3−3
病院までの道のりを、彰は歩いていた。
昨日は彼にとって想定外のことが多すぎた上に、それまでの疲労も溜まっていた。
そのためか、家に帰ると夕食をとることもせず、気絶するように眠ってしまった。
警察署からの帰り道。
彰と吹雪の間に、会話はほとんどなかった。
彼女に聞きたいことが、彼には山ほどあった。しかし、それは向こうも同じだと考えられた。
自分が先に口火を切ってしまえば、その後にくる、質問の嵐に耐えられなかったに違いない。
今の彰に、吹雪を納得させる説明はできなかった。
それが真実であっても、嘘であっても。
(……それにしても、厄介そうな人に目をつけられてしまった。
あの、生駒という警察官。
吹雪が尾行されるくらいだから、きっと僕たちは、何かしらの疑念を持たれているのだろう。
今にして思う。
昨日の尋問は、あの人の主導で行われたんじゃないだろうか。
天城という刑事は、僕たちのことや、その背景をあまり理解してなさそうだった。
本当は、生駒さんが自分で話を聞きたかったのだけど、何か事情があって、やむを得ず他の人に頼んだのかもしれない。
所属は、生活安全課と言っていた。
僕たちのことを調べるのは、彼の通常業務の範疇なのだろうか。
よくわからない。が、現に色々と動いてそうに思えるのは事実だ。
もしかしたら、警察という組織は、意外と柔軟なのかもしれない。
僕が怪しまれるとしたら、なぜ人死にの現場に現れるのか、という点だろう。
闇サイトか何かで、事件の情報を得ている、と思われているのかもしれない。
でも、僕はそういう情報を、自分で調べたことがない。
人が死ぬ情報など、そんな簡単に手に入るものなのだろうか。
インターネットの中だって、警察が目を光らせているという話は、わりとよく聞くけど)
生駒は、自分にとって今後、大きな障壁となるのではないか。
彰には、そう思えてならなかった。
(僕のしていることは、罪に問われることなのだろうか。
たまに、軽微な違法行為をしていることは否定しない。
例えば、他人の家に、無断で忍び込んだこともあった。
悪いことをしている自覚はある。
でも、決して誰かを傷つけるためじゃない。
ましてや、自分の手で人を殺めたことなど、断じてない。
あらかじめ死ぬと決まっている人の最期を、見届けているだけだ。
罪悪感はある。
道義的には、責められても仕方がないと思う。
でも、それらは「犯罪者」として扱われるほど、ひどい行いなんだろうか――)
そんなことを考えているうちに、彰は病院の入口まで辿り着いていた。
ロビーに入ると、何やらスタッフたちが、慌ただしく動き回っている。
「秋月くん!」
深雪を担当する看護師が、こちらへ駆け寄ってきた。
息を切らし、青ざめた顔をしている。
「森さんを見なかった? 病室からいなくなっちゃったの」
彰は、顔を強張らせた。
「どこに行ったのかしら。心当たりはない?」
彰は、首を振る。
看護師は困り果てている様子だった。
「僕、近くを探してきます」
そう言って、彼は外に移動した。
レンゴクアプリを起動し、深雪の位置を探す。
ブックマーク登録をしているため、居場所の特定自体は容易だった。
深雪は、電車で移動しているようだった。
(この方向は――)
彰の脳裏を、悪い予感がよぎった。
なぜ、そうした可能性を想定できなかったのかと、自分の浅慮さを悔やむ。
(急がないと!)
彼は、駅に向かって走り出した。
「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ぜひブックマークと5つ星評価をよろしくお願いいたします。




