを注文した。


 2人は、明神署からほど近い居酒屋に来ていた。

 同僚たちもよく利用する、それなりに評判の店だ。


「しかし、あの子たちは結局、何も喋らなかったな」


 あの子たち、とは、彰たちのことだ。

 車内で色々と聞き出そうと、凛に運転を代わってもらったが、成果はほぼゼロだった。


「自分たちのこと、かなり警戒していたっすね。

 特に、秋月くんは、なかなか手ごわそうっす」


 凛が、次のジョッキに口をつける。


「しかし、おまえ。あの子たちのこと、どうするつもりだ」


「どうするつもり、とはどういう意味っすか?」


「挙げるつもりなのか、という意味だ」


 ふむ、と生駒は腕を組んだ。


「先輩は、彼らのこと、どう思ったっすか?」


 凛が、2杯目を飲み干して言う。


「よくわからん。


 特に、深雪という子が現場に赴いた理由は、見当がつかない。

 ただ、彼女は精神的に不安定、と言っていたしな。


 他の2人から、昨日の事件に関する話を聞いて、それがどうしても頭から離れずに、足が向いてしまった、などとは想像しているが」


 説得力には欠けるが、否定もしきれない、と生駒は思った。


「吹雪という子は、行動だけ見れば怪しいとも思えるが……

 今日、話をした限り、『何も知らない』というのは、嘘ではないように見えた」


「まぁ、自分も同感っすね」


(やっぱり、最も怪しいのは、秋月くんっすね)


「彼は、何かを隠している。それは間違いない」


「今日、たっぷり脅しをかけたっすからね。

 これで反省して、もう変なことに関わらないようになれば、それでいいっす」


「挙げるつもりはない、ということか?」


 生駒が、苦笑する。

 実のところ、「彰たちを捕まえる」という考えは、彼にはさほどなかった。


 元々、争いごとが嫌いな生駒が、警察官を志望した理由。

 それは、人々の争いを予防するような仕事に就こう、と思ったからだった。


 そのため、彼の仕事のモチベーションは、起こった事件を調べることよりも、事件を起こさない、というベクトルに向いていた。


 しかしそれは、警察官の手柄として見えにくい。

 一見、不真面目そうに見える生駒の姿と相まって、彼の周囲からの評判は、率直にいうと悪かった。


「私をトラブルメーカー、とはよく言えたな」


 いつの間にか注文していた、3杯目のビールを、凛が空にする。


「いいんっす、自分は。出世も手柄も、興味ないっす」


 この先、彰たちが危険なことに、手を出さなければそれでいい。

 今回の自殺幇助についても、立件できるような証拠は、現時点で何一つないのだ。


 生駒から見ても彰は、根っからの悪人のようには見えなかった。

 おそらく、これまでにしたことも、違法ラインの手前か、超えていたとしても軽微なものだろう。


 まだ、引き返せる。


(ただ、情報源は知りたいっすね……

 それがあれば、犯罪者予備軍のようないかがわしい連中を、一網打尽にできそうっすけどね……)


「もし、秋月くんがまた現場に現れたら、その時はどうする?」


「そうっすね……」


 警察官に疑惑を持たれたということは、本人も実感しただろう。

 自分がしている行為が、犯罪である可能性も、今日をもって認識できたはずだ。


(その上で、もし再び現場にやってくるなら。それは一体、どんな理由なんすかね――)


 生駒のまぶたが、急激に重くなる。

 酒の酔いと、昨日の寝不足がたたり、彼の意識は睡魔にさらわれていった。

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